蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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竜籠、或いは女扱い

「あー、うっぜ」

 「忌み子め……」

 「まーた女の子増えてるよ……」

 

 っておい、聞こえてるんだが?と皮肉の一つでも言いたくなる状況で、おれは不平不満があれど並ぶ生徒達を見回した

 

 「頼勇様を独り占めして……」

 「仕方ないよ、相手聖女様だもん」

 なんて頼勇の奴は女性陣から残念がられているというのに、おれに向けられるのはなかなかにアレな言葉ばかりだった

 

 「聖女様。何か問題を起こしたというその忌み子を連れていくなど」

 何か男子グループから一人外れ、代表(リーダー)らしい青年がおれからちょっと離れた場所で私最後だしねーとのんびりしているリリーナ嬢に話しかける姿が見えた

 「いや、一応婚約者だし」

 「貴女様に、聖女様に忌み子は相応しくない」

 自身の胸にとんと手を当てて力説する青年。淡い色合いの髪と目が、割と当然の事を力説する

 

 「それにです聖女様。今年の行き先はトリトニス、あのおぞましい忌み子が大きな被害を残したという……」

 ……そうだな、とおれは地面に目線を向ける

 竜籠乗り場近くの草原の短い草がそよ風に揺れて心地よい空気を出しているはずだが、とてものんびりすることは出来なかった

 

 トリトニスでの戦闘自体、おれが起こしたようなものだ

 アルヴィナとしても、幾ら茶番劇とはいえ、人気の無い山奥に一人で向かっておれと決闘するとかそういった明らかに自分に利の無い作戦なんて押し通せやしない。街を襲って沢山の死者を出すという、本人の死霊術の性質上どこか可笑しいがぱっと見成立する名分を作って攻めてくるしか無かった。

 それは分かるが……。結果的に過保護な兄テネーブルによってだろうがトリニティ、そしてその中に紛れた真性異言(ゼノグラシア)が現れたのは、その計画をおれが良しとしたからだ

 

 そうだ。彼等の街を壊したのも、死者が出たのも……究極的にはおれとアルヴィナの責任だ

 「ちょっと!」

 怒ったようなリリーナ嬢の声が響く

 「良い、リリーナ嬢」

 「ゼノ君!そもそもゼノ君達が頑張らなかったら大きな被害どころか、死の街にされてたんだよ!」

 

 アルヴィナが横で耳をぺたんと伏せた

 元凶二人して、やらかしてたなぁ……と黄昏るしかない

 

 「次、龍二班、時間よ」

 と、ノア姫の班資料片手の声が聞こえ、青年はけっ、とおれを睨み付けると皆の元に帰っていった

 「しかも聖女様以外にも女二人連れて、ペットまで

 ご立派な」

 という捨て台詞を残して

 

 助かった……んだろうか。

 ん?待て待て待て

 変じゃないか?と思っておれは自身の属する班(修学旅行中は神一班と呼ばれるらしい)のメンバーを見回した

 最初に出発するのがアナ達の班として、おれ達は最後だから皆手持ち無沙汰だったりして思い思いに過ごしている

 案外選ばれた皆、交流無いしな……

 

 まず、おれからちょっと離れて憤慨している婚約している聖女様

 次に、おれの横でしょんぼりするアルヴィナと、静かに龍二班と呼ばれた彼等の背中を睨む烏姿の兄シロノワール

 ずずんと体育座りするオーウェンと、それに悪縁なんざ気にするな!と声をかけるロダ兄

 そして、元気出すんじゃよーと上半身……は割と甲殻でゴツゴツしているからか、尻尾を押し付けてオーウェンを慰める犬っぽいアウィル

 最後におれ。以上五人+一頭+一羽の大所帯。うち女性はアルヴィナとリリーナ嬢だけだ。一応アウィルは性別的には雌だが

 

 「アウィルも女の子に含めたのか……」

 二人ってことはそうだろう

 「ううん、僕だと思う……」

 顔色悪く、少しふらつきながら告げたのは、少しの間体育座りしていた黒髪の少年オーウェン。かっちり着こんだ男子制服の尻に葉の切れ端が残る

 

 「……そうなのか?」

 と、首をかしげるおれ

 いやまあ、と一応オーウェンを見下ろす。確かにおれより頭一つくらい小さな彼は、身長……160無いな多分。156cmくらいか?

 そして、結構ふわふわの黒髪に、中性的な愛らしい顔立ち。くりっとした紫の目も幼さを色濃く残す大きさ。正直なところ、ちょっとピンクのグロスでも薄く唇に塗り、そして可愛らしい女の子っぽい服でも着た日には女の子で通るだろう。ルー姐は意識して女装してるし結構大変なんだーって言ってたが、オーウェンに至っては素で行けるかもしれない

 

 「うんそうだよね。オーウェン君って素で男の娘だし」

 「そうだな、ちゃんと男の子だよオーウェンは」

 ……待てリリーナ嬢。何だか発音が変じゃなかったか?

 

 「うん、有り難う皇子」

 尚も顔色は青ざめ気味で、小さく組み合わされた手指が震えているのが見える

 「本当に大丈夫なのか?」

 「だ、大丈夫……

 僕は男で……」

 けほっと咳き込む少年

 「本当に大丈夫か、辛いなら」

 

 「皇子」

 小さな手招きに、何か他に聞かれたくないんだろうと当たりをつけて少年と目線を合わせ、耳を近付ける

 「……女の子扱いされるの、苦手なんだ。昔……ううん、僕が早坂桜理って呼ばれてた前世で、女みたいって僕はからかわれて……」

 耳許でささやくハスキーボイスの音程が落ちる

 「親からも、女みたいだからと酷いこと、されたんだ

 だから、大丈夫。昔を思い出してしまっただけ」

 それは大丈夫とは言わないのでは?

 

 おれがふとした時に護れなかった者達の事をフラッシュバックするように、万四路の夢を見て腕を血が出るまで掻きむしるように、彼にとってそれはもう平気じゃない気しかしない

 

 「休むか?」

 「嫌だ。言われて逃げたら、男らしくない」

 その声は震えていて

 けれど、しっかりと強い意志を感じた

 

 「そうだな、オーウェン

 大丈夫。おれは分かってる、君の優しさという勇気を。だから元気出せ、君は女々しくない、外見は確かに少し頑張るだけで女の子に見えるとしても、心が違う。君はちゃんと男らしいよ」

 その言葉に、ほっとしたように少年は息を吐いて、どこかすがるようにおれを見た

 

 「ゼノ君。それを女の子で頑張って勇気を出して聖女やろうとしてる私に聞こえるように言わないで欲しいかなー

 ほら、その言い分だと女の子は勇気がないって罵倒じゃん?」

 そして、じとっとした目でリリーナ嬢に責められて、おれはすまないと謝らざるを得なかった

ということで、次はオーウェン君等回となりますが……オーウェン君にも恋とかさせてあげたいのです。読者の皆様的に、相手は?

  • リリーナとか良くない?
  • お前も男装女子ヒロインにならないか?
  • 誰かに片想いで十分だろ
  • 此処で空気なウィズですよ

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