蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
ぱちぱちと焚き火の音が響き渡る
「良し、そろそろ出来たかな。アウィル、有り難うもう良いぞ」
焚き火の横、電流で熱を持たせた鉄鍋の中身を軽くかき混ぜて確認し、隻眼火傷の皇子は小さく頷いた
その言葉を受けて、人間二人を乗せて駆け抜けた白狼は咥えた鍋を石を並べた上に置く
「はい、オーウェン。ノア姫程アウトドア料理になれてないし、アナほど料理自体巧くないけれど、食べられる味のはず」
そう言って、彼はまず大きなコップ?に取り分けた穀物と干し肉で出来た食べるスープを差し出してくる
「……うん、有り難う」
僕は、それを受けとると両手できゆっと包み握った
掌に感じるのは暖かな温度。湯気の立つそれを、まず一口啜ればちょっと僕には塩気の強い味が口の中に広がる
「ごめん、しょっぱかったか」
思わず顔に出てしまったのだろう、どこか申し訳なさげに言ってくる皇子
「ううん、良い。作って貰っただけで、とっても嬉しいから」
それに慌てて、僕はパタパタと手を振った
「あ」
当然そうしたら、カップから片手が離れ……
「大丈夫か?」
ほんの一瞬。瞬きの後には刹那で立ち上がった青年が落としかけたカップを持ってくれていた
左右でかなり違う手の感覚が僕の右手を包み込む
僕の思う白馬の皇子らしい磨かれた布のような左手と、ゼノ皇子そのものな傷痕とタコにまみれた雨風に打たれて風化した堅岩のような右手。あまりのギャップと近すぎる顔に心臓が跳ねる
「オーウェン?」
はっと気が付いたように青年の顔と手が離れた
少しだけ名残惜しく感じてしまうそれが、自分で嫌になる
やっぱり、男らしくって思っても……ゼノ皇子だけは参考にならない
「大丈夫か、ぼーっとして
掛かったのか?」
「ううん。手の落差にびっくりしただけ」
そんな僕の発言に青年は苦笑して手を合わせてみせた
皇子の肌に近い色をしてる左手より右手はちょっと黒い。無数の血と汗が染み込んで変色している
「そっか、左手は」
「ノア姫達のお陰で一度落ちたのが生えてきたんだけど、まだまだ感覚戻りきってないな。お陰で、ニコレットのお眼鏡に叶いそうな色と形になったけど」
ま、もう婚約解消されて縁もないが、と自嘲する皇子。その表情はどこか安堵を浮かべていた
「ま、おれの傷は良い。不人気な手で悪かった」
「ううん、男らしい」
「オーウェン、おれみたいな手を目指したら駄目だぞ」
優しく右目を細め、僕の為か塩気をまろやかにしようと野菜を小さく煮ながら青年は自身の手元に目線を落とした
「貴族令嬢は今のおれの左手みたいな手を好む。右手みたいなのは、治せる金か人望かが欠けてる貧しい手だって、見ただけで残念がられるよ
だから、君の元の世界ではどうか知らないけれど、この世界で男らしくありたいなら……おれは参考にするな」
うん、元から参考にならない。どうしてか憧れの気持ちが出てこないから
そう言いたいけれど、その理由が分からなくて僕はくちをつぐみ、良し焼けたと皇子が差し出してくる鹿みたいな魔物の肉を受け取った
「傷と言えば、胸は大丈夫か?」
大振りに切られた肉に口をつける寸前、青年の言葉にびくりとして目線を上げてしまう
「ほら。包帯巻いてるだろ?」
ほんの一瞬心臓部を叩かれたとき、と僕は理解する。あの瞬間に、彼は包帯の存在に気付いていたんだと
「だ、大丈夫。ちょっと訓練で胸に突きをされて、大事を取って巻いてるだけ……だから」
「そっか、アウィルなら活性化で治療してやれると思うけど、要るか?」
任せるんじゃよ?とばかりに彼の言葉に合わせて狼が耳と尻尾をピン!と立てる
けれど、僕は良いと首を横に振る。誰もそれ以上言っては来なかった
「……変な味」
一口齧ると、口の中に広がるのは……そうとしか表現できない独特の臭みのある味。決して美味しくはない
「そうだな。肉食の魔物だったっぽいな……
血抜きとか、ノア姫は上手いんだけどおれじゃ不十分だったか」
「でも、ワイルドで良い」
ぽつりと漏らすのは、僕の本音
「ああ、ありがとうなオーウェン」
「ううん。本当に。こういうの、昔の僕じゃ考えられなくて……」
「昔、前世か」
「……うん」
こくりと頷いて、皇子が野菜の出汁で塩気を薄めてくれたスープを一口
「前世のこと、聞かないんだ」
少しして意外そうに僕は告げる
彼には聞いて欲しかった。なのに、何も言わないし、何も求めない。ただそこに居て、助けてくれる
「話したいなら聞くよ
だけどおれは……正直さ、背負いたくないんだ。君がどうして男らしさに拘るのか」
「背負う?」
「君の苦しみを知れば、それを解決するために動かないと駄目だろ?
それが嫌で、おれは聞かないんだ。助けてと言われないと助けない、塵屑だろ?」
……いや、そもそも苦悩を知ったら助けに入るのが当然って前提がまず可笑しいのでは……?
と思うけれど、だからこそ見返り無くただ母を助けて貰った僕としては、何も返せなかった。ただ、小さく俯いて少し美味しくなったスープを啜るだけ
「……言えば、聞いてくれるんだ」
「そりゃあな。それを無視したら皇族失格だろ」
「……なら、言って良いかな
僕は、オーウェン。前世の名前は早坂、桜理」
彼には知って欲しい。助けを求めるのではなく、僕自身も良く分からない何かに突き動かされて、僕は言葉を紡いだ
ということで、今回はオーウェン君編です。その為、早坂桜理視点が多発しますが御容赦ください
喜べ桜理少年。君の願いはある意味叶う。ヒロインと恋落ちするが良い。