蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……ゼロオメガ。覇灰の神よ
何故、この場に現れた。どうして、ティアの姿をしている」
その言葉に、始水ならば浮かべないだろう唇の端を吊り上げた侮蔑的な笑みを浮かべ、そんなに無い胸の前で腕を組む龍少女はおれを見下ろす
「
響く声は渋い男のそれと、愛らしい始水のものとが重なりあう不可思議なもの
「だが、良かろうよ。所詮泡沫、真なる神の意志を理解する事など到底不可能」
くすり、と龍少女は笑う。そして、そのフリフリした良く揺れる豪奢な振り袖を大きく拡げた
「
そんな私が、円卓の弱きものの終わりを前に、現れないと思いますか?随分と……良く分かっているようですが、残念ながら今は違いますよ」
途中から口調が始水に寄り、同時に男の声が重ならなくなる
「所詮は無価値。それでも今はまだ、完全に無意味になられては困る。神に無意味などあってはならない、神に間違いはない
故、ALBIONを此処で喪う道理などある筈がない」
言い回しが独特だが、要はヴィルフリート……じゃなくALBIONを護りに現れたという事なのだろう。いや、これ機体は兎も角持ち主は割とどうでも良いと言ってないか?
それで良いのか円卓の救世主のリーダー!?
折れた愛刀を正眼に構え、隙を伺う。降りてきてくれたが、薔薇色に染まったオーラは酷く冷たい。やはり、精霊障壁くらいは纏っているのだろう
となれば、折れた月花迅雷でそれを貫く術は……何がある?
迅雷抜翔断はもう撃てない。雪那月華閃は撃てるか微妙だし、そもそもあれは魂の刃、恐らく深く凍てつく魂の絶望と致命的に相性が悪い。こちらまで凍りかねない
となれば後おれが撃てる奥義で、ゲームで防御奥義を貫通できる性質を持ち、あのバリアを無視できる術は……
「……どうだこの姿」
更に愛らしい龍の姫の姿を、本来の彼女が無防備そうに見えてさりげなくしっかりと隠していた意識もなにもなく全てをさらけ出して、そんなに無いが12~13の年格好にしてはある胸も、割と触れれば折れそうというよりは健康的で膝枕されたら心地よさげな足も、黒く何処か淫靡で似合わない黒い下着も……気にせず見せ付けながら、見下し嘲る顔で彼はおれ達に問い掛けた
「えっち」
っておいエッケハルト!?
「だけど!そんな事されても俺はアナちゃんを裏切らない!」
「ふん、貴様の個人的な心情など知らぬわ人間め」
言い方は尊大だが……正直何処まで行っても外見が前世で出会った中で断トツの美少女だから恐怖が薄れてしまう。それが狙いなのかもしれないが、滅茶苦茶やりにくい
どれだけ美少女だろうが始水じゃなければ……いやアナや桜理やアルヴィナの姿でも困るか。縁も所縁もない相手ならば動揺する事もないんだが、知り合いの外見をされているとどうしても困る
「見るが良い、崇め、讃えよ」
ナルシスト……じゃないな、外見は本当に始水ブラックそのものだし。服の色を黒くして表情を嫌悪に変えただけ。本当の姿じゃないだろう
「何が言いたい」
「この世界でたった一つ、価値あるものだ」
理解した
ああ、どれだけ神様って尊大に振る舞っていても……こいつは円卓のリーダーだ
「価値あるもの、か」
「理解できるだろう人間。それすら分からぬならば」
「分かるさ。だが、それはたった一つなのか」
「一つですよ、にいさん?」
始水の声だけになって、嘲ってくる龍少女
「この私以外に、何処に価値などあるというのです?」
「本来のその体で生きている神様なら、この世界そのもの、其処に生きる皆ですが?と返すだろうな」
聞こえないが、始水が深く頷いている気がする
「その辺り、所詮は偽神よな。価値なきものに意味など見出ださんとする」
小馬鹿にするような笑みを浮かべる龍少女
「されど許そう。それが星の龍の性質ゆえに。初めは盲目であろうとも。
内心で何処が完全だ、と吐き捨てる。
そもそも、他人の姿をしてる奴が完全な筈が無いんだが、それを指摘した時どうなるかが未知数過ぎてそんなことは出来やしない。折角あーだこーだ気前良く語ってくれているのだ。隙を探しつつ情報を集めるに越したことはない
「星の、龍……」
いや、始水だって無から産まれて世界を作った訳じゃないだろう。確かにこの世界の創造神の一柱だが、それ以前は神じゃない何者かだったというのは分かる
それが星の龍と言うことだろうか
「然り。皇龍
……いや、そんな名前だったのか始水!?
「彼女は、ティアだ。我等が抱く七天、ティアミシュタル=アラスティルだ!」
「それこそ、正すべき過ちよ。悠久を統べ真なる神と共に在るべき
「そんなもの、人に言うな!」
始水に言って……いや絶対に困るから勝手に妄想で収めててくれ
「……だから言うのだ。この世で唯一価値あるものに護られし常命よ
価値ある者に護られているからといって、貴様らには価値等無い。それを理解し滅ぶが良い」
……何だか始水感ある言い回しが常に剥がれだしたが……
『兄さん、大丈夫ですか?』
と、耳に届く何時もの声
始水
『ええ。すみません、漸く繋げられるようになりました』
いやスワなんとか……
『兄さん。それは此処ではない私の産まれた世界での名です
諏訪建天雨甕星。風と水と戦を司る、皇の名を抱く伝説の生ける星の龍
そんなもの、遥か過去の話です。今の私は始水以外の名で呼ばれても返事しません、良いですね?』
怒られた
だが、これで良く分かる。あれと違って、本物の始水はこの世界を、其処に生きる皆を愛して護ろうと思っている。だから、この本名より世界の神としての名(いやその捩りで付けた日本名)を誇りとして語る
あいつは
『……兄さん、神はこの世界に入れません。私たちがそう作りました
ですが、知ってますか兄さん。化身であるティアは世界の中で活動できます』
つまり、あいつは……
『はい。どうやら魔神王に追われ奴等の本拠地に近付きすぎた際に、型を取られこの肉体のデータを完全にコピーしたものを彼が確保してしまったようですね。それを使って、入れない筈の世界内部に乗り込んできた』
で、繋がらなかったのは
『私が既に居るのに同一のデータの化身が二人に増えて混線してしまった。ですが兄さん、漸く安定させられました。お陰で向こうも自動でやっているらしい私っぽい言い回しへの変換が崩れてきたようです』
ほっと息を吐きながら早口になる龍少女(本物)。それだけ心配してくれていたのだろう
有り難う、始水
『いえ、神々が大体あんな阿呆だと思われたら私が困りますので
後は変身時の兄さんと同じです。違和感からそのうち世界による強制排除が起こりますからそれまで何とか耐えてください』
ああ、有り難うと心の中で告げて一度言葉を切る
少女もこれ以上語りかけてくることは無かった。聞きたいことはあるが、後で良い
「じゃあ、俺達は?」
「私達は何なのさ!」
と、そんな間に、翼を拡げた神へ向けて二人の転生者が噛みつきにいく
「元より価値等無い。それも分からぬか常命の滅ぶべき者よ」
「いや一応私だって聖女なんだけど」
「七天?星の龍が居たから混沌を切り開けた滅びるべきであった有象無象
あのような者共が
黒いティアは目頭に涙を浮かべ、ぽろぽろとそれを溢す。下手に仕草だけは愛らしいからこそ、神経が逆撫でされるがそれをおれは抑え込む
「何たる不幸か。かくも世界は穢れている」
何様だお前!と喉元まで出掛けた言葉を呑み込む。折角始水が作ってくれた生存の筋、わざわざ怒らせて断つ事はない
だが、遅かったようだ
「……ふん。宝の持ち腐れよな」
愛らしい顔に何度も見た嘲りが浮かぶ。今の視線の先は……桜理
「所詮人間。使いこなせる筈も無かったか。封印まみれ、穢れ憐れな姿だ
なれど」
「え、何!?」
「……多少は起動しよう。来たれ、AGX-15 《ALT-INES》」
その瞬間、勝手に少女の腕にある腕時計のベゼルが展開し、緑の光を解き放った
そして、何かあるかのように虚空に腰掛ける黒き龍少女。座り慣れていないのかスカートが捲れて折り畳まれてしまい下着が全開だが、そもそも見ちゃいけないものだということは置いておいて、見えたとしてここまで見えて嬉しくもない美少女のパンツも無い。ってか、始水の体で止めてくれないかそれは!?