蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……離れた方が良くないかな?」
「うん、リック君と出会ったら怖いし確かにそうなんだけどさ。逆に不安も多いからちょっとだけお願い」
なんて僕の背中に隠れるようなリリーナさんと共に、一番の不安要素であり何より心強い味方になってくれるかもしれない人のところへ向かう
そう、今は龍姫様の腕輪に選ばれた聖女として連日何だか教会から色々と要求されているらしく、調整してくれる教師陣とお話ししているアーニャ様のところ
っていうか、修学旅行で想い出をって呼んでおいて連日聖女様○○してって要求してくるって結構酷くない?確かにこの地は龍姫様の加護を強く受けてるから一年通して結構涼しいし雨季は雨が多くてとか色々あるけどさ、その龍姫様に選ばれた人を担ぎたいのは分かるけど獅童君達の想いはガン無視だよね……
これで本当に楽しい想い出を作れるのかな?
って悩みながらアーニャ様を探していた僕達が発見したのは
「アニャぁぁぁっ」
「大丈夫です。わたしが居ますから。だからそんなにらしくない事言って怯えなくて良いんですよ?」
椅子に行儀良く腰掛け優しく髪を撫でるアーニャ様の膝上で泣き崩れるリックだった
……えっと、なにこれ?っていやいやいやどういう状況なのさこれ!?
「アニャ……」
「知ってます。写真を撮れる魔法以外あんまり強い魔法が使えなくても、皇子様の中ではその事で馬鹿にされていても
貴方が頑張ってることは、わたしが認めますから。もっと頑張りましょう、リック皇子さま」
「あ、リリーナちゃん」
と、唖然とした時に扉を離してしまい、バタンと音を立てて閉まったその音で僕達の存在に気が付いたのだろうアーニャ様が顔を上げた
「えっと、どうしたの?」
同じく唖然とした聖女様が問い掛ける
「あ、えっとですね……リック皇子さまがちょっとわたしに迫ったんですけど、リリーナちゃんにも悪いですし、何かに怯えて……いるのはまあ何時もの事だと思うんですけど、それで自棄になってるのはらしくないと思ったんです
だからちょっと、何かしてあげたいなと思ってたら……」
えへへ、と少しだけ陰りを見せながらも嬉しそうに微笑む銀の聖女様。そのサイドテールが犬の尻尾のように左右に小さく振られ、片手はずっと少年リックの髪を優しくすき続ける
「だめ、なの?」
顔を上げ、すがり付くようなリック
「はい、駄目です。わたしだって好きですよ?何度も言ってます
でも、そんなわたしに対して何時だって自棄にならずに溺れずに頑張ろうとするのが、わたしの大好きな皇子さまです
だから、気持ちは嬉しいですけど、あんまりえっちな事は無しです。傷ついた時、誰かが……わたしが頑張れって言ってあげないと、きっと一緒に落ちていっちゃいますから」
あ、そこはそうなるんだってびっくりする。アーニャ様、獅童君に求められたら何でもしそうな空気あったし、獅童君だと思ってるリック相手にも同じなのかなって思ってたから
本当の獅童君相手だとどうなるか分からないけど、結構身持ちが固いんだ……って驚愕する
そして、『らしくない』って発言から違和感を感じてる事も理解する。これなら行けるかも。それこそアーニャ様が味方してくれたらリックのやってることは一気に突き崩せるよね
「あー、えっちな事。うんうん、私も結構そういうの嫌なんだけど、優しいねアーニャちゃん」
と、リリーナさん。流石に当人が居る時に真実を知ってるよと言ったら逆上されかねないからか、無難of無難な発言
「えへへ、貴方が好きですって言っておいて断っちゃうのも変なんですけどね?
リリーナちゃんって婚約者にも悪いですし、何だか絶対にこれを受けちゃいけないって思うんです」
ふわりと目を閉じて笑い、銀の聖女は尚もぼろぼろと涙を流す彼をあやし続ける
何だかモヤモヤするし、それに……これだとアーニャ様と話せないよね?って悩みが生まれた頃
「あー、リック」
扉が開いて姿を見せたのは、前みたいに気さくに声を掛けようとするヴィルとそろそろ時間だとアーニャ様を呼びに来る竪神さん
その瞬間、びくりと震えてどこか憐れっぽかった少年リックの顔がキリリとなり、アーニャ様の膝上から立ち上がる
「ったくヴィル!お前まーた皇子様を呼び捨てにしやがって」
うん。獅童君とかゼノゼノ呼び捨てにされてるどころか、散々忌み子って言われまくってたんだけど
というか、立ち直り早すぎない?爆速過ぎるって苦笑する僕
「ったく、浮かれてんじゃねぇよバカフリート!」
そして復活した彼はごつんと友人……って友人だよね?なヴィル君に拳骨を落とした
その右手に、ちょっと傷の入った黒い腕時計が見える。僕のものよりは装飾が少なく軽そうだけど、確かに僕が託されたものに良く似ている装備
全員コラージュで洗脳?してるから良いのかな?って警戒が薄い彼を少し不思議そうに眺める
あれ?でもそもそも何で持ってるんだろう。二つも変な能力を手に入れる事なんてあるのかな?
……でも、リリーナさんってそんなに変な能力見せたことがないし、同じく真性異言だというエッケハルトさんは確か固有スキルが別物になってるのと、最近豊撃の斧アイムールって言う凄い武器を手に入れてたけど……あれも片方は純粋に手にしただけで特殊能力では……無いよね多分
僕、普通に影響ほぼ無いっていうか、多分アルヴィナさんは色々と言ってたけどこの腕時計なら影響を弾けなくはないと思うんだけど……。だからあれが確かにアルビオンならば盗られるって可笑しいし、コラージュなんちゃらが後付けなのかな?
そんなことを思っている間に、リックはヴィル君を引っ張って何処かへ消えた
ま、すぐにまた何かしに来るんだろうけど……
「うーん、イキリック君だったね」
「あはは、虚勢張らないとって何時も頑張ってますもんね」
それは獅童君もだと思うしだから何となく分からなくもないけど、アーニャ様が彼を庇ってるのが何だか複雑
「あ、そうだアーニャ様」
今のうち!と焦って僕は言葉を紡ぐ
「あ、オーウェン君、どうしたんですか?」
「えっと、今のリック……様、何か変じゃないかな?」
「はい、変ですよね」
こくりと頷く少女に、行ける!と僕は畳み掛ける
「実はさ、あれ私達の敵らしいんだよ」
「そう、本当の皇子の立場を、記憶を乗っ取った……」
「信じません」
返ってきたのは、そんな何処までも冷たい否定の言葉だった
「え、アーニャ様?」
「確かに変です。らしくないところもあります
でも、わたしはあの人を信じます。わたしが信じてあげないと駄目なんです、ひとりぼっちになんてさせません」
それは、どこまでも強い意志。獅童君……ゼノ皇子に対して何時も向けられている思い。変だという違和感すら塗り替える激情をもって、少女はきっぱりと告げる
「それを向ける相手が本当は別なんだよ?」
「そう……かもしれません」
寂しげに、虚空を撫でるアーニャ様
「でもです。わたしの膝で泣いていた彼は、その怯えて虚勢を張らないとって必死な姿だけは、わたしの知ってる彼と何も変わりません。だから、わたしはめげませんし信じません」
小さく腕輪を撫でて、少女は胸元で手を組む
「もしも本当に彼が偽者だとしても。あの想いは本物です。それを助けられなかったら、偽者じゃない皇子さまだってきっと助けられません
だからわたしは絶対に見捨てませんから」
そう言って、少女は席を立った
「リック皇子さまには言いません。確かにらしくないことは確かですし
でも、わたしは彼を信じますから」
言い残されたのはそんな言葉と、ふわりと漂うリンゴのような香り
「駄目かぁ……」
「クソコラ洗脳、強いなぁ……」
「アーニャちゃんの想いの強さが変なところで可笑しな噛み合いかたしちゃってるし……どうしよ?」
「どうしようね、本当に」
アテが外れ僕達は顔を突き合わせた
ちなみにNTRはありません。クソコラされても、歪んでも、操を立ててキス以上は抵抗しますからねアナちゃん。