蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……有り難うな、
下門陸というらしい意識と、そしてリックという肉体。空に咲く花火のような彼の最期の光を右目で見上げておれはそう呟く
結局、分からなかったことは多い。おれ達と最初から仲良くしたかったが脅されていたのか、それとも最初はやらかす気があったが止めたのか。カミキという名前も彼の兄貴分ということしか分からないし……
それでも、おれは彼を見
「皇子、何だったんだ彼は」
訪ねるのは百獣王ダイライオウを格納庫に帰還させた青髪の青年
「最後だけは、おれ達の仲間だよ。おれもそれしか分からない」
「ま、自分で己の悪縁を断とうとした、それだけは確かってこったな」
あー疲れたとばかりに翼をだらんとしながらロダ兄がやってくる。アバターが一個吹き飛んだからか大分疲労の色が濃いが、それを思わせずに少年を抱えたまま歩いてくる
「お疲れ様、ただいま、皆」
「ただいまじゃねぇっての!死にかけたぞ俺!」
「いや一度死んでたぞエッケハルト」
「うげっ!そう言われると心臓が……ギリリと痛い!助けてアナちゃん!膝枕!」
「いや結構それ元気だよね……」
ポツリと告げるのは、複雑そうに自身の手の腕時計を見下ろす桜理
「やっぱり、恐ろしいものなんだよね、これ……」
「ああ。万が一使いこなせれば」
脳裏に浮かぶのは鋼皇の姿。あれがアルトアイネス、あの機体さえ使えればどれだけ心強いだろう。敵として対峙したあの機体の恐ろしさは身に染みて理解できてしまったから、よりそう思う
「だけど、使いこなせなければ彼の、アヴァロン・ユートピアの思う壺だ」
その言葉に黒髪の少女は曖昧に頷いた
「うん。そうだよね。僕はあの機体をきっと使いこなせない。敵だったけど、最期に少しだけ本当のアルビオンを見せてくれた彼みたいには」
いや味方だぞ桜理、と言いたいが呑み込む
リック自身やらかした事は大きい。許せる許せないはあるだろう。おれはただ、民を守る皇族として民であるリックを、下門陸を許せただけだ。許せないと思うのも当然で、それは間違ってないと思う。個人の考えなのだから平行線、間違いが無い以上妥協点もない、互いに心の中に仕舞うのが一番だ
折れた刃を見下ろし、折れた腕に引っ掛けた鞘へと納める
まさか折れるとは思わなかったが、これからどうする?一瞬だけ呼び出した轟火の剣に今までもかなり頼ってきたが今以上に頼るわけにもいかない。というか、あいつ父さんの持ってるものをそのまま呼び出してる以上、この先に魔神だなんだと本格的に戦う際に毎回父さんの武器を奪うなんて出来ない
だからこそ、死してなおおれ達に手を貸してくれる天狼の角を埋め込んだ愛刀は本当に頭が上がらない武器だったのだが……
最低限全部残っていれば、修繕が出来た可能性はある(そもそも修繕すら出来ないがそれ以前に傷一つ付かない武器のはずなので直るかは微妙だが)が、切っ先は神に突き刺されたまま消えた。材料すら足りない
「皇子さま、大丈夫ですか?」
心配そうにおれを見上げてくる聖女にひきつった笑いを返す
「大丈夫さ、アナ。だから離れてて」
「え、なんでですか?」
「これから残酷な事をするからだよ」
と、おれはロダ兄に目配せし、エッケハルトにも眼でメッセージ
「行こうぜアナちゃん」
「残酷って何を」
「悪いが拘束もそのうち破壊される。リックが、シモンが壊してくれたALBIONだって、数ヵ月もすればきっとこいつの手元に戻ってきてしまう。だから……その前に二度と飛べないように。ヴィルフリート、お前の腕ごと貰っていく」
そう、何度かAGXやその召喚用の装置は破壊したのだ。それで今こうなっている以上……両腕を落とさせて貰うしかない
「外道!悪魔!ゼノ!助けてリリ姉!僕のエンジェル!この悪魔を止めてくれ!」
じたばたと暴れる少年だが、ロダ兄に捕らわれていて上手く動けていない
「ヴィルフリート。おれはお前を殺さない。罪を自覚し、購い続けろ。リックじゃないが、生きることが、償うことが戦いだ」
おれのように
そう付けようとして、言葉が途切れる
「ふざけるな!僕はリリ姉と!自由に生きる!」
「もう、無理だ」
もう一度抜刀。半ばから折れていても、腕くらい切り落とせる
静かに覚悟を決めて、ロダ兄に地面に彼を下ろして貰い見下ろす
……顔が違う。何だか見覚えが……
っ!
「獅童君?」
心配そうな桜理の声
「皇子さま?」
「獅童。やっぱりそうだよな、三千矢」
目の前に見える顔は、良く知る顔の、少しだけ幼い日のもの
「カズ、おじさん……」
おれを、家族を喪った獅童三千矢を拾ってくれた獅童
「お前は僕たちから兄や万四路ちゃんだけじゃなく、リリ姉や僕の未来すら奪うのか、三千矢!この疫病神が!」
やるべき事は分かっているのに手がブレる。刃が空を切る
そして……
「はっ、遂に戻ってきたぁぁぁぁっ!」
バキン、と氷が砕けたかと思うと、和喜の姿は青きオーラに包まれた。そして現れるのは鋼の龍機人。各所のパーツは陸のお陰で欠けまくっているが……背に煌めく剣翼と完全に復活した結晶体を煌めかせる機械龍が其処に降臨していた
「リック、お前は糞だったよ。死んでくれて清々する
でも、サンキューな、最期だけ役立ってくれて。お陰でよりパーフェクトな、シャーフヴォルに外れと虚仮にされないアロンダイトの力を、僕にくれてよ!」
『コォォォォッ!』
何処か寂しげに、剣翼を携えたアロンダイト・アルビオンが咆哮する
速すぎる!もう復活してヴィルフリートが使えるようになったっていうのか!
ならば、彼の必死の抵抗はなんだったんだよ!命を捨てて自爆を受け入れて!それですら稼いだのはほんの数分だけか!
ふざけるな!
そう叫びたいが、眼前の剣の翼を翻す龍がその隙を見せてくれない
「ヴィルフリートぉっ!」
「……三千矢。僕からこれ以上リリ姉まで奪うのか。一兄さんを奪い!万四路ちゃんを奪い!そしてっ!」
ほんの少し、迷いが生まれる。その瞬間、裁きは下った
「だから、これ以上僕から奪うんじゃねぇよ三千矢ぁっ!死ねぇ!ブリューナクッ!」
そして迸るのは剣翼から溢れた力が結晶となり解き放たれる結晶混じりの雷の槍!それをおれは折れた刀で鍔迫り合いの要領で受け止めるが……
止めきれやしない。直ぐにぐぐっと押し込まれていく
「なあ、三千矢。お前は死ぬべきだろ」
昔から聞いていた正論が耳を打つ
だが、その瞬間
「……やっと見付けた」
おれの横に不意にひょこっと姿を見せるのは黒髪白耳の狼娘
「アルヴィナ!」
「鋼の龍が、死者の想いが泣いている
だから、皇子……」
エネルギーが螺旋を描き、雷槍が炸裂する。完全に爆発におれとアルヴィナは呑まれ……
「はっ!死んでてくれよ三千矢。それがお前の役目だろ?」
粋がる和喜伯父さん。彼にも思うところはあって、正論でもあって
それでも、とおれは……刃渡り79.7cmの蒼刃を振るい、巻き上がった煙を切り払った