蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 桃色聖女と桜髪の転生者

「……むぅ、寝れないなぁ……」

 アーニャちゃんが帰ってくることはなく。何だか誇らしげなアレットちゃんは直ぐに寝てしまったけどどうしても私は寝付けなくて。暫くしてから、むくりと布団(魔物素材なんだけど、とっても軽くてふわふわ。私の家のベッドより良い素材な辺りやっぱり聖女ってすごい扱い)をはね除けて起き上がると、周囲を見回す

 

 今も起きてるアルヴィナさん。じっと私を見つめてくる目が爛々と輝いていて怖い

 チラリと此方を見ると好きになさいとばかりにまたうとうとを始めるノア先生と、すぅすぅと勝ち誇ったまま寝息を立てるアレットちゃん

 

 そして……帰ってこないアーニャちゃん。うん、危険はないと思うけど……流石に何か気になって、私も合わせてテントを出た

 素材がほんとーに良いんだろう。オレンジ色のテントを出た瞬間に肌寒さが襲ってくる。テントの中だと気にならなかった夜の湖の冷気が、そよ風と共に吹きつけるだけで小さな震えが体に走る

 

 「アーニャちゃーん、もう寒いよー」

 って、あの子を探そうとして……すぐに見付けた。火の番としてじっと周囲を見ているゼノ君。その左肩にこてんと頭を乗せて、白い猫耳パーカー寝間着の女の子がすぅすぅと安らかな寝息を立てていた。うん、とっても幸せそうにとろんと蕩けた無防備な寝顔を晒して目を瞑っている。寄り掛かられたゼノ君の真剣な表情とのギャップが凄い

 襲われても文句言えないよー?って茶化したくなるけど、ゼノ君が女の子を襲う筈無いし、何ならアーニャちゃんもそのまま寝てるうちにキスとかされても喜んで受け入れるから問題ないのかな?

 

 なんて眺めてると、ふと少女がゼノ君の何時もの上着を着ていることに気がついた。寝てたら被せて貰ったのかな?

 後で泣くよアーニャちゃん。ゼノ君さぁ……外が寒いからって暖かい何かを持っていったら、自分のために逆に上着脱いで被せられたとか……アーニャちゃん的に嬉しさより悲しさが流石に先に出ると思うんだけど?

 

 大事になる前にと思って更に一歩踏み出そうとして、私は漸く他の一人に気がついた

 オーウェン君だ。何か今日から桜色のロダ兄っぽい前髪一房を隠さなくなった少年が、じーっと二人を見て溜め息をついていた

 

 「あ、オーウェン君」

 しっかりと着込んだ彼の姿を見付けて、私は声をかける

 うん、何というか……私のためにか、変な人からちょっとでも庇おうとしてくれた時からちょーっと気になってるんだよね、彼

 特に、アーニャちゃんが出ていった後、あの子の方がマシだとか何とかアレットちゃんが私に色々言ってたのがあって、更に意識してしまう……って、良く良く考えると頑張ってる男の子を捕まえてマシってひどくないかなアレットちゃん?

 

 と、声を掛けられた少年はその線の細い体をびくっ!と大きく跳ねさせて、私の方を振り返った

 「あ、せ、せせ聖女様……」

 「え、リリーナで良いよ?」

 にこっと私は笑顔を作ってガチガチに固まった彼に返す。だってゲームでも聖女様よりリリーナ様の方が基本だったしね。いやまあ、名前は変えられるからボイスではテキストと異なり聖女様って皆呼んでたりするんだけど……

 「……リリーナ、様……」

 ぎこちなくそう呟く黒髪の男の子。おっかなびっくり、恐る恐るって感じ

 

 「ゼノ君相手は行けるのに、固くない?」

 「ゼノ皇子、皇子というか貴族っていう感じしないから……」

 「あー、分かる。民を護る者でなければってプライドだけは馬鹿みたいに高いけど、それ以外貴族っぽいところぜんっぜん無いよねゼノ君」 

 アレットちゃん達には神様気取りに見えるって言うけどさ、根底の精神ってゲーム的に考えて真逆。自分を皆の下に置いて存在価値を見出ださない事で、例外無く他人に対して奉仕するって感じ

 

 結局やってること的に七大天様でもないのに全てを救う神様気取りってのも間違ってはいないんだけど……

 それを救えもしないから人間以下って一番蔑んで苦しんでるのってゼノ君だし、アーニャちゃんはそれを分かってるから怒ってるんだよね。心に深い傷ありきの飛躍した結論だけどさ

 

 「僕とかに理不尽言われても怒らないし」

 「うんうん。ところで、オーウェン君はどうしたの?私はアーニャちゃんが外行ったまま帰ってこないから探しに来たんだけど」

 「僕は……」

 小さく俯いてから小柄な男の子はその紫色の瞳を寝息を立てたアーニャちゃんへと向けた

 

 熱っぽく……とはちょっと違うかな?

 「アーニャ様って、ああだよね……」

 「うん、ゼノ君一筋。絶対揺れないブレないルート一直線」

 あれ、ひょっとして……

 

 「ねぇ、ひょっとしてオーウェン君も」

 けど、ふるふると桜色の前髪を揺らして、少年は私の疑問を否定する

 「ううん。アーニャ様がゼノ皇子の事をっていうのは分かるし、そもそも僕は……

 でも、だから不思議なんだ」

 目を閉じ、ぽつりと告げられる言葉

 

 「そんなの分かってたんだ。なのに……どうして、僕はエッケハルト様と変な約束、しちゃったのかなって」

 その言葉に、私はほどいた髪を話してると邪魔かなーと軽く纏めながら言葉を返した

 

 「変な約束?」

 「僕も彼や皇子と同じように真性異言(ゼノグラシア)で」

 「いやいやゼノ君は違うでしょ明らかに」

 思わずツッコむ

 

 だってゼノ君だよ?アンチも多いけどファンも濃い男の子だよ?特にアーニャちゃんとか一応ちゃんと他ルートもあるヒロインなのに、『頭アーニャちゃん』がゼノ君激推し勢の事を指すようになるような娘だよ?

 原作知識がしっかりあったら、後々アーニャちゃんがああも慕ってくれる事とか、忌み子の真実云々も色々知ってる訳だよね?後で幸福になれることが分かるんだからあんなに追い詰められたゼノ君そのままの性格に育ったりしない

 例えば隼人君(エッケハルト君)がゼノ君に転生してたとしたら、ある程度頑張って原作沿いの進行をしてアーニャちゃんに惚れられた後、それはもう滅茶苦茶にイチャイチャ楽しむと思う。間違ってもあんな常に命懸けなんてやりたがらない

 

 それにさ、現代人だったら有り得ないってあの境遇。何時死ぬとも知れないとか言ってるけど、原作的にはアーニャちゃんとくっつかないとまずシナリオ的には死ぬよね?それでアーニャちゃんを拒絶するとか無い無い

 原作ゼノ君は悪役令嬢ってネタにされてたけど、だからこそ転生者なら悪役令嬢もののテンプレートとして「死ぬ未来を回避する」アーニャちゃんとのイチャイチャを拒絶する理由がないもん

 

 「ゼノ君がもしも、前世が女の子で今も男の子しか愛せないーとかなら百歩譲って分かるけど、有り得ないって」

 あれ?オーウェン君何か落ち込んでる……

 

 「僕、ちゃんと小説版のこと、ちょっとは知ってるのに……アーニャ様の為だって力説されて、ラインハルトルートって嘘をつくこと、どうしてか頷いちゃったんだ」

 「あ、それ私も」

 「え?」

 あっけらかんとした私の声に、目をぱちくりさせるオーウェン君

 

 あれ?そういえば転生者云々話してなかったかな?

 「私、門谷恋(かどやれん)。オーウェン君って真性異言(ゼノグラシア)なんだよね?

 実はさ、私もエッケハルト君に頼まれてゼノ君に嘘言ってるんだ」

 あれ?こんなところで話していてセーフかな?とちらりとゼノ君を見れば、アーニャちゃんを起こさないように一人で片腕だけで素振りしていた。体幹を揺らさず腕だけで対処する練習とかかな?とりあえず、意図的なんだろうけど私達の内緒話を聞かないようにしてくれてるっぽい

 

 「……え、え、え?」

 「そっか。オーウェン君もそうだったんだ

 私で良ければ、話聞くよ?」

 ま、私も悩み多いけどねと苦笑して、私は……ってあ、ゼノ君わざわざ焚き火を譲ってくれなくて良いのに……

 

 でも、ちょっと有り難うね?

 アーニャちゃんを優しく抱えて丸まってるアウィルちゃんに乗せて、ちょっと見回ってくるとばかりに焚き火から離れていくゼノ君に、私は小さく頭を下げた

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