蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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外、或いはサクラ色の買い物

「……ってアイリス、そういえば外は大丈夫か?」

 と、連れ出そうとしておいて何だが心配になって背中に軽すぎる全体重を乗せてくる妹に問い掛ける

 胸だけは無くはないくらいで柔らかさがあるんだけど、他は本当に細い。食も細いがその上で燃費が悪いというか、一応これでも皇族として良いものは食べてるはずなのに動かずとも痩せていくのだ。ほぼ寝たきりで食べ物食べてて痩せるとか、羨ましいと言う人は居るかもしれないが、おれとしてはただただ不安でしかない

 

 そんな妹を外に連れていって本当に良いのかと思うが……

 「だい、じょうぶ……です

 無理なら、此処に……居ま、せん」

 ぺしりと何時ものようにおれの頭の上で丸まったゴーレムがおれの額を肉球のある前肢で叩いた

 

 うん、言われてみればその通りだ。王都内の自室から近郊の学園にまで出てこれてる訳で、外の空気が駄目という話はない

 「でも、乗り心地……最悪」

 「言わないでくれアイリス。人を運ぶのには慣れてないんだよおれも」

 「お姫様の、運び方……じゃ、ない……」

 背中でむくれるような気配がする

 いや待て、所謂お姫様抱っこじゃないなんてって話かこれ

 

 「勘弁してくれ、アイリス」

 「にゃう……」

 「唯でさえ今のおれの立場は色々と危ういんだよ」

 皇族としての功績としては、幾つか表だったものがある形。特に竪神頼勇の勧誘が大きいな。アイリス派の実質最大戦力であり、皇の名を冠した騎士団長等にも比肩する力を持つ「他国出身の」騎士。倭克との縁にもなるし、彼を引き込んだというのは一つおれの立場の補強になっている

 

 が、それ以上にマイナスが大きすぎるんだよな、おれ。忌み子という点でまず立場がないし、一昔前はアステール……つまり聖教国への縁に繋がっていたから良かったがそれが今は消えているせいで、聖教国を怒らせたと更に立場がヤバい

 ついでに、そこまで深い仲ではない状況で聖女リリーナと婚約してるだとか、聖教国の聖女アナスタシアに好かれてそうだとか、細かいところでも不興を買いまくってる上に……表立った戦績の中で目立った功績が無いのだ。いや、寧ろアナに懐かれている点は流石に放逐するのもなぁ……ってセーフティにもなってるが

 

 おれが公式に参戦したとされる戦いは幾つもあるが、だ。辺境を襲撃した四天王アドラー戦は、公式には『撃退』という扱い。彼は死んでいるのだが、公には影を止めただけで本体は生きているとされている。敵前逃亡扱いもあるし、被害は大きかったわけだし、決してあれは功績ではない

 まあ、仕方ないだろう。聖女伝説を知る者が、どうしてアドラーをテネーブルが討つと思う?あり得ない有り得ない、おれだって現実にアルヴィナとアドラー当人から聞かなきゃ信じないっての

 魔神が入学式後に色々と送り込んできたあの小競り合いも……被害0じゃなかった点を叩かれるしな。トリトニスでの二度の戦いも中々に被害が多く、特にアルヴィナが攻めてきた時は頼勇頼み扱い。割と戦闘でのおれの評価って低いのだ

 戦闘面でしか役に立たないとされているのに、戦闘面すら微妙。これで立場が良いはずもない

 

 「あとで、とっちめる……」

 「いや、誰をだ」

 「銀髪……お兄ちゃんを、任せるには……不足」 

 ああ、アナか

 「どうしてそうなった」

 「お兄ちゃんを好き……なのに、立場で、追い詰め、てる」

 「なぁアイリス、お姫様扱いしたら、アイリスも似たような事になるぞ?」

 あ、背中でしょぼんとしてしまった。言いすぎたか

 「なら……」

 ひょいと猫が頭から降りてくる

 「この子で、我慢」

 ……猫を腕に抱けと

 まあ良いけれど、それで良いのかアイリス。というか、おれへの感情が兄妹超えて……るのはゲームからしてそうだったか?

 

 複雑に思いながら、降りてきた猫ゴーレムを腕に抱くと……うん、重い。猫とは思えない重さだ。いや、ゴーレムだから当然だがな

 

 とか何とかやりながら、妹に開けてもらって隠し部屋を出る

 「いよっと」

 「……今は、要ら、ない」

 「俺様との縁はまだ要らなかったか」

 待ってたロダ兄が取り付くしまもない発言に笑って去っていった。いやスタンバイしてたのか……とおれはそれを見送る。そして……窓の外を見る

 風に揺れる木々。こうした光景はもう見慣れたもので、でも安全のためにもと王城の自室以外ではほぼ窓のある場所に居なかったろう妹には珍しいものだろう。気象は管理されていて王城じゃこんな風に風は吹かないしな

 と、下から喧騒が聞こえてくる。おれは今の時間にやる授業は取ってないが、今日の授業は終わっていなかった。今は休み時間に入った頃なのだろう

 あまり巻き込まれるのは今のアイリスには良くないか?そう思って、おれはちょっと窓を開けると……

 ひょいと三階からジャンプ、軽く着地して歩き出す

 ……あ、窓開けっぱなしだ。まあ誰か閉めてくれるだろうし、問題なんて稀に木の葉が廊下に舞い込むくらいだろう、そう信じよう

 

 「で、何処か見たい場所はあるか、アイリス?」

 「猫、居ない……」

 その言葉に苦笑する。猫自体まあ、そこそこ見かける生き物ではあるんだが、割と高いペットだし学園には居る筈もない

 いや、居るか?動物を使う魔法とか使う層は居るし、単におれと縁がないだけか

 ただ、縁かないということは、見せてくれとも言いに行きにくいわけで

 

 「じゃあ、王都の方に行くか」

 苦笑しながらおれはそう行き先を決めたのだった

 

 「あ、獅童君」

 と思ったら、そそくさと門を出ようとしている知り合いを見かけてしまった。おれの顔を見るなり、何だか嬉しそうに駆けてくるのは今もまだ基本が男装だし男の姿にもなっているサクラ・オーリリアである

 その額の前髪、一房染まった桜が跳ねる

 

 「……ゼノだ。周囲に人が居るだろ、オーウェン」

 おれも二人というか事情を知ってる相手だけなら彼女をサクラと呼ぶし桜理とも言うが、今此処では無しだろ?と微笑む

 「あ、ごめん」

 「まあ、おれが真性異言(ゼノグラシア)な事なんてそこそこ有名な話ではあるんだが、隠せるに越したことはないからな」

 「有名かなぁ……」

 「隠しておきたい敵には大概バレてるぞ?」

 バラしたとも言うが。いや何やってんだろうなおれ

 

 「僕とか気が付かなかったし……」

 「お兄ちゃんは、今のお兄ちゃん、しか……居ない」

 こうしてさらっと認めてくれるから、困るっちゃ困るんだ

 と、思いつつ少女の姿を見る

 

 「珍しいな、大きめのバッグなんて」

 桜理はあまりものを持たない印象があるんだが、今日は結構大きな手提げカバンを持っていた。勉強道具一式……いやその五倍は入るんじゃないか?

 

 「あ、これ?

 ほら、何かお金出たから……お母さんに色々と買っていきたくて」

 あ、そういえばトリトニスでの一件で頑張ってくれた皆へはアイリスとおれから機虹騎士団名義で褒賞を出したな。一番配りたかった彼はもう居ないし、機虹騎士団名義だから騎士団員の頼勇にも行かない割と片手落ちの褒賞だったけど、桜理にはちゃんと配られたのか

 

 「良かったな、桜理」

 「……えへん」

 と、何だか威圧と言うか自分のおかげ感を出す背中のアイリス

 

 「うーん、良いのかな?僕そんなに活躍してないよ?」

 「いや、皆良くやってくれたよ」

 「獅童君がそれで良いなら良いんだけど……」

 と、少女の眼がおれに抱かれた猫に向いた

 

 「あれ?獅童君腕の方は大丈夫?」

 「いや、大丈夫だ。さっとノア姫が色々と持ってきてくれたしな」

 普通に帰ってきた時、どうせ怪我してるでしょう?取りに戻ったのと悪びれずに包帯とか持ってきてくれたお陰で、そうかからず腕は治った。折れてただけだしな

 

 なんて話しつつ、少しだけ不満げなアイリスを背負いながらおれは王都へ向かった


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