蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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鋼剣、或いは鋼龍覚醒

「……ALBION!?」

 おれの横を駆け抜け、迸る原子光へと飛び込んでいくのは、鋼の巨龍人。AGX-ANC11H2Dアルビオン。けれど、その所有者である筈のヴィルフリートは、おれ達の敵の筈で

 

 そうか、リック!

 超重力にリリーナ嬢を抱えたまま大地に叩き付けられ崩れ落ちるヴィルフリートを見ながらその事に思い至る。また、あの能力でALBIONの所有者であるヴィルフリートに自分をコラージュしたのか。

 だが、何故!?

 

 アルビオンそのものを壊すことで自爆機能を無理矢理止めただけだ。そう、裏切り者を殺す為の機能は、決して停止などしていないというのに。また纏えば、同じ機能が……

 

 蒼き結晶を輝かせながら光に向けて片方しかない腕を突き出す龍機人の翼が()ぜた。やはり、壊れていく。あの爆弾は今も生きて、リックを襲っている

 

 「リック!」

 おれ達を護ろうとした!?でも、どうして!

 そんなことをしたら、今纏うそいつに殺される。第一、本来の所有者に奪い返されて終わる!なのに!

 

 「ぎゃうっ!?」

 バゴンと鈍い音と共にフルフェイスが弾け飛ぶ。その下から見えた少年の顔は、両眼から膨大な血を噴き出していた

 

 「ふん。既に何も見えぬだろう。アージュがくれてやった力、アージュの為に振るい続ければ、コラージュする為の世界を見る眼を喪うこともなかったろうに

 まあ、今此処でどうせ死ぬがな」

 そう、リックの両眼はコラージュの力を与えた神の呪いにより体の内部から潰され、ぽとりと眼球が地面に落ちる。もう、コラージュも何も風景を見ることすら出来ないだろう。状況すらまともに掴めるかどうか

 そうなるなんて分かりきってたろうに!どうしてだ、リック!

 

 「……アヴァロン・ユートピアァッ!」

 「コラージュの無い貴様に何が出来る?」

 「そんなもの、もう要らない!」

 だが、無くなった眼の血を拭い、隻腕の少年は天を突くように叫び続ける

 

 ……は?

 

 「カミキは死んだ、もう居ない!」

 ……少年は、おれの知らない何かを叫ぶ

 「だけど、ぼくの心に!この胸に!彼の示した道は輝き続ける!例えこの眼が潰れても!道しるべは此処に在る!」

 「死した者に意味など無い!」

 「あるっ!ゼノ皇子とアニャ様は、ぼくを……ぼく自身を信じてくれた!カミキはぼくに道を照らしてくれた!

 ぼくは、俺だ!カミキでもゼノ皇子でもない!彼らになる必要もない!彼等の立場にコラージュなんて、意味がない!

 俺は、俺だ!下門陸(しもんりく)だぁぁっ!」

 「だからどうした!」  

 魂の叫びに、別人姿の神は嘲りの声を溢す。そうだ、無理矢理ALBIONを奪ったところで……

 

 が、その瞬間!勝手に壊れた兜の代わりの予備が虚空からブラックホールと共に呼び出され、リックの頭に被さる。更に……その瞳が投影するのは一つの写真。片眼を仮面で覆ったアヴァロン・ユートピア……いや、片腕が竪神頼勇のような義手だったりと細部が違う男と共に何処かの施設に佇むアルトアイネスの写真。そう、11(アルビオン)には本来時代が違うから残っている筈の無い、未来の写真

 こんな事が出来るのは……本物のユートピアか!

 

 「『叫べ!その魂を!鋼の龍は、オレの願いは!お前と共に在る!』」

 「カットアンドペースト、コラージュ!」

 その刹那、リックの……アルビオンの背後に現れるアルトアイネス!ある筈の無い写真を使って、所有権をコラージュしたのか!

  

 「アイン・ソフ・オウルっ!アキシオン・ノヴァ!」

 そして、アヴァロン・ユートピアの腰掛ける機体が所有権をコラージュされたせいか半透明となり……現れた二機の鋼神の放つ二つのビーム!二つの終焉は対消滅して消えた

 

 「ユートピア、おぞましき人め!」

 「だが、返して貰うぞそいつ!リック!お前にアルビオンなんて勿体無いんだよ!」

 が、あくまでも時を歪める一撃が終わっただけ。二つの怒りがリックと半壊したALBIONを襲い……

 

 「なっ!?」

 バキン、とヴィルフリートの腕の時計が凍り付いた

 同時、咆哮をあげる機械龍人。その瞳が、今までに無いほどに煌々と輝いている

 

 「アルビオン、戻れ。戻れってんだよ!僕の命令だぞ!」

 それでも、鋼の龍は其処に在る。消えることはない

 「まさか!貴様!そのゴミを正規のパイロット……乗り手として認め、反旗を翻すとでもいうのか」 

 顔を歪めた神の言葉を肯定するかのように、輝く瞳

 

 「この失敗作がぁっ!」

 「リック!この泥棒が!裏切り者は……死ねよ!」

 ヴィルフリートの叫びと共に完全に機龍の翼が爆発して砕け、その機体は空から墜落する。それでも何となくリックを護るように、殆ど無い結晶を輝かせて盾を張り、機体は何とか地面に降り立った

 

 「リック!」

 「ゼノ皇子。ぼくは……俺はっ!」

 何かを言いたげな彼。そんな彼の横に、無言でおれは立つ

 『クルゥ!』

 そして、投げ渡される折れた愛刀を手に、静かに一つだけ頷いて意志疎通。そうだ。分かるとも。何がやりたかったのか、何が切っ掛けだったのか、そんなものは分からない。彼の言うカミキが誰なのかだって知りやしない

 

 それでも、彼が勇気を振り絞った事実だけは理解できて。それ以上のものなんて必要なかった

 「この人間め!」

 「そうだよ。人間だから、頑張るんじゃないか!この世界で、生きているから!」

 勝手に輝く腕時計を手で覆い、対消滅の余波で重力圏の消えた中何とか立ち上がった桜理が吠える

 

 「だから!アルトアイネス!君にも想いがあるなら!僕たちに力を……お願い!」

 カッ!と輝く腕時計。その黄金の瞳を鋼皇が光らせたかと思うと、リック目掛けて巨大な剣がブラックホールから放たれてくる

 

 が!

 リックの……ALBIONの拳と激突した瞬間、その巨大な蒼き剣の刀身は縦にまっぷたつに割れ、そこから柄が分離して……砕けたブースターの翼を、もう少し生物的なブレードウィングへと変えるようにALBIONの背に、そして柄は展開しながら兜に新たな角として合体する!

 

 「来い!そして解き放て!AGX-ANC11H2D……S(ソウル)f(フル)C(キャリバー)

 アロンダイト・アルビオン!」

 「んなっ!結局ALBION自体がアロンダイト完成時にはもう無かった筈だろ!」

 焦りと共に叫ぶヴィルフリート

 「うん、そうだね。でも、此処に在る」

 桜理の静かな声を掻き消すように、新たなる翼を得た龍機人の殆ど溶けていた各部の結晶がアロンダイトと呼ぶらしい巨剣から送られたエネルギーを受けて一気に完全にまで生え直した

 

 「ちっ!おい、シャーフヴォル!お前の」

 大事そうに重力により意識を手放してぐったりしたリリーナ嬢を背中と膝に足を入れて抱えあげ、さらっと頬に口付けながら叫ぶヴィルフリート

 逃げようというのだろう。だが!

 

 「ぐぎがぁっ!?」

 突然その背中で炸裂する爆発によって少年は体勢を崩し、桃色の女の子を思わずといったように放り投げる

 

 「言ったろ、仕込んでるってな?」

 投げ出された体を抱えてにやりと笑うのは、大きな犬耳の青年。そう、ロダ兄のアバターだ

 「悪いなヴィルフリート。お前に何にもやれないって訳よ、縁がなかったと諦めな」

 「このっ!返せ!僕のリリ姉だぞ!」

 尚も手を伸ばすヴィルフリート。けれど、凍り付いた時計が重いのかその手はすぐに落ちる

 

 「死ぬか下がるか、好きに選べヴィルフリート」

 「ちっ!」  

 「人間共よ。何故そうも抗う。死ぬべき命に初めから価値など無いだろう。何故だ、何故産まれる。世界の一部を喰らい、穢しながら何を為そうとする

 何も意味など無い。無いのだ!貴様らに産まれてくる価値も、理由も!」

 その背後に控えていた半透明の鋼皇の姿が虚空へと消えていく 

 

 「桜理」

 「有り難うね、アルトアイネス。君を僕じゃ使いこなせないから……これ以上暴れないために眠って」

 仮にも操る力を渡された少年姿の少女の言葉に今は素直に従い、最強のAGXの脅威は消え去った

 

 「リック、行けるか」

 「何とか!」 

 明らかに大丈夫じゃないだろう。アルビオンの機能がある程度居場所とか教えてくれているっぽいが、ちょっとおれの方を向こうとして30度くらい目線がズレている

  

 けれど、それでも戦おうという意志に獰猛な笑みを浮かべながら、おれは最強の力を取り戻された神へと刃を突き付けた

 「さぁ、行こうかリック」




コラージュ要らないの直後に使っててオイとなるかと思いますが、ぶっちゃけあれ心意気の問題であって使わないと対処が出来なかったので許して……

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