蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
ストライク。学校でもたまに授業で行われるスポーツだ。ボール一個でやるコートゲームで、何となくサッカーに似ている競技
基本的に腕は使用禁止で脚でボールを蹴りあい、相手のゴール棒にシュートをぶつけて先に相手のゴール棒を破壊したチームの勝ち。ボールを手で止めて良いのはキーパーとなった一人だけ
特徴としては、全選手がつけるリストバンドに小型魔法書を仕込めるという点だ。ブックブレードとして軍用化もされているワンタッチで開いて魔法を放てる小型で表紙が頑健な魔法書をリストに嵌め、試合中にその魔法を行使して良い、というのが公式にルールとして定められている
一応、ボールを奪取する競り合いかゴールの攻防にのみ使って良いという制限があるが、謂わば必殺技ありの超次元4vs4サッカーだ
そうして、今おれ達はというと……
「はっ、決めなワンちゃん!」
分身したロダ兄(翼持ち)に中継されて天高く蹴り上げられるビーチ用のボール
それを思い切り飛び上がっていたおれは……
「任された!」
思い切り踵落としで砂浜に向けて蹴り落とす!
流星のように墜落するボール。それを止めるべくエッケハルトが腕のリストバンドに触れ、炎で出来た魔神のようなオーラを噴き上げるが……
「これが俺の!マジン・」
腕を掲げて天空から落ちてくるボールを受け止める前に、現れたばかりの魔神の顔を貫通して彗星と化したボールがゴール(アナに作って貰った氷の柱)へと突き刺さり、そのまま根元からゴール棒を折り取った
「おれ達の勝ちだ、エッケハルト」
「いや、素で驚異の侵略者すんなよゼノ!必殺魔法による攻防とか、そうしたストライクの醍醐味を何だと思ってんだよ!」
格好付けて言ってみたら反論され、おれは肩を竦めた
うんまぁ、そうだな。魔法使った必殺シュートとその発動モーションに合わせた必殺のキーパー魔法とでかち合わせたり、それを見越して必殺を使うと見せ掛けて使わず相手キーパーの魔法回数を減らしたり、シュートに持ち込む為に攻め手の三人にどれだけシュートではなく中盤用の魔法を持たせるか考えたり……そういったストライクの醍醐味を全部粉砕した気がする
「あはははは、でもゼノ君だし」
「中盤戦、魔法使えないからおれは弱いぞ?」
「素で数十m跳躍する化け物相手に中盤戦とか不可能だろ、ってか素で分身して人数増えるのもうバグだろ!」
びしり!と焔髪の青年は桃にボールを持った人間を閉ざすことでボールを奪う魔法を放った後、分身して一人で空へと飛び上がった最前線のおれまでパスを通した青年を指差す
「超次元サッカーは!超次元なのが必殺技だけだから成立すんの!
素の身体が超次元なのと必殺技が超次元なのは試合にならないの!分かる?分かるかチートども!」
「あははは……」
曖昧にうちのキーパー任されて、何もすることなく終わったオーウェンが笑った
うん、一人だけパーカー着てるが暑く……ないな、動かなかったし
「いや、おれって加減するとただの魔法での攻防参加できない雑魚だしな」
「遊びは全力でやるものだってことだ」
「もうお前ら出禁だろ、ゲーム成立しないわ
ってかなんでわざわざ空からシュートしてんだよ」
「砂浜だと蹴りにくいから空から打った」
「これも修業とか言ってたろ、太陽のせいで空は見上げにくいから止めろっての!」
そんなこんなの話に肩を竦めて砂浜に適当にラインを引いたコートを出る
何だかんだ残るオーウェン等をフィールドに回し、ただのチートなロダ兄と頼勇をキーパーにしてバランス調整を図るようだ。これで女性陣も入りたければ入れるようになったが……
「えへへ、恥ずかしいです……」
走ると捲れちゃいますしとはにかんで断るアナ。最初からやる気の無いノア姫、代わりと死霊術で操り人形を用意するアルヴィナ等、案外人気がない
「悲しいな、割と面白いのに」
「いや、さっきの超次元を見て、やりたいって女の子居ないと思う。普通に吹き飛ぶし」
「まぁ、そうなんだが」
と、結局人が集まらずビーチバレーのような競技に切り替わってるのを見ながら、おれは息を吐いて桃色少女の横に膝を立てて座った
「どうだ、リリーナ嬢。楽しめてるか?」
「うん、楽しいよ」
「おれ達の使命は、せめて貴女方に青春くらいは楽しんで貰うこと。それはよかった」
はぁ、と溜め息が聞こえる
「ゼノ君。それアーニャちゃん相手にあんまり言っちゃ駄目だよ?
私はまあ良いけどさ?あの子、ゼノ君に幸せになって欲しい一心で頑張ってる忠犬なんだから、それをゼノ君が使命感で楽しませてるとか言われたら落ち込んじゃうって」
「本音なんだがなぁ」
「本音を隠すことを覚えてよゼノ君。普通に貴族には必要な事だよ?本音だけ語ってると人から煙たがられるよ?」
「分かってはいるんだけど、そもそも理想論を掲げなければこんな忌み子に価値はないからな」
横の少女が口をつぐむ
「うん、もう私何にも言わないから。アーニャちゃんに頭冷やされてきてよ」
……そう言うと、可愛らしいビキニの婚約者(仮)は砂浜で始まったバレーのような競技に目を向けた
ふと、その視線がとある一人を追っている事に気がつく
アナではない。それはエッケハルトだ。わざと彼女の方にボールを打っては胸をガン見してて……いや普通にキモいぞエッケハルト?
追っているのは桜の一房を持つ黒髪の少年……オーウェンだ
アナとチームを組み、頑張ってフォローしようと動いてはいるがちょっと実力が足りてない感じの少年の事を、無意識に緑の瞳が追う
「リリーナ嬢。オーウェンが気になるのか?」
「あ、うん。ちょっとね」
「婚約、破棄するか?」
オーウェンを好きになったなら、おれとの婚約などただの足枷
別にオーウェンなら良いと思えるし、止める気もない
「だからさあ、私の事恋愛面で何にも気にしてないことは知ってるし私だから良いけどさ?
アーニャちゃんとかそんな対応されたら心に傷を負うから止めなよ?」
また責めるような瞳がおれを見る
そう言われても、おれにはこう返すしかないが……
「あ、オーウェン君気になるって言ってもさ、ゼノ君が知らないだろうあの異端抹殺官の時に精一杯勇気を出して助けてくれたからちょっとってだけで、恋してる訳じゃないからね?
婚約解消とかまだまだ早いよ。ってか、穏便に解消で良いじゃん」
「婚約破棄しておれが泥を被らないと、円満に解消して即別人とってリリーナ嬢の落ち度を捏造したり、責める層が出てきかねない。だからおれが泥を被るんだ
おれが悪くて、だから相手はそんな悲劇のヒロインのリリーナ嬢を支えていただけだって」
「それさ、アーニャちゃんとか泣くよ?だからあんまり言わないように」
仕方ないとばかりに理解しないままに頷く
「オーウェン君かぁ……」
ぽつりと呟く桃色聖女の言葉が、やけに耳に残った