蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「じゃあ、話しに行くか」
と、ヴィルフリート君を匿ったところでロダキーニャさんがそう告げて……
「必要、ない」
「え?」
聞こえた全然僕の耳には慣れていないけれど可愛らしい声音の途切れ途切れの言葉に、僕はびくりとした
そうして振り返ると、其処に立っていたのは露骨な不機嫌さを隠そうともしない一人の見覚え無い女の子。鮮やかなオレンジ色の髪に、灰色に近い瞳。フリルをあしらって可愛らしく仕上げられた服は白や黄色といった淡い色をしているけれど……あまり豪華じゃないというか、ゴテゴテしてなくってスッキリ纏まっている。貴族だともうちょっと装飾があるかな?ってところ
髪はツインテールにまとめられていて、猫耳のキャップが何だかギャップが凄い。そんな女の子が立っていた
ぱっと見た印象は……現実味がない。其処に居るんだけど、手足が細すぎてまるで陽炎みたい。触れたら消えてしまうんじゃないかっていうほどに、淡い存在感しかなくて……
「え、君……は?」
「あ、アイリスちゃん!?」
言われて、そういえば僕全然会ったこと無かったって思い出す。会った時は基本的にオレンジ色の猫さんで……
「何で居るの!?」
「……わかり、きってる……」
じとっとした目が、僕を見つめた。
「あの聖女、使えない」
「う、ごめ……」
思わず謝ろうと頭を下げかけて、リリーナさんがこてんと首を倒す
「あの?」
「銀髪。裏切った」
あーそっちか
「ってアーニャ様裏切ってないよ!?」
声を少しだけ荒くツッコミを入れてしまう
「アイリスちゃん、これはね?」
「リック皇子って、誰?第何皇子?」
その言葉にあれ?と思う
「あの、アイリスさん?」
「何?」
無表情の目が見返してくる
「えっと、リック皇子の事を何だと思ってる?」
「知らない皇子。第八辺り?」
「いや第七だけど!?」
ひょっとしてだけどこの子、自分の家族覚えてないの!?と目を見開いてしまう
「それはたった一人のお兄ちゃん」
第七皇子な時点で獅童君/ゼノにはあと6人は兄が居るんだけど!?
「えっと、知ってる兄……じゃなくて皇族の名前は?」
「ゼノ、ルーネエ、シルヴェール」
「二人しか合ってない!?」
ルーネエって何!?確かに獅童君はルディウス皇子をそう呼んでたけどそれ名前じゃないよ!?
つ、疲れる……
「変。それを伝えない駄目聖女に、お兄ちゃんは任せられない」
ただ、色と感情の薄い瞳でも分かることは分かる
「ゼノ皇子、か。本当に影響とか受けてないんだ……」
なにが?と目をしばたかせるアイリスさん。そこは何処か幼げだけど……他がちょっと怖い。一応ゲームにも居たはずだけどこんなんだっけ……?違ったような……
「影響?」
「えっとね……」
と、ゆっくりリリーナさんは話し出した
そして……
「あの聖女、無能」
いやそういう結論なの!?って僕は首をかしげた
「あのさアイリスちゃん、アーニャちゃんは」
「お兄ちゃんの立場を奪う奴は分かった。でも、お兄ちゃんが、襲ってきた……なら。それは異変。
伝えて、くれたら……もっと早く、駆け付けた。だから……無能……」
そう言われたら反論が難しいけど……と僕は悩む
「いや、でもさ?それだけぜのくん?の事が好きで疑いたくないって事なんじゃないのかな……
いや、私アーニャちゃん何で擁護して……友達だしあの子応援したいし普通だった」
あははと笑う僕
「ってことは、アイリスさんは僕達に手を貸してくれるの?」
「貸さない」
「そこでそういう流れじゃないの!?」
「お兄ちゃんを取り戻す。これは自分の……意志。手伝いなんか……じゃ、ない、です」
ぽつぽつと告げられる言葉。けれども、灰色の瞳には強い光が見えて……って輝いてる!物理的に光ってるよこれ!?
「あ、なら僕達が協力する側?
でも何で居るの本当に!結構王都から遠いよね!?」
「……居ま、せん。器を、転送した……だけ」
「いや此処に」
って思い出した!そういえばゴーレムマスターだアイリスさんって。つまりこれもゴーレムの一種……
思いながら僕は少女の姿のゴーレム、特に僕は正直おっきくなってほしくなかったから助かってたけど、今となっては少しだけ残念な僕並みに無い胸(割とあるリリーナさんとは比べたくない。アーニャ様はもうただの反則)を見る
結構やわらかそうで、ゴーレムにはとても見えないけど……才能って怖いなぁって。ただ、そういえば生きたものより無機物を送る魔法の方が簡単だっけ。ダイライオウだって転送されてくるわけだし
「そっか、ゴーレムなんだ」
「だから影響、受け、ません……
リック。お兄ちゃんの恨み、晴らす」
「いや死んでないらしいからね?」
「もし死んでたら、もう殺しに……行ってます
仇、生かしておかない」
こっわ、って思いながらも僕はうんうんと頷いた
「でも、相手には……AGXがあるんだ」
「……だから、来た
ジェネシック」
「……完成したんだ」
「……残念。もう一度、ジェネシック・ティアラーのデータが、欲しい
だから、ぶつける」
あ、と思い出す。結構彼への態度が酷いから忘れてたけど、そういえばエッケハルト君って最近凄い存在になって、その謎の機体に変身できるようになったんだっけ?
制御できないから普段は頼る気はないって獅童君はばっさり切り捨てて他の機体に注力したり、ダイライオウと模擬戦したりしてたけど……
そういえば切り札になりそう。アーニャ様アーニャ様ばっかりで全く獅童君と仲良さげなところ無いけど、元々割と仲良しだから効いてないかも
ならゆっくり説得を……と思った瞬間
「な、なんだこれ!?」
響くのはリリーナさんの膝を借りてゆっくりと寝息を立てていたヴィルフリート君
その手から変な青い水晶が生えていた
あれって、精霊結晶?ALBIONにも搭載されてるけど、人間から生えるものじゃない筈なんだけど
思っている間に、段々と少年の手は覆われていって……
「竜の呪詛、土下座して従わないと明日の朝までに死ぬ……
リックの警告は本当だったんだ!」
助けてリリ姉と抱きつくヴィルフリート君。ちょっとびくりと肩を震わせながらも、さすがに見捨てられないのかリリーナさんも相手を抱き締め返す
「ちょ、ヤバイよオーウェン君!」
そして、焦った顔を浮かべた
「明日の朝か。もたもたしてられないね」
もう、否は沈む。今日中に決めないと、被害が出るなら!
決めなきゃ!
「僕より多分上手いから、ロダキーニャさんはエッケハルトさんを説得してきて!僕達は……
何とかして、リックを止める!」