蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 夜話、或いはコイバナ(男性編、後編)

「大丈夫かオーウェン?」

 戻ってきた僕に優しく、けれども剣呑な空気を残したままに問い掛けてくる青年

 それに僕は、曖昧な笑みを返した

 

 「皇子、皇子って……人の心が分からないよね」

 「よく言われるよ」

 何処か遠くを見詰めて、灰銀の髪の青年は諦めたように肩を竦めた

 

 あの小説版は皇子ルートで、最終的に皇子と恋愛するんだって話をせず、ラインハルトルートだという体で嘘を語るべきだというエッケハルトの言葉に思わず僕は頷いてしまった

 だから、もうその事について口出ししない

 

 でも、何で皇子の為にはならないだろうその言葉に同意してしまったのか、僕自身にも何故かよく分からなくて。八つ当たり気味に酷いことを口にする

 

 「あー、止めとけ止めとけ」

 そんな彼の態度に、もう完全に匙を投げ気味のエッケハルトさん

 「こいつ、ふざけたくらいにゼノいからさ

 訳わかんねぇよ」

 「え、皇子は皇子で当然では?」

 僕自身、全然こっちの……乙女ゲーの方の系列作はプレイしてなくて、それでもほんの少しの小説版なんかからでもそれは分かるのに

 

 「いんや、こいつ普通に俺達と同じく転生者なんだぜ?」

 「……え?」

 思わぬ言葉に僕は目をぱちくりさせ、灰銀の皇子を見る。彼は静かに、こんな時でも何かを警戒していた

 

 「いやいや、冗談だよね?」

 「……いや、オーウェンがおれに何か言いにくそうな事があったように、おれにも利点があるから言ってなかっただけだ」

 目線を落とし、彼は告げる

 「いっそおれが真性異言(ゼノグラシア)でありゲームのあれこれを知っていると一見して分からない事が何処かで突破口になるかもしれないと思い、わざと言わないでおいた

 すまないオーウェン」

 「いやいやいや、皇子が謝ることじゃないよ!」

 と、わたわた手を振って僕は周囲を見るんだけど、驚いてるのは僕だけ

 

 「……あ、皆知ってたんだ……」

 「その事をさらけ出して、共に戦ってくれと言われた」

 「俺様か?初対面でも本性が凄いことを知ってるって説得に使われた。袖振り合うも多生の縁ってな」

 そして、無言を貫く魔神王に良く似た魔神

 僕自身当たり前だと思うけど、僕だけ仲間外れみたいで何となく悔しい

 

 「なら、日本での記憶とか名前とか」

 「獅童三千矢(しどうみちや)

 ガツン、と心臓を殴られた気がした

 ドキン、と心臓が跳ね、衝撃で息が出来なくなる

 

 ああ、思い出した。僕を助けてくれようとして、結構すぐに死んで居なくなった中学の頃一学期だけ居た男の子の名前。皆から、結構嫌われていた彼の名前が……

 そう、獅童三千矢

 

 そっか。皇子……

 ずっと、僕を護ってくれてたんだ。ちょっと頼りないけど、やり方も明らかに可笑しいけれど。それでもずっと、こうして戦ってくれてたんだ

 

 ……うん。だからこそ

 「本当に、人の心が分からないね、皇子」

 僕はこう呟く

 

 そうして知れば知るほど、分からなくなる。深入りすれば傷付くって言うけど、この皇子を見ればあの日の獅童君もただ僕を助けようとしてただけという事が良く分かるし……。ならばこそ、そんな相手が側に居させてすら貰えずに一人傷付いていくのを見せつけられる方が、よっぽど辛いって何で分からないんだろう?

 

 「いや酷くないかオーウェン」

 「酷くないよ、当たり前の事」

 ……うん、落ち込まないで欲しい。こんな風になるなんて、自分が傷付くことも、死ぬことも、当たり前の事みたいに思ってるのかなぁ……

 

 「ってそれは良いだろ!」

 エッケハルトさんの言葉で、一気に空気は弛緩した

 「で、俺は転生者で、元々推しなアナちゃんの事が好き

 ぶっちゃけ、この冷害……いやもうそのレベル越えたクソボケ寒波ヒーローに負けたくない。アナちゃんは俺が幸せにする」

 ……うん、知ってる。僕でも彼がアーニャ様に恋心を抱いてるのは分かる

 

 ただ、間違ってなくても……皇子をバカにされると、嫌な気分になる。それを抑えようと、僕は目を閉じて唾を飲み込んだ

 

 「で、頼勇は……」

 「恋愛か。実はあまり考えたことがない」

 「アイリスとは?」

 と、問い掛けるのは火傷痕の皇子

 「殿下とは……正直仲は悪くないと思うが、恋愛とは関係ないだろう。互いに、LI-OHや……」

 青き青年の茶色い瞳が灰銀を見回した

 「殿下にとって最大の関心時であり、私としても友であり続けたい皇子に関する事で協力する仲間と言った感じだ」

 「リリーナ嬢」

 「護るさ。ただ、あの聖女様と恋をするというのも、何となく想像が今は出来ないな」

 困ったように笑う竪神頼勇

 

 何となく理解できてしまうのが困るって僕も曖昧に笑って、話を聞き続けた

 「シロノワールは?」

 「答える必要があるのか?」

 うん、取り付くしまもない

 

 「で、そこの攻略対象は?」

 エッケハルトの青い瞳が、色々と頷いていた青年を見た

 「俺様か?

 恋愛なぁ……しょーじきな事言えば、縁の形としてはあんまり気にしてないってのが本音だ」

 「え、ノア先生とか結構気にしてない?」

 僕はふと疑問をこぼす

 

 「ああ、単純に気に入っちゃいるぜ?澄ましつつプライド保って、でもしっかり縁を結びに来てくれてる訳だろ?

 ただ、それが恋愛である必要はないってだけよ」

 あっけらかんと笑う白桃の青年。僕と同じ桃色の一房が揺れる

 

 「……あとは、僕?

 僕は……」

 うーん、と思い悩む

 

 「原作でのそもそもの推しは?」

 炎髪の青年がおれに問い掛けてくるが、僕は上手く答えられない

 「えっと、実は僕全然この世界が舞台のゲームはやってなくて誰が好きとかあんまり無いんだ

 そういえば、獅童君……皇子は?」

 ふと気になって聞いてみる。皇子は中々に一人ぼっちなのは知っていて、だからこそ昔はどうだったんだろうって

 「おれにもそんな好きなのは……

 推しが竪神で、おれというかゼノが嫌いってくらい。女の子も可愛いとは思ったけど、それより男性の格好良さに憧れてた」

 それは理解できるけど、彼って普通に男の子だったよね……?しかも、お嬢様の二匹目のドジョウとか嫌われてた辺り、女の子と仲良しな

 なのに何か僕みたいなこと言ってる……。ただ、僕みたいな状況でもないのに、彼が自分を嫌いなのはそれっぽいけど嫌だ

 

 「そういえば、リリーナ嬢とちょっと縁があったって聞くけど、その辺りはどうなんだ?」

 と、皇子が尋ねてくる

 「うん。ちょっと、ね

 でも、皇子の婚約者で、乙女ゲーではヒロインなんでしょ?僕なんて」

 「おれとの婚約は仮だし、シナリオ的にも気にするところはあるけれど……彼女だってちゃんと戦う勇気を持ってくれているから、攻略対象かどうかとか、運命論みたいなものでそこまで気にしなくて良いと思う」

 「うん?」

 「リリーナ嬢の想いはリリーナ嬢のもの。オーウェンの想いもまた。誰と恋しようが良いんだ。おれはそれが本気なら応援するよ」

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