蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「はい、これ。気になるんでしょう?」
不意に僕の手に不可思議なものが渡され、僕は魚を射抜く皇子を眺めていたところから現実に戻された
「え、あれ?」
手渡されたのは、龍姫様の何かを示すだろうブレスレット。透き通ったガラスが嵌められた……結構高いもの。この世界って僕達の生きてた日本より数段ガラス製品が高いんだよね、魔法で作れるけど大量生産はあまりされてないから
瓶もガラスじゃなくて魔物の素材を使ったりするからか、物価のギャップにはなかなか慣れない
「あの、これは?」
「ええ、それ?この後戻ったら行われる手筈になっている聖女様による説法の席を示すものよ
アナタ、気になるんでしょう?」
くすりと笑うのは、僕より更に背丈の低い女の子で、尖った長い耳と綺麗すぎる金の髪が浮世離れした美しさを魅せるエルフ種。ノア・ミュルクヴィズ先生
「……ちょっと」
「ワタシ、聞く気無いからあげるわ」
「……え、普通入れないの?」
「入れるわけ無いじゃない。アナタ感覚麻痺してるわよ。あの二人は神に認められた"聖女"という特例。エルフであるワタシですら無視も出来はしない存在よ。その二人がどうこうするというだけで大きな動きは起きるのが普通よ
金儲けの面がかなり大きいのだけれどもね」
だから興味ないわ、と言いつつ耳を上下に振るノア先生だけど……
「え、じゃあどうしてこれ持ってるの?貴重なんだよね?」
思わずそんな疑問が口から溢れた
「どうせ馬鹿が」
紅玉の瞳が僕の見ていた方向を見る。真剣な表情で弓に矢をつがえて、水面を睨む皇子を
「深刻な顔で要りもしない事を思い悩むと思ったから、一応席を取ったのよ。ただ、アナタでも問題ないと思ったから要らなくなったわ」
肩をすくめ、僕に譲ってくれる
「良いの?」
と、突然耳に痛みが軽く走った。引っ張られたんだと直ぐに理解する
「ワタシがあげると言ったの、素直に受け取りなさい?彼の悪いところ、学びだしてるわよ?」
責めるような耳責めに止めてよと手をふれば柔らかな指は直ぐに離れ、エルフの姫は静かに僕を見守る
「い、いやそれは違う気がするけど……」
言いつつ、ふと疑問に思う
「でも、なんで?」
僕自身、自分はこんなことされるだけの存在に感じれないんだけど
「はぁ、ワタシはエルフよ。女神様に選ばれた、アナタ達の言う幻獣種の一つ
だからこそ、敬意を払うべき者には払うわよ。例えばアナタや、あのアナスタシアのような七天に護られた者とか、ね」
え?と僕は呆けて口を開けた
「え?どういうこと?」
「どう言うことも無いわよ。その髪」
と、優しげなタッチで白い指先が僕の前髪に触れる。最近桜に染まることが多い一房を、ゆっくりと撫で回す
「それが証拠でしょう?」
「え、何で?」
僕自身も知らない事実に思わず聞き返す
「呆れた。自分の事も知らないのね」
「うん、知らないんだ」
はぁ、という溜め息。けれども、僕を見る瞳は何処か優しげな光を湛えていた
「良いわ。教えてあげる。無知は可哀想だものね。代わりに、後で相応にワタシの言うことを聞いて貰うわよ?」
そうして、不意に少女は僕に問い掛ける
「その髪はワタシが言ったように、とある七大天の加護を現すものよ。勿論、あそこで釣りしてる変なののも同じく、ね。直接の血縁は恐らく無くても、遠縁くらいはあるでしょうね、アナタ達」
「あ、そうなんだ」
何だか楽しそうに釣り糸を垂らしてはいるけど何も釣れない青年を見てへー、と返す。原作ファンだったら……あれ?喜ぶのかな?良く分からないや
推しで女の子だとしたら結婚できなく……いやこの世界って神様が許すなら兄妹でも結婚出来たよね?となると、血の縁って切れない縁でしかないから基本嬉しいのかな?
うーん、何だろう、獅童君みたいに原作や攻略対象に思い入れがあったら、感想も違うのかな……。僕だと、そうなんだって気持ちしか起きないや
特に彼、縁縁言うけどそれなりに線引きがしっかりしてて嫌なところには踏み込んでこなさそうだから実の兄だってくらいの関係でも何にも変わらなさそう
「……どの天かは分かるわね?」
えーと、桜色……うーん、彼が居なかったら女の子か何か?って落ち込みそうな色だけど、似た色は……
「女神様」
エルフの人が気にかけるってことは、と自信満々に告げる僕。リリーナ様の色だし、間違いが
「……いえ違うわ」
「じゃあ、赤色系列で道化様」
「落第したいのかしら?あの天狼の桜雷、リリーナ・アグノエルの髪色、アナタ達の髪と、とある理念の象徴として桜色は全七大天共通で使われる色よ。色で判断したらどの天でも有り得るわ」
あ、そうだったんだ……って思うしかないねこれ
「じゃあ、ピンクって結構特別な色なの?」
「ま、好き勝手身に付けてる人は多いわね。ただ、天の選んだものにとっては特殊というだけよ
で、その理念を最も説く者が、アナタを加護する者。では、それは?」
……うん、僕はアーニャ様と違って、あと何か詳しいゼノ皇子とも違ってそういう宗教は疎いんだけど……
困りきった僕に、一言エルフは溢す
「悪をもって善を説く」
「……晶、魔?」
「……そもそも、アナタ影属性方面の才能があるんでしょうし、その黒髪も影属性の色、どうして分からなかったのかしらね?」
「……勉強不足で……」
縮こまる僕
「ノア姫、あんまりオーウェンを苛めないでやってくれよ?」
って、助け船を出してくれたのはやっぱりゼノ皇子……獅童君だった
「……苛めてないわよ」
くすり、と笑って、でもエルフの少女は何処か気にしたようにその特徴である耳を少しだけ下に向けた
「でも、まあ人間は"魔"と付く晶魔を一部恐れているのは知っているわ、深い造形が無ければ分からなくても無理もない。ワタシだって、エルフだから知っていただけだものね?」
「だ、大丈夫気にしてないって」