蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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桜理、或いは見つけた光

「桜理」

 何も言えない。おれなんて、恵まれまくっていて

 

 「皇子、どうしたの?」

 なんて、辛い事を思い出している当人に心配すらされる始末

 「いや、あまりの自分の恵まれた状況にちょっと自己嫌悪しただけだ」

 「いや、皇子の境遇って中々酷くない?」

 「酷くない」

 「……対外的には地位があるから?力があるから?

 でも、早坂桜理(ぼく)は一般的に言えば上流の家庭で、それでも……」

 痛ましいように、彼はその紫の瞳でおれを、特に左目の辺りを見る

 

 「辛さから、僕は自分の顔を理科室の酸で焼いた

 でも皇子は、同じ焼けた顔でも……立ち向かった証なんだよね」

 いや、これ普通に父親が発破かけようとして呪いで焼き付いたってお馬鹿な傷なんだが?処置を間違えたからこうなってるだけで、燃える家に飛び込んだとか轟火の剣で体を燃やしたとかそういったものは治せてるんだよな

 

 「いや、やらかしただけというか……」

 「ううん、僕にはそう見えるから、そう思わせて」

 と、少年はおれが中身を継ぎ足したカップをきゅっと握る

 

 「だからね、僕が話したゲームの話っていうのは、その時ずっと病院でやってたものの記憶なんだ

 男らしかったら、もっと早く体がちゃんと男に成長していたら、それよりまず性格が違ったら……っ!

 そう思って、男らしくなりたくて、ずっと沢山の創作物に触れていた」

 「そうだな、間違いじゃない」

 病院から外に出れないなら、創作物で知るしかないだろう

 ってか、誰かの理想が創作には出てくるから理想論を振りかざしたいなら正しい選択だ。こうあれればと憧れるには便利っていうか

 

 事実、おれだって帝祖を目指してるところがあるしな

 

 「皇子は知ってるよね、この世界が乙女ゲームって言われてること」

 やってたからな、当然だと頷く

 「僕、男なのに……って思われるだろうけど、女の人の理想の男らしさが分かる気がして、そういうものにも手を出してたんだ」

 可笑しいよね、と少年の前髪が揺れる。完全に桜色した一房が定着してるというか……上手く黒く染められてないな

 

 「いや、エッケハルト居るだろ?

 彼も真性異言(ゼノグラシア)つまり転生者なんだが、あいつも元から男だ

 そして、小説版の表紙に描かれていたヒロインが可愛かったからって理由でゲームやって、二次創作?活動もしてたって凄い奴」

 「す、凄い熱意……」

 ほえー、と呆けた顔になるオーウェン

 

 「だから、男が"乙女"って付いてるゲームをやる事くらい、案外普通にあるから気にするな。そんなんで男らしくないなんて言わないよ

 何ならアステールって女の子が少年向けの『魔神剣帝スカーレットゼノン』を書いたりするんだぞ?」

 なんて茶化しておれは微笑もうとした

 

 「……うん

 そうして、何時の日か、僕は死んだんだ

 死んだ時の事は良く覚えてない。ずっと一人で、父が死んだからそこそこお金は残って、好きに物は買えたし……

 物があれば大人しいからって、病院の中でも結構放置気味。だから、全然分からないけど……」

 

 目を閉じて一息吐くと、少年はきゅっと右手を握り一口スープを啜った

 

 「気が付くと、僕は赤子になってたんだ

 最初は絶望したよ。何でって」

 「……そう、なのか」

 おれはその感覚がちょっと分からない。やるべき事があって、それを果たせなくて

 何処か知らない場所でも、それを果たせる可能性が繋がった。例え自己満足でも、正直転生を有り難いと思ってしまったから

 

 「うん。物心付いた頃に、ちっちゃな子供の手には余る黒鉄の腕時計が腕に巻かれていて、その瞬間に自覚したから」

 と、カップを置いて少年は虚空から腕時計を呼び出す。ユーゴのものと同じ、とてつもなくゴツい黒光りする鋼のベゼルを持つ二本針の地球式時計。装飾は多少違う気がするが、かなり豪奢だ

 「ちょっと見せられるか?」

 「うん、はい」

 大人しくオーウェンは従ってくれ、おれの手にずしりとした重さが乗る

 

 ってか、滅茶苦茶重いな。この掌サイズで、竜水晶の塊か何かか?って程重い。

 ちなみにだが、月花迅雷に使われる竜水晶(ドラゴニッククォーツ)だが、確か体積辺りの重量が金の2.3倍くらいある超重金属だ。生半可な人間では重すぎて振れない。いや、その割にゲームでは重量結構軽かったんだが……まあ、刀って細身だからな。轟火の剣サイズだと人間の持てる重さしてないと思う

 

 六枚羽に展開しそうなベゼルとか、結構厨心くすぐられる造形してるが……

 当然おれじゃあうんともすんとも言わない。ただ、GJT-LEXも纏っていた何処か底冷えのするおぞましい絶望と言う冷気を湛えて其処にあるだけ

 ……ん?何か違和感あるが、何だろう

 

 何処か、致命的におれの認識と食い違っている気がするんだが……

 「オーウェン、これ、お前のAGXを呼び出すギアで合ってるよな?確かユーゴによればアストラロレア」

 「うん。合ってる。僕のAGXを……」

 少しだけ少年は言い澱んで、けれどもしっかりとした口調で続きを告げた

 「AGX-ANC11H2Dを召喚する為の時計だよ」

 「それが一個違和感あるんだ

 竪神達から聞いてそうだけど、おれ達はAGXが本当に戦う相手と対峙した。裁きの天使、人類史を終わらせるテーゼ、精霊セレナーデと」

 それもまた、覇灰の被害者っぽいが

 

 「この腕時計からは、そのセレナーデ等にも似た力を、絶望の冷気を感じる

 いや、ユーゴのアガートラームも纏っていたからそれはそこまで可笑しくないんだが……シャーフヴォルのAGXは、t-09(ATLUS)はそんな空気をほぼ感じなかった」

 そう、気になるのってそこなんだよな。何時しか覇灰の力を無理矢理制御して、覇灰に立ち向かっていったのがAGXだとすれば、昔の機体ほど覇灰の力が薄いはず。ATLUSなんて、今思えば謎の重力制御と覇灰の力に比べれば雑魚なビームが主な兵器、封印されていたらしいブリューナクだけ何処か覇灰の力に近いものだったが、他は何一つ無関係

 だから、纏うバリアも斥力障壁というか、そういったものだけでほぼ無敵の精霊障壁を使ってこなかった。だからこそ勝てた

 

 13以降は別格というだけあって、13以降の機体には間違いなく精霊云々の力、所謂魂の棺を用いた覇灰の力の発現装置が組み込まれている筈だが……

 「君の11H2D(ALBION)にも、ちゃんとその力は組み込まれているのか?」

 

 「あ、うん

 僕その世界で生きてきた訳じゃないからゲームで語られた知識なんだけど、09で何とかXを倒せるようになった。だから09が倒したXを捕獲しようと試みたのが10。何とかそれで確保したXのエネルギーの結晶を、無理矢理装甲と武装に転用したのが11。そこから12を経て、13で漸く精霊の力をエンジンにして自力で産み出せるようになったって経緯だから……

 11H2Dにはちゃんと、結晶化した精霊の力が組み込まれてるよ。ただ、外部から補給しない限り、回復できないだけ」

 ますます大外れじゃないかそいつ?アガートラームとか多分無制限にエネルギー湧いてくる無限機関っていうかタイムマシン積んでるらしいぞ。精霊の力というか覇灰の力を外部から補給する必要があるから単体ではエネルギー回復不可、しかも安全面かなぐり捨てた当時の最強火力だけを追求した機体って……

 

 「大外れだな」

 「うん、大外れだね。外れすぎるというか、僕だって欲しくないよそんなの」

 あはは、と二人して苦笑する

 

 でも、違和感は消えない。本当に大外れだからなのか?

 オーウェンは何と言っていた?彼が語ってくれた魂の棺の話は?

 

 いや、良そう。おれはAGXについて疎いし、穴だらけの知識では頭こんがらがるだけだ

 

 「……うん、最初は絶望した

 どうしてこうして産まれてしまったんだって。神様に何か言われた気がするけど、転生したら今度はもっと酷い環境で、明らかに過ぎた力だけこの手にあって

 幼すぎて使えない今を越えたら、こんな世界滅茶苦茶にしてやりたかった」

 

 でも、と晴れ晴れと少年は語る

 

 「でもね、皇子

 お父さんは居なかった。お母さんがどうしてもって無理言って、自分一人で育てるからって一晩だけ相手してもらったんだって

 だからお母さんだけだったけど……お母さんは優しかった。僕に愛情を注いで、ずっと育ててくれた」 

 優しくふわりと、何処か儚げに少年は微笑む

 「そりゃ、早坂桜理と違って家にお金は無かったよ?決して何でも出来たりしなかった。だから、まだ転生した際の絶望感と焦りで、皇子には酷いこと言っちゃったよね

 だけど、僕にとっては……お母さんとちゃんと過ごせる家が、ちっぽけな奇跡が、とっても心地よかった」

 だから、と少年は返された腕時計を握る

 

 「僕が本当に欲しかったのは、世界すら支配できて、誰かに言うこと聞かせられる力なんかじゃなかった

 ロボットものが好きで、あんなロボットに乗ってかっこ良く戦えば誰も僕を女みたいって言わない、男らしいって認めてくれる。そんな結論、変だったって分かったんだ

 必要なのは、最強の力じゃ無い」

 少し困ったように、人差し指が突き合わされる

 

 「勿論、男らしくはありたいよ?女みたいに扱われて、あの父親みたいなのや同級生にキスとか……え、えっちな事とか無理矢理されたの、もう二度と味わいたくない」

 「……だから、嫌そうにしてたんだな」

 「うん、庇おうとしてくれて有り難う、皇子

 でも、それだけ。お母さんが、そして……酷い僕を見てそれでも漸く見つけた光(お母さん)を護ってくれた皇子が、僕を僕にしてくれたんだ」

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