蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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エッケハルト、或いは監視

「ふぅ、アナちゃんと水着でキャッキャウフフ出来て満足!」 

 ホクホクとした顔のエッケハルトが、ごろんと砂浜に寝転がってサムズアップをかました

 

 「それは良かったな」

 「そのまま寝ていてくれ」

 と、おれと頼勇は一番危険人物だろう彼に向けてそう告げた

 暫く遊んだ後。二つの太陽は天頂で交差してそれぞれ互いが出てきた方角に沈みかけている。水平線を輝かせる夕陽が中々に幻想的な光景を見せていた。

 そして、そんな時間までで遊び疲れたろう女性陣の為に、ノア姫が魔法で風呂を沸かしてくれたのだ。この島には風呂設備はあるしな

 

 が、風呂は元々貴族が借りる想定なので一つしかない。そして夕陽を眺められるように、露天風呂とはいかないが大きめの窓が空いているのだ

 そう、つまり……メイドと混浴も想定済の無人島風呂であるが故に、覗きへの対策が絶無。それはもう、覗こうと思えば簡単に覗けてしまう開放的な設計

 

 そんなだから、こうして二人して見張りを立てているのである

 「いや、何で俺がずっと睨まれてんの?」

 「お前しかこの場で皆が入ってる風呂を覗く奴居ないだろエッケハルト」

 静かにおれは告げる

 

 「いや!何か居るロダキーニャとか!」

 「ロダ兄が風呂を覗くかこのアホ!」

 思わず突っ込みを入れる

 原作からして、「興味はある、だが其は悪宴よ!」と男主人公編で覗きを誘うと止める側に立つ筈だ。誘わないと我関せずでどちらにもつかないけど

 ちなみに女主人公(リリーナやアナ)編では好感度高くても低くても絶対に覗かない。好感度が高いと思春期拗らせて覗きに一旦加担するもやっぱり駄目だ!って土壇場で裏切ったと聞けるガイスト等より真面目だ。いや、結局最終的に覗きを止めたとならないイベント進行の攻略対象って居ないんだけどさ

 

 「いや、興味あんだろ普通に」

 「はーっはっはっ

 縁を繋いで見せて貰うがひっそり咲く可憐な華というもの。暴くは悪縁よ」

 くるくると小槌を回しながら、白桃色の髪の青年が笑った。分身を当然のように使い、船で持ち込んだテントを張ってくれている

 うん、その辺りは真面目なんだ、彼。煩いし突然転校してくるしワンちゃんとか呼んで絡みに来るが、際は弁えてる

 

 「畜生が!そこの魔神野郎は……」

 「興味などあるものか」

 「そりゃそうだわな!?」

 そもそもシロノワール=テネーブルってかなり一途拗らせた奴だぞ、死んだ幼馴染以外の裸とか見てもスルーだろう

 

 「じゃあオーウェン……は腰隠せば」 

 「……黙れエッケハルト」 

 静かにおれは威圧する。いや、言いたくなるのは分かるが、言葉にするなと

 「お、おう……」

 ぶるりと体を震わせて、青年はそれ以上は何も言わなかった

 

 オーウェンは今晩ご飯の為にちょっと小型の竈を組んでくれている。魔法である程度何とでもなるが、全部魔法では風情がない

 お陰で聴かれなくて良かったと安堵して、おれは周囲の警戒を続ける

 

 「ってか、それならもう良くない?

 堅物どもが覗くとは誰も信じないだろうし」

 「エッケハルト。これから夜が来るし此処は国境近くだ。本気でおれ達以外誰も来ないなんて信じきれる場所じゃない」

 目を水平線に向けて耳を澄ませながら、おれはそう呟いた

 

 リリーナ嬢等の手前ある程度は遊ぶが、おれの本業は皇族だ。故郷の盾、希望の剣となって民を護るのが仕事であり、それに休みなんてあってたまるか。アナは休んで良いと言うが、それは生きなくて良いと同じ意味になる

 

 だからこそ、こんな時にも警戒を怠る訳にはいかないのだ

 「全くもう、お前は何時も堅いんだよボケが」

 ぺしりと投げ付けられる砂浜に転がる貝殻。それを避けるでもなく、ちょっと逸れていたので然り気無く首を傾け額の中央で受ける

 うん、痛くないな。何一つダメージが残らない

 

 「ったく、化け物が」

 「だが、化け物でなければ民を護ることすら出来やしない」

 というか、化け物じゃなくても戦ってくれる頼勇って……LI-OHは端から見れば只のチートか。ロダ兄ってチート別にないぞ?滅茶苦茶強いだけで

 

 「もう良いや」

 諦めたように、エッケハルトは砂浜で横になったまま目を閉じた

 「とりあえず、俺はお前みたいな奴がアナちゃんと仲良しするとか認めないからな!」

 「……気にしなくて良いからね、皇子」

 と、そんなことを呟くのは薪を抱えたオーウェン

 

 「すまないが、そんなことはないさ

 気にしてないし、エッケハルトを嫌いになる気はないが、あれが正しい」

 ばらり、と薪が落ちた

 「オーウェン、大丈夫か?」

 「ち、ちょっといや流石にって思っただけ……

 皇子、自分を蔑む相手には何か言った方が良いよ……。皇子自身だけは慣れてるかもしれないけど、僕はあの時の異端抹殺官の言葉にだって苛立っちゃったんだし……」 


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