蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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鋼皇、或いは旧き祖

……来る!

 一拍置いて、そう感じた。いや、既に其処に居るかのように透明な何かに腰掛け、足を組んで見下してくるティアーブラック/アヴァロン・ユートピアが居るというのに、今更そう感じるというのは狂っている気もするが、直感してしまうのだから仕方ない

 

 そして、折れた刀をそれでも迸る雷撃……諦めるなとでもいうかの如き託された想いと共に鞘に収め、何処まで通じるかも分からない抜刀術を構えたその刹那!

 世界が歪んだ。時の果て、因果の地平線、最早理解の及ばぬ何処かからこの世界へと溢れ出す何かの気配に、時が一瞬飛んだ気がした

 

 いや、実際に一歩後ずさった覚えがない。湖の畔近くのおれは、湖が凪いだ状況から荒れ始めたとは認識していなかった。なのに気が付いた時には、ばちゃばちゃと周囲は水浸しになっていて、出現した超重力源に引かれ湖から溢れた大量の水を既に浴びていた

 本当に、時が飛んだとでも言うのか、これは!?

 

 そして、響き渡るのは上手く聞き取れないが何度か聞いた降臨の詠唱。されど、何時ものそれよりも、何倍と想定する事すらも不可能な威圧感を感じた瞬間……

 腰掛ける黒き龍少女の下の見えない何かの周囲に、3つの巨影が現れた。降り注ぐ緑光と共に未来から顕現するのは、紅蓮の巨人。世界を歪め重力球から降臨する、天蒼の機神。そして、突如空間に生えた精霊結晶を砕き誕生せし、深緑の化身。同じ姿で、けれども色が違う巨神達が見えない何かと完全に重なり合い……完全に色付いた一機の機械神として本当の意味で世界に降り立った

 

 正義を示すように精悍で、けれど何処か悪魔のような恐ろしさを感じさせる顔立ち。銀鋼のコアフレームが黒に近い紺の装甲を纏ったような立ち姿。胸元に見えるX字……といっても、上が炎のように大きく、そして躍動的に拡がっている為ぱっと見悪魔の羽根を模した赤きV字にも見える赤熱する胸部アーマーと、その中央に輝く『神』の文字

 その背にはセレナーデが獅子姿になった際に見せたものに何処か似た三つの黄金の円が三重に重なって出来上がった太陽のような光背を背負い、其処からオーラの巨大な緑の光翼を生やす。皇帝を思わせる圧倒的な威圧感と、天使のような神々しさ、そして魔神のごとき荒々しさを携えた、黒銀の巨皇

 

 旧き祖なる者。太古より続く歴史の果てに産まれた、人類史の守護神。その祈りを込めた名を託された正義の魔神、AGX-15アルトアイネス!

 その偉大な姿が、忽然と最初から其処にあったように存在していた

 

 「これが……アルト、アイネス……」

 「待っていたぞ、勝利の化身デビルマシンよ」

 立っているだけでやっとだ。フルパワーのアガートラームと対峙したことはないが、同じくらいなのだろうか。光背まで含めれば全長20m近い機械神の顔に、その輝く瞳の光に射抜かれるだけで背筋が冷たくなり膝を折って平伏したくなる

 

 勝てるかどうかじゃない。そう思わせてくる、総てを越えた存在感

 ただ仁王立ちで突っ立っている、それだけで……体が動かない

 「何で、それが……」

 怯えた声で自身の勝手に動いている時計を見下ろす桜理

 「ふん。(わたし)の与えた力を、貴様のものと思うたか?」

 度しがたいと目頭を抑えて泣き真似をしてみせるブラック龍少女。可愛いが、言ってることはクズだ

 

 「平伏せよ、人間。神の御前である

 グラビトン・ディバイン・ジャッジメント」

 刹那、肩にかかる重圧が数百倍に増大し、おれは顎から大地に叩き付けられた

 

 「んがっ!?」

 っ!アガートラームも使ってきた超重力圏!

 「アナ、リリーナ嬢!オーウェン、リック!」

 皆の名を叫びながら、膝の力だけでおれは世界最大の滝の全質量が上から雪崩落ちてきているのかとでも言いたくなる重力の中膝立ちで立ち上がる

 

 「って俺は無視かゼノ!偉くなったもんだな!」 

 「お前だけは良く分からんアイムールで動けるだろエッケハルト!」

 ひび割れてぐしゃぐしゃと潰れていく舗装された道路。粉々に分解され沈む船の残骸。そんな中で唯一、何一つ影響を受けずに突っ立っていられる相手におれは吼える

 いや、そのアイムール真面目に何なのか聞きたくなるが、ジェネシック・ティアラーへの変身も含めて恐らくはユートピア(眼前に居るアヴァロンなんちゃらでなく始水や道化様の話でしか聞いたことがない本物の方)の力を借りた影響だろう

 

 「確かに!だけど心配しろよお前はさぁ!?」

 言いながら、ちらりとアナの方を見て、苦しそうに地面に押し付けられる少女の姿に彼は怒りを露にする。紫の巨斧から炎と冷気が怒髪天を突いて噴き上がる

 「アルトアイネスだか何だか知らないが!」

 「邪魔だ、下郎。滅びるべきであった者たる精霊真王に欠片を与えられた分際で、静かにすべき時ほど良く吼える

 凍てよ」

 「ふざけっ!」

 「レヴ・システム、ハウリング」

 「は?」

 何処かセレナーデで聞いた覚えがある音が耳に届いた。そう思った瞬間……

 

 「なっ!?はっ!?こ、これ!」

 エッケハルトの胸元に、腰のポケットから勝手に飛び出した紫色の装飾のある鋼のメダルが吸い込まれ……

 

 『グルギャォオオオォオオオオッ!』

 爆発的に気配が膨れ上がる。この存在感は……ジェネシック・ティアラー!

 

 だが!

 『ルヲォォォォォォォォッ!』

 咆哮を上げながら変わっていく紫の装甲恐竜に理性の光はない。やはり、前と同じく暴走している!

 こんな方法で半ば無力化されるなんて!想定しきれていなかったか!

 

 でも!

 「っ!殿、下……」

 「うん」

 少し遠くで示し合わせたような言葉が響く

 「殿下、手を貸してくれ!

 カモン!LI-OH!そして……」

 カッ!と輝く緑の光。この世界に残るAGXの息吹たるレリックハートが煌めき、空に鬣の機神の姿を描き出す

 「『ジェネシック・フュージョンッ!』」

 

 「『大地(ガイア)生命(ブレイブ)(ソウル)!……創征(ジェネシック)ッ!

 焔誕せよ!GJT-LEX!』」

 そう、前回だって暴走していた以上対処は出来る!降臨した鬣の巨神が相も変わらず暴走した機械恐竜と一つとなり、腕のゴツいアルトアイネスを遥かに越える上半身のみ屈強に過ぎる合体機神へと姿を変える!

 そう、これならば重力圏の影響も受けず……

 

 「吼えろ!」

 「ブリューナク・カイザァァブレェェェクッ!」

 天へと掲げられたアルトアイネスの指先。その指先へ集約された雷轟が、獅子と機竜を貫いた

 一瞬精霊結晶こそ見えたが、それを一瞬で溶かし尽くして迸る雷撃。それはあの日ATLUSが撃ってきたそれを……遥かに研鑽を積んで磨き上げた果てにある皇の一撃。極限の雷槍が一つになった機械恐竜と鬣の機械神を関節部から2桁を優に越える断片へと粉砕し……バラバラになったGJT-LEXは暴走したのだろうエンジンの爆発によって完全に凍り付いた

 

 一撃だと!?

 「竪神!エッケハルト!」

 時間稼ぎも何もない!あまりにも……セレナーデと比べてもスペックに差がありすぎる!耐えるとか真面目にそんな領域の火力をしていない!攻撃される=死だ

 これが、最強のAGXっ!桜理がこいつで戦ってくれればどれだけ楽だったことか!と言いかけて、その心を振り払う

 当然の面で桜理に与えられたアルトアイネスを使ってきたんだ。桜理が使おうとしてたら何が仕掛けられていたか分かったもんじゃない。使わなくて良かったんだ

 

 こんな、世界を粉々に出来るヤバい力!

 

 だが、そんなことを思っても意味はない。今、眼前には確かにその驚愕の力が立ちはだかっているのだから

 

 「……なんで、たつんだよ……」

 苦しげに聞こえるそんな声。リックが、おれに瓦礫に顔を埋めながら問いかけていた

 「民を、皆の未来を護る、それが皇族だからだ」

 「……ぼく、も?」

 「そんな当たり前の事を聞くな」 

 と、言ったはいいものの、どうすれば良いか本気で皆目見当がつかない

 始水のお陰であいつは時間制限で消えるだろうが……逆に消えるまでどう耐えろというのか。また煽りで話させるしかないか?時間切れに気付かれてちょっと攻撃されたらどうしようもないが……

 

 そう悩みながら、どうしようもない時でも最後にせめて一撃狙えるように折れてぶらぶらする左手に、鞘を腰に括っていた紐でくくりつける

 そんなおれを見て何処か得意気にぱたぱたと背中の翼を開閉し、組んだ足をスカートがはためくのも気にせずばた足しながら、黒き龍少女は鋼皇の左肩のアーマーに腰掛けて愉快そうに嗤っていた


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