蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……さて、分かるな馬鹿息子」
そして数日後、おれは父シグルドに呼び出されていた
「アイリスの事ですか陛下」
「父さんで良い。さて、分かるか」
「ああ、おれの
完全にバレているのは分かっている。だから包み隠さずにおれは父の眼を見てそう応えた
「そうだ。お前に……いつの間にか婚約者が変わっていて、かつ当初は何を考えているか分からず不気味だったがな
それはそれとして、婚約者の一人も居ない皇族というのは本来問題だ」
「そんなに要るのか、とおれは思ってしまうんだが」
「皇族籍を捨てた場合だ何だが面倒だ。特に今の時期は……」
男はおれを見て、少し遠い目で溜め息を吐いた
「どいつもこいつも結婚せん。何があったと言いたい程に、
その言葉に思い返す
一途な相手が病に倒れているので婚約止まりのシルヴェール兄さん、女装癖のルー姐、忌み子のおれ……確かに結婚してる皇族が少ないな。他にも結構独身が多い。いや、攻略できるキャラは大体独身の方が正しいんだが
「乙女ゲーム的には、女の子と結婚していたりする相手は困るからその影響とかあるのかもしれないけど」
「磐石な次代が居ないのは、群雄割拠という点で見れば戦力的には悪くないが……
もはやアイリスを婚約者の一人も無く野放しにはしてやれん訳だ。分かるな、馬鹿息子」
その言葉には頷くしかない
「おれは忌み子で血を絶やすべきだから結婚も何もないけれど、アイリスは違うしな」
散る火花
拳骨を落とされたのだと一瞬して気が付いた
「痛いんだが」
「
「……何が?」
「親が自分を忌み子に産んだせいで、あの子と恋も出来ないと言ってるようにしか聞こえんわ
お前にその気がないのは知っているが、端から見る者はそうは思わん。素直なのは構わんが、もう少し言葉を選ぶ事を覚えろ」
言われて反省する
確かに、忌み子なのは父のせい……っちゃそうなんだけど、悪意なんて無かった。それを責めるように聞こえてしまうのは問題だろう
「……ごめんなさい」
「気を付ければ良い。それで、だ
お前はまだ分かるが、他が此処まで結婚せんのは何かあるのか」
額を左手で抑える父。昔は見せなかった少しの弱みを晒す辺り、大分信頼されたと見るべきか
「……分からない。シルヴェール兄さんもアイリスも結婚していない以上、次世代の安定って一つアピールになると思うのに、何で結婚してる兄姉が少ないのか……」
「困りものだな」
と、言いつつ睨まれるおれ
「父さん、その眼はいったい?」
「一番はお前だ。あまり未来の嫁を悲しませるな」
「いや結婚とか絶対にしないからな!?忌み子だから血を絶やすって言ったろ!」
「……変わったな」
ぽつりと言われる言葉
「え?」
「一昔前なら、幸せに出来る筈がない、と言ってたろう?」
「あ、」
そういえばそうだ。忌み子だからに含まれているとはいえ、何でそっちが先に出るように変わったんだ、おれ
「いや、実際おれは……今でも分からない。女の子を幸せにする方法なんて知らない
おれに出来ることなんて、届かなくても手を伸ばして、誰かの手を掴もうとする事だけ。そして、その手を離さないために」
腰に吊った愛刀に目を向ける。応えるように、小さく桜の雷が散る
「戦い続けるだけだ。それで、誰を幸せに出来るかなんて分からないよ」
でも、それでも
「それでも、と言えるようになったか。
「いやだから違うって」
「まあ、構わんがな」
鋭い顔つきを何処か穏和に歪めて、彼は笑う
「言った以上、手離すなよ?
己はああも愛を向けられた事はないが故に、アドバイスなど出来ぬが。今更逃げられるという事は無いだろうが……何があろうと」
「いや、ペットかもの扱いしないでくれないか?彼女は」
……目を細められる
「彼女等は、一人の女の子達だよ」
恐らくはノア姫達を忘れるなということなのだろう、そう思って言い直す
「そこに好かれている事は分かるだろう?モノ扱いなどしていない、義娘と呼んでいるだけだ」
「というか、複数系で良いのか」
「お前、この
……うん、別にハーレムでも逆ハーレムでも許されるんだよなこの世界……
いや、おれはそういうのどうかと思うし、ゼノもそうだったというかヒロイン以外にまともに恋愛フラグ立たないタイプのキャラだったが……。フラグ立つ他のキャラでもヒロインと恋愛する場合一途なんでそこは良いか
「っていうか、話が逸れてないか父さん?」
「逸らしているとも。この阿呆の事も心配でならんからな。言わねば分からんか?」
「……すまない」
うん、何か謝るべきだったろうかと思いつつ頭を下げる
「まあ良いがな、半端に改善してエルフめに見捨てられたりするなよ?」
茶化すように言って、男はばさりと資料をおれに投げ渡した
「さて、この馬鹿息子の事はある程度嫁に任せれば良いとしてだ」
ちらりと見れば、それは男の経歴等を描いたような紙であった
「これは……アイリスの?」
「そうだ。見覚えはあるか?」
言われて目を通す
四人の男の絵と軽い経歴等が載っている。どれもこれも見覚えがある感じだ
という訳ではない。当たり前と言えば当たり前なのだが、元々容量と予算が足りなくてパートボイスだったりしたゲーム版で、このイベントで出てくるだけのモブキャラに各々固有のグラフィックなんて用意されてる訳がないのである。が、ゲームではないこの世界で全員モブ顔な訳がない
結果的に……モブが原作通りの相手なのかもう見分けがつかない
だが、まあ、やらかすキャラは流石にモブではなく固有グラフィック、彼が居るのは分かった
そして……
「竪神とかガイストが居ない」
「別枠だ。入れても良かったが、こうして無理に意識させるのも違うだろう」
まあそうなんだけど、と頷く
「それともあれか?あの黒髪か」
「ん?誰だ?」
と、おれは首をかしげる
「聞いたぞ?デートしていたらしいな」
そうして更に追加された一枚は……
って桜理じゃないかこれ!
「オーウェンか」
「父さん。彼女は本名サクラ・オーリリア。女の子だからデートも何もない」
「何だ、あやつとのデートかと思ったらお前案件か。相も変わらず、変な相手を引っ掛けるのが上手いな馬鹿息子、ヒモか」
「ヒモじゃな……いやヒモだわ」
ノア姫に様々に世話を焼かれている現状、ヒモと呼ばずして何と呼ぶ
「せめてそこはリーダーと言え情けない」
「でも、相手の好意に甘えるのはヒモだろ」
「息子がエルフと聖女のヒモを公言した時の親の気持ちを考えろ阿呆が。何故そやつら相手にヒモになれたのかと困惑するしか無いわ
……これ以上語れば阿呆に頭が痛い。話を戻すが」
燃える瞳が、おれを射た
「変な顔をしたな。何があった」
「いや、やらかす人間が混じってたから」
「ほう。やらかすか。先んじて潰すか?」
いや駄目だろとおれは手をぶんぶんと振る
「"まだ"なにもしていないのに潰されたら相手も怒るだろ
何をしでかすかなんて
「出来る気か?」
「方法はある。考えてる」
それが上手く行くかは……これが上手く行かないなら、逆に相手がおれの思うより相応に優秀だったという事だ。いっそ引き込むのも良いだろう
そう考えながら、おれは頷いた
「……良いだろう。任せる」
「有り難う、父さん
……それにしても、何があったんだ?らしくない」
大きな溜め息が、おれの耳を打った