蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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事後処理、或いは心境

「その、大丈夫なの獅童君……?」

 心配そうに紫色の瞳で見つめてくるのは桜理。怨めしそうにカタメカクレしたままアルヴィナが爛々と眼を光らせているが、それは気にせずおれの左側に立ち続ける

 

 「大丈夫だよ、オーウェン」

 皆に事情を話してないだろうから、おれは彼女をそう呼ぶ

 「あ、アルヴィニャちゃん、こっちですよ」

 と、おれの右手を支えてくれていた少女が少し離れてぱたぱたと手を振った

 「ボク、あーにゃんの場所は盗りたくない

 だから」

 と、黒髪狼娘はそれをガン無視して桜理を睨み続ける

 「……君は不安だし、あまり心を許したくはないかな」

 

 「勝った」 

 と、やり取りを無視しておれの頭にぴょこんと乗って丸くなるオレンジ猫。アイリスのゴーレムだ……って持ってきてたのかその個体

 

 それを見ながら、目配せしてロダ兄と笑い合う。気を抜けるだけの余裕はもうあった

 

 「でも、皇子さま。本当に平気ですか?」

 と、銀の聖女の青く澄んだ瞳すらもおれを上目に見上げてくる。ってか、良く見ればそこまで酷い事はされてないはずだが戦いの余波だけでちょっと服が破れて肌が覗いているんであまり見返したくない

 特に胸元。純白の布の切り口からちらちらと水色のフリルの付いた何かが見え隠れする。そこのエッケハルト、ガン見は止めて差し上げろ

 

 「……おれは平気だよ。左腕は折れてるけど治る範囲だ」

 「そうじゃなくて……皇子さまはずっと自分を責めてました」

 そうだなと頷くおれ

 「そして、わたしには詳しい事はまーったく分かりませんけど、三千矢っていうのが皇子さまの事で、あのヴィルフリートさんはそんな別世界の皇子さまの事を知ってる……んですよね?」 

 ぎゅっと手を強く握り、不安に満ちた眼がおれを射る

 「皇子さまが苦しむ原因、あの人に関係あったりしませんか?心は苦しくないですか?」

 どこまでも真剣におれを心配してくれる少女に、大丈夫だよと眼を細める

 

 「そうだな。心配かけた」

 「はい。でも皇子さま、あなたは……」

 捲し立てるように何かを言いかけて、そのくりっとした眼がしばたかれる

 

 「あれ?皇子さま?」

 「彼は獅童和喜。事故で死んだおれの家族の縁者の人」

 「あれ、結構平気なんですか?何時もみたいに、おれが皆を殺したせいでって……」

 「言わないよ、もう」

 眼を閉じて、一つ息を吐く

 柔らかく儚いその手を傷つけないようにゆっくりと、おれは右手を空へと向ける

 

 「別にさ、まだおれはおれを信じれちゃいない。皆が死んだのにってさ、自分を責めたくなるよ」

 でも、と眼を見開く。視界に映るのは満天の星空。地球より星の光が強く、地上の星が光景を打ち消さないから拡がる無限の輝き

 

 「君はずっとおれを信じてくれていた。桜理は昔のおれの意味を……無かったと思っていたそれを、違うって言ってくれた」

 そして、と愛刀を超短距離転移。だらりと吊り下げた鞘に収まっていた筈の神器を右手の先に呼び出す

 

 「そして、万四路が、下門が、アウィルが、それだけじゃなく数多くの人がおれに託してくれたんだ」

 澄んだ刃は星の光を受け、桜の雷光を虚空に散らす

 「ああ、確かにおれの罪とかは無いなんて言えない。でも、それと同じだけ、いやそれ以上におれを信じてくれた者達が居る。天の光は総て星、おれ達を見守る光だ

 だからさ、アナ。おれは……君達の信じたおれを信じる。確かにおれのせいでってのはあるんだろう、和喜おじさんの恨みも分からないでもない

 それでも、おれは前に進むよ。天の光が見守ってくれる限り」

 「えへへ、そうなんですか皇子さま?」

 ……何だろう、聖女さまがとっても上機嫌  

 

 「……アナ?」

 「アーニャさま?」

 「やりましたアルヴィニャちゃん!ずっと皇子さまを信じてきた甲斐がありました!

 えへへ、これでもう、自分はって変に追い込んだりしませんよね?」

 「皇族としてやるべき事はやるよ。でも、ちょっと立ち止まって考える。君達の信じたおれであれるかどうか」

 考えた果てに、おれ達に命を懸けて流星のように燃え尽きていった下門のように

 

 「じゃあ、もうおれは忌み子だからって一人で居ようと距離を取るなんて寂しい事もしませんよね?」 

 「いや、それとこれとは話が別だ。君達の信じたおれを信じても、呪われた忌み子であることは変わらない」

 「何でですか……」

 いきなりご機嫌に少し揺れていたサイドテールが沈みこんだ

 

 「そうだぜアナちゃん、こいつ呪われてんだよ!」

 「だったら、呪いを祓うまでです」

 「逆効果っ!?」

 そんなやり取りが出来るのも、一時の平穏を取り戻したからで

 

 「ゼノ」

 ふわりと降り立つのは弓を構えた一人の青年

 「シルヴェール先生、いや兄さん」

 「すまないね、生徒皆の誘導や保護を優先した結果、手助けする余裕は無かった。特にノア先生は突然不快ねと消えてしまうし……

 いや、居たとして二人ともどれだけ役に立てていたかは未知数だけれども、ね」

 殆ど損傷がない……いや、もう戦闘開始前より遥かに戦いの傷痕が残らない畔付近を見ながらそう告げる兄

 というか何やってるんだノア姫。いや、寧ろ良かったのか、コラージュしてた時の下門やヴィルフリート相手にだとプライドから普通に喧嘩売りに行きそうだしな、ノア姫。それを察して関わらない範囲まで身を引いてくれてたんだろう

 

 「……一応、今回は何とか撃退に成功しました、シルヴェール兄さん」

 「……事後処理は大人に任せてくれるかな。聖女様方に無理をさせたって言われる前に、ゆっくり休ませるように」

 その言葉に皆で頷く。誰も彼もきっと酷く疲れていて、異論は出なかった

 

 いや、寝床にしたおれの頭が揺れてアイリスキャットだけ不満そうだった

 

 此処に本当に、トリトニスで起きた二度目の戦いは終結した

今章のヒロインって?

  • 早坂 桜理/サクラ・オーリリア
  • 下門 陸/リック
  • ゼノ(獅童 三千矢)
  • アナスタシア・アルカンシエル
  • 諏訪建天雨甕星(金星 始水)
  • 門谷 恋/リリーナ・アグノエル

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