蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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早坂桜理と親友告発

「うーん、面白かった」

 僕の横で伸びをするリリーナさん。僕も多少は息をつけた。何だか知らないけれど、リックが居なかったから

 アーニャ様も居なくて、竪神さん的にはアーニャ様はリックに任せれば良い。それは不安だったけど、アーニャ様とはアウィルって狼も仲良しだし、他にもそれこそ全然姿を見せないシロノワール君も居るから何とかなる筈

 だから鬼の居ぬ間に洗濯……じゃないけど、リックの居ない間に色々と調べさせて貰ったし、息抜きもさせて貰えた

 

 「ヴィルフリート君はどうだった?」

 って横で怯えた顔を少しは綻ばせた少年に僕は問い掛ける

 彼も息抜き出来たかな?

 

 「……伝説のリリアンヌ様より、リリ姉の方が可愛いって思った」

 「あはは、あれ演劇のためにカツラ被ってメイクしてるから……」

 伝説のリリアンヌ様もリリーナさんみたいに桃色の髪……って訳じゃなかったらしいけど、魔力染まりで出すのが難しい色だから明らかに偽物なカツラ被るしかなかったみたい。僕の桜色だって、見て分かるカツラなら出せるんだ。だってどう見ても偽物だから、逆に騙りじゃないって話

 

 「まあ、ヅラなのもあるけど、何よりリリ姉ほど性格が可愛くない」

 確かに結構イケメンな人格してたみたいな話は聞くし、聖女様伝説も作品によっては割と……なんだよね。男性向けだと大体アーニャ様っぽい性格してたりするけど

 

 でも、原作のリリーナさん……恋さんじゃない方の本物って、割と太陽みたいっていうか、明るくちょっと苛烈だった気もするんだけど?って僕はツッコミを入れたくなった

 まあ、彼にとっては今のリリーナさんしか知らないからその反応も仕方ないんだろうけど

 

 「それにしても、何かに怯えてたのは何とかなった?」

 僕は少年に問い続ける。一瞬だけ彼、変な顔してたんだよね

 同時に、ALBIONの気配も僕の腕時計が感知して……すぐにまた消えちゃった。何か感じたのかって思うけど……

 

 「そうだよリリ姉!最近リックが可笑しいんだ!」

 うん、知ってるって言いたくなる話が飛んできた

 「何だか僕の知ってる彼じゃないみたいで!記憶にあるリック、そんな皇子ってやつじゃなかった筈で!」

 混乱するように、従姉に向けて叫ぶ赤毛の少年。それをあやすように、でもあまり近付けたくないのか少しだけ距離を離して頭を撫でながら、リリーナさんはその話を聞き続ける

 

 「何かが変なのに!何なんだよ今!

 リリ姉、僕可笑しくなっちまったのかな?」

 口調がブレるほどの動揺。それを僕は……どうしようかとリリーナさんと瞳を交わす

 

 一応色々とおもうところはあって。即座に本当のことを言うのはどうなんだろうと悩む

 だって、彼とリックは友人同士。怯えてるし、相手はアルビオンを奪って好き勝手やってるし……脅されて色々と吐かされないとも限らないよね?

 でも、リリーナさんはどこか心配そうにも従弟を見つめていて、よし!と覚悟を決める

 だって獅童君ならきっと見捨てようとしないから

 

 万が一にもリックが戻って来て聴かれないようにこっちこっちと鍵のかかる場所に誘導し、一息つく

 リリーナさんが使わせて?と言ったことで開けて貰えた劇場の休憩用の小部屋。そこにあるソファーみたいなおっきな椅子に少年を腰掛けさせて、僕は相手と目線を合わせる

 

 「……君は可笑しくないよ、ヴィルフリート君

 可笑しいのはきっと、相手の方なんだ」

 言いながら、とりあえずって感じに水も用意して渡す。コップの中のそんなに冷えていないそれをこくりと飲み干しながら、少年は小さく頷いた

 「君の知ってること、教えてくれる?」

 

 そうして、赤毛の少年がぽつぽつと、時折リックが来ないかというように扉をちらちらと確認しながらも教えてくれたのは、僕が覚えているのと似たような経緯。ただ、リックとが結構昔からの付き合いで、その点については違和感は無いって事も教えてくれた

 「そっか、何で気が付いたの?」

 「リックとは仲良しだけど僕からしたらリリ姉の婚約者の皇子なんてゴミ過ぎる」

 言われてちょっといらっとするけど、そこは頑張って呑み込む

 

 「つまり、親友の筈の彼が絶対に仲良くなれない立場に居たから可笑しいってなった?」

 何となく理解できるかも。獅童君というかゼノ皇子の立場っぽく振る舞ってる今、割と違和感を覚えられていてもそれでも案外ごまかせているのは……リックっていう人間の事を知らない人ばかりだから。元のリックを知ってるとやっぱりそこが致命的にズレるよね

 「そうなんだよ、あいつどうしちゃったんだって聞きに行ったら、バケモンみたいなドラゴンになって誰にも言うなって脅してくるし……」

 ぶるりと体を震わせるヴィルフリート

 

 僕もそれには頷く。そりゃ、実態を知ってれば相対的に他のAGXよりは外れなALBIONだって滅茶苦茶な性能をしてるのは間違いないし、怖いよね普通。言うなれば、特撮ヒーローものに出てくる幹部怪人より弱いから一般怪人の方がマシ、くらいのそれ戦える力持ってなきゃ同じだよねって感じだし

 「そっか、脅されたんだ」

 「……だから、どうしようか迷った。あいつは友達だったはずなのに、何にも知らなかった!

 でも、だけど!だから!」

 叫ぶように絞り出される言葉

 「止めなきゃって思ったのに、僕に何も力なんてないからっ!リリ姉っ!

 聖女様っ、何とかして……お願いだ、狂ったのかもとから狂ってたのかは知らないけれど……リックを止めてくれ!」

 その言葉を受けて、少しだけ曖昧に目を閉じるリリーナさん

 

 ALBIONの存在を明確にされた以上、安請け合いとか出来ない。僕達だって……何が起こるか正直まともに起動させたことがないから分からないAGX-15(アルトアイネス)以外だと、結構洗脳が強いっぽい竪神さんのLI-OHというかアイリスさんと共に開発してるっていうGJ-(ジェネシック)LIO-LEX(ライオレックス)くらいしか勝てそうにない。正直、今挑んだら……勝てない

 だから、即座に安心して良いよとは言えなくて。でも、僕達はお互いを見て頷き合う

 止まれないよね、だからって

 

 「うん。私だってさ、世界を救う聖女様だもんね」

 「そうだよ、リリ姉こそ聖女様なんだ」

 「あはは……、私よりアーニャちゃんの方が何だか聖女様化してる気がするけどね?ほら、今日も私はまあ良いけどってあっちだけ色々とお仕事に駆け回らされてるんだし……」

 頬を掻くリリーナさん。僕自身もあっちの方が原作まんまで聖女様だよねという意見には同意するけど……

 

 「でも、リリーナさんだって」

 「うん。見過ごせないし、私だって別にお話の中にたまにいる偽物聖女なんかで居たくないもん。やってみるよ」

 きゅっと、リリーナさんは従弟の手を握る

 

 安心したように微笑みを浮かべるヴィルフリートは、小さく頭を倒して従姉な聖女の胸元に顔を埋めた

 少しだけ嫌そうなリリーナさんだけど、それを受け入れて背中をさする

 「うん、大丈夫だよヴィル。オーウェン君やお姉ちゃんが、きっと何とかしてみせる」




ということで、オーリリコンビ側にあんまり役に立たないけど情報役の味方としてヴィルフリート君加入です。

まあ、今回の黒幕こいつなんですけどね

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