蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「ダイ、ライオウ……」
降臨した巨駆を見上げて、おれは静かにその名を呼ぶ
胸に獅子の頭はない。幾らかダメージから完全な姿をしておらず、何ならそもそも今のダイライオウ自体が個別の支援機形態と合体形態をLIO-HX以外捨てた簡易版
本来に近い完全体は、完成の目処すら立っていないが一つだけ完成形が突然生えてきた
「……皇子」
「大丈夫だ、アルヴィナ」
「そうじゃ、なくて」
突然無くなった左腕の傷口を少女はペロリと舐める。そして、自身の纏う屍を連ねた衣から、一本の骨の腕を差し出した
「うぐ!?」
無理矢理な接合。燃える赤焔にアルヴィナの手が炙られるが、少女は顔をしかめつつもそのまま骨をおれの肘に突き込んで……
不意に、意のままに動く。骨だけで出来ているのに、おれの思ったままにその左腕が……
「っておいアルヴィナ、これ右腕だろ」
両右腕じゃないかこれ。間違ってるぞアルヴィナ?
「……ごめん、でも……」
「そうか、呪いか」
その申し訳なさそうな表情に理解する。そもそもおれに普通の回復魔法とか効く筈が無いからな
そんな事を考えているとこくりと頷きが返ってくる
「狂い骨腕の呪い。本当は変な腕を無理矢理追加で生やして、感覚を狂わせる対生者の死霊術」
それを、本当の腕がないから逆に治療擬きとして行けるって活用したということだろうか
「無い腕の代わりになるけど、呪い。長時間使ってると呪いが侵食してしまう」
「いや、大丈夫だアルヴィナ。どうせ……」
紅の
「竪神もおれも、長時間戦える状態じゃない。すぐに決着をつける」
生成されるのは焔の翼。ATLUS相手に使ったことがある飛翔する力
長時間使うと背骨が燃えるが、そこまでの時間使う気はない。それに……
鞘がない為無理にベルトに挟んだ愛刀の柄に目を向ける。そうだとも、ATLUSの時と異なり、愛刀月花迅雷がこの手にある。共に奴に立ち向かったアルヴィナを護るために、手を貸してくれ!
いや、それを言うなら頼勇もその時共に戦った相手なんだが……
(というか、良くおれに手を貸してくれましたねご先祖様)
と、おれは心の中で右手の赤金の轟剣に語りかける
始水パワーで無理に呼べるようになっているというのは、
『
故に、魔神とも共に歩めると信じ決めたなら駆け抜けよ!未来を拓くならば、力となろう!それが影法師として残った役目というもの!』
「……応!」
焔の翼を打ち振るい、空へと……
「『オーバーライオウ・アァァクッ!』」
その体に降り注ぐ緑光の拘束。何度も見た光による拘束能力、ライオウアークの強化版だ
だが!弱い!本来の発生装置である獅子の頭がない今なら!周囲の増幅装置等で補正して無理矢理に使おうとしたところで!
「裁きの時だ!ライオブラスター!」
空から降り注ぐのはビーム砲。LI-OHとて遠距離武器の幾らかはある!が!
「紅の牙!」
おれを止めたと、思うな!焔を纏って腕の拘束を砕き、覚悟を込めてビームへ向けて全力で轟剣をぶん投げる
光と剣が激突し、燃えながらビームを切り裂いて走るが……
「それで決着が付くと思うか、屍の魔神!」
背のウィングが粒子を吹き出すや残像を残して加速し剣の軌道から機神の姿は消え、すぐにアルヴィナの目の前に……
「伝!哮!雪歌ァッ!」
完全に拘束が解けた瞬間、空を蹴って空いた右手に愛刀を構えて神速の突きを放つ。といってもLIO-HXの装甲を貫けない火力、当然ダイライオウにも効きはしないが、そもそもこれは移動技!
肩の装甲を背後から掠めてアルヴィナの眼前に飛び出すや、おれの姿に一瞬だけ振りかざした剣を振り下ろす事を躊躇した機械巨獣に向けて……
「もう一度だ、竪神ィッ!」
即座に手元に呼び戻した紅の牙をぶん投げる!
「ジェネシック・フィールド!」
が、それはオーラの防壁に止められ……
ジェネシック・フィールド!?あの精霊障壁を実用化しているとでも……
「……ふかし。その力は感じない」
と、アルヴィナがおれの横に寄ってきてフォローしてくれた
「屍使いは騙せないか。怯えて欲しかったが……」
「
でも、と少女姿ではおれの足手まといと思ったのか狼にまた姿を変えながら(案外好き勝手変身できるようだ。いや、アルヴィナ達だけか?シロノワールも結構好きに人と烏を切り替えるものの、四天王はそうでもないしな)アルヴィナは身を震わせた
「それとは違う、恐ろしい存在」
「……ああ」
「沢山の願いが折り重なった、百獣の王。死霊術使いとして、あそこまで怖いと思うゴーレムは、ない」
「ゼルフィードよりか?」
「あとらす、くらい」
……スペック的にも、フルスペックなら結構単独で良い勝負出来そうな性能には仕上がっているからな、分からなくもない
いやそもそも、あのXに対抗するために多くの人が手を取り合って作られたのがAGX-ANCt-09《ATLUS》なのだろうし、本来の制作経緯としても似たようなものなのか
「想いを束ねし百獣王……」
空を舞う機械巨神は静かにおれの出方を待つ
あくまでも目的はアルヴィナの撃滅。おれを殺す気は無いようだ
ならば!
「吼えろ!紅の牙!」
剣を投げ放ち
「抜翔断!」
それを追って雷撃と共に空を斬り駆け上がる!
先んじて飛んでくる空の機械神はジェット型の支援機の大きなエンジンが接合されることで完成した腕で掴み
「ブースト!ナックル!」
そのままおれへ向けて打ち下ろす!
飛んでくるのはおれの上半身以上もある大きな
当たれば当然無事では済まない。だが……
分かっているんだろ、頼勇。当たる筈無いと!
「皇子」
突如、斬り上げで空へと舞うおれの足元に硬いものが生えてくる。鳥のような死霊
そう、アルヴィナが死霊術で補助してくれるからな、とその足場を蹴って軌道を変えながら跳躍。斬り上げをキャンセルして雷を突っ切り、狼姿で駆け出して落ちてくる鉄拳から対比したアルヴィナを視界の端に入れるや更に用意された屍の階段を一足飛びに駆け上がる!
これなら、タイムリミットは遠い!無理矢理轟火の剣で飛ぶより、負担は少ない!
「竪神ぃぃっ!」
そのまま逆手に握り直した(両右腕だと持ちにくい!)愛刀を背後に構えて……
「ロック!バースト!」
「っがっ!」
そんな機能が!?パーツ同士の接合が解け、戦車型の上半身の支援機の一部が所謂ビット兵器として横殴りにおれを吹き飛ばした
物理的な攻撃だからそうダメージは無いが、階段で駆け上れば打ち落とされるか!
「くっ!」
「タテガミさんっ!あんまり……」
「分かっているさ!」
加速して巨神はおれの前から消えた
ならば!とおれも焔の翼でアルヴィナの前に降り立つ
その瞬間には既に、大地を踏み締めた巨体の背後の砲塔パーツが肩まで展開され、巨大な主砲がアルヴィナを狙う。背のウィングも砲塔にくっついている為衝撃を受け止めるべく背後にエネルギーを流し、何時しか戻ってきていたジェット噴射する為に穴の空いた両の鉄拳の先にも光が灯りだす
「雷王砲フォーメーションか」
「バチバチする」
アルヴィナが苦しげに呟く
そう、雷王砲フォーメーション。40機のレーザー砲を撃てるようにした空飛ぶあの船のジェネレーターとLI-OHのエンジン等を直結して放つ最大砲撃。周囲に放出された集約前のエネルギーだけで違和感を覚えるレベルの最強技の一角!
空中ではウィング全力噴射してもなお制動しきれないため、地上でアンカーを打ち込まなければ安定した命中を狙えないが、火力は十分!
精霊障壁を物理火力でぶち抜けないかとおれの提案で頑張ってアイリスと制作したものだからな!
効くかは試せてないが、一回だけ虚空に舞うアイアンゴレームに向けて試射した火力的には……跡形もなく消し飛んだので正確には測れないが恐らく数値に直して650+400程度。クリアさせる気あんの?なアホみたいな調整だった最大難易度でも被ダメージ半減二つで1/4した上からラスボス最終形態のHP(当然のカンスト400)を約1/3持っていく試算になる。絶対にHP3割切った時の必殺技を撃たせる執念すら感じたあの調整の竜魔神王をHP1/3程から倒しきれるって可笑しい火力だ
射線一帯抉れたクレーターしか残らないぞそんなもん!?
「正気かよ、竪神!」
おれどころか背後の街まで吹っ飛ぶ!
『……アンカー固定』
アイリスの声と共にガコン、とふくらはぎから出た鋼鉄のアンカーが地面と脚を縫い付ける
「ロダ兄!流石にこいつは」
「はっは!良く見て受け止めな、ワンちゃん一号!」
いや喧嘩ってレベルか!?ダイライオウとデュランダルがそもそも過ぎた力だが、雷王砲はもう言い訳つかない過剰火力!
なのに手は貸してくれないか!
「くっ!」
横に避けるか?いや、アンカーで固定したとはいえ腰は回る。多少ブレても当たるし、横に逃げても避けきれはしないか!
なら突貫?いや、間に合わない!先に撃たれる!
ならば!
「アルヴィナ!」
水平方向には強くとも!上下には!
焔の翼を解き放ち、理解してくれた友人がおれの首筋にぶら下がった瞬間に地を蹴って空へ!試算上空に向けて撃てば反動をアンカーでも軽減しきれない!
「雷王砲!発射ァッ!」
轟く爆音!近くに雷でも落ちたのかという音に鼓膜は蹂躙され、光がおれとアルヴィナを追う
……普通に撃てている!?反動でブレずにか!?そこまで改良が出来てたのは流石に想定外っ!
それでもっ!ならば!
「電磁!刀奉!」
本来は鞘と合わせて撃つが、電気をある程度通さない右腕な左腕骨の隙間を無理矢理レールにして……
アルヴィナのフードを愛刀で貫いて引っ掛けるや電磁投射式に射出!無理矢理最速で逃がすまで!
「……駄目!」
げがごぉっ!?
が、それを撃った瞬間、首を襲うとてつもない衝撃に胃の中身(胃液と血しかもう無いが!)をぶちまけながらおれの体も更に上空へと打ち上げられた
その足だけを過剰火力の光が掠め……
って痛くないし、何なら消し飛んで感覚が無くなった訳でもない
ふと下を見れば、赤熱していない砲塔を定位置に戻すダイライオウの姿があった
そうか、空間飛んでくるATLUS相手にせめて!と作った幻影装置で撃つ気がない最大火力を撃つように見せかけ、無理矢理な逃走をさせたのか!
忘れていた、焦りでその可能性にまで辿り着けなかった!
「はァッ!」
見れば分解していては砲塔自身が耐えきれない筈のパーツがビットとして分離している。空をもっと見れば気がついた筈なのに!
「ライオビット!」
空飛ぶ鳥のようなどこか三角に展開したビットが、射出されて空中に放られた黒髪少女を強く打ち据える。アルヴィナが咄嗟におれの首に引っ掻けたろう内臓のロープに引かれたおれごと、その小さな体は機械恐竜によって凍らされ砕かれた家の残骸に墜落した