蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
自嘲するように椅子に座ったまま笑う父
「流石に分かるか」
「流石に変だ。あまり口出ししない筈が、おれ達に肩入れしようとしすぎている」
次代の皇帝を選ぶという以上、基本的にフラットな立場であろうとして直接的に手助けはしない。それが父だった筈だ
なのに、おれ相手への今の態度は何か変だ
「聖女様方の事なのか?いや、だとしたらアイリス関連まで押し進める必要がない」
ふと気が付いて、愛刀に眼を落とす
「おれ達に不安があるのか?おれ達しか、実質立ち向かえる存在が居な……」
ドン!と押し付けられる威圧感に、おれは思わず言葉を切った
ギラリと光る赤い瞳が、見開いておれを睨み付けている
「月花迅雷を抜け、ゼノ」
「っ!父さん!?」
「思い上がるなよ」
「っ!そんないきなり!」
椅子を蹴り倒して立ち上がった彼に目眩がしながらもおれは抗議する。だが、威圧は止まらない
「皇子」
更に、ひょっこりとおれの一歩半後ろに姿を見せるのは怖いのか目深に何時ものぶかぶかの帽子を被った小さな女の子
「アルヴィナ!?何で此処に」
「
険しい顔付きが、二人を射抜く
「本気で来い、その思考を叩き直してやる」
「……いや、本気って」
アルヴィナが来てくれた以上、一応変身は不可能じゃない。だけど!
あんなこの世界の理の外にあるようなものを何で使わせようとする!?
ええい!分からない!分かんないのが、彼だ!
もう良い!
「アルヴィナ!」
「大丈夫、ボクはずっと皇子と居る。そう決めた
だから、アドラー、皆、お願い」
その言葉と共に、おれの背後から暖かな風が吹いた。アドラー、お前が手を貸してくれるなら!やるしかない!
「ブレイブ!」
が、その瞬間
『いやそれは違うでしょう兄さん』
『そうではない、遠き子よ!』
抗議のように青い雷がおれの手を痺れさせる。って待て、総ツッコミかよ!?
いやどうしてこうなったと悩む。何を間違えたんだ?
『兄さん、良いですか?
その台詞は兄さんが不滅不敗の轟剣を呼ぶ際に唱える言葉です。センスが足りていません』
『必要ならば呼べ。帝国の魂は常にお前と共にある。だが、今響かせるは己の魂の神鳴よ
同じ言葉であるべきではない、そうだろう!』
……いや、そういうことなのか。変身のキーワードが同じって駄目だろというオチ
『兄さん。自分の託された想いを、己の言葉で、勇気で解き放つ。貴方自身で作ってください、その想いの光の名は……』
「
その瞬間、冷気と雷がおれを包み込んだ
『銀河の果てに放つ!光り唸れ銀河』
『煌めく星々の祈りを束ね』
『気高き雷、勇気を紡ぎ』
『星龍と共に我等は往く』
『輝け、流星の如く!』
『愛!勇気!誇り!大海!夢!魂を束ね紡ぎ、創征の銀河へと』
『
『『スカーレットゼノンッ!』』
『アルビオン!』
……え?いや待て何これ?
朗々と脳裏……いや刃を通して周囲に響き渡る始水と帝祖達の放つ音についていけずに呆ける。そのおれの背後で、一緒に言葉を紡ごうとして失敗したらしくアルヴィナが口をもごもごさせていた
いや待て、何だか神様と御先祖様が五月蝿……
『The dragonic saber with you
Are stars to bright and realize
Words to Vanguard Worlds』
ええい、歌うな歌うな
意味は、貴方と龍の剣は未来を切り開く想いを照らし束ねる銀河である。辺りだろうか……多分始水が頷いてそうだからこれで合ってる。いや、意訳凄いなこれ
『と、変身音はこれで良いですか兄さん?』
割と自信作です、と言わんばかりに多分少しだけ何時もより誇らしげなんだろうなぁと思う声音の神様ボイス
長い!そして五月蝿い!もう歌じゃないかこれ!?いや素のスカーレットゼノンでも歌っぽかったけど!
しかも半分くらい歌ってるのが始水のせいで清水のように澄んだ可愛い声だから迫力が少し欠ける。アナが凛々しい歌を歌っても可愛いだけ理論と同じだな
というか変身音とかつけられたら唯の変身ヒーローではこれ!?しかもこの長さ最強フォーム辺りの!
『む、不満ですか?』
いや、何でこんなに変身音が長いんだ……盛り上げようとしてくれるのは嬉しいけど……
ついでに突然大音響聞かされたアイリスがおれの声を筒抜けにするバッジの向こうでびっくりしてるだろうし
なんて、締まらない状況ながら、おれは一応ある種銀河を思わせる蒼き龍狼を模した姿へと変貌していた。鞘にくっついていたアルビオンパーツは今回は右手に装着されてガントレットと化している。恐らくは前回左手に付いてたのがイレギュラーなのだろう
が、この姿を見せろって一体……そう悩んだ瞬間
『「……スカーレット……いや、違うか。それはお前だ」』
ん?と思ったおれの眼を、黄金の焔が
『「魔帝剣皇アルジェント・ゼノン!」』
は?と思うが、銀の光を身に纏い、おれの変身形態にも似た姿へと変わった父が、常に黄金の焔を噴き上げる愛剣を地面に突き刺していた
いや待て待て待て!?なんだあの姿!?
そんなおれへ向けて、横凪ぎに刃が振るわれる
ガギン、と響く硬質な音。撃ち合わされる赤金と蒼
っ!一応貼ったはずの蒼輝霊晶による精霊障壁では防げないか!いや待てそれって普通に凄くないか?
「っ!何するんだ父さん!」
敵だというなら分かる。だが、振りかざした剣に敵意はない。当てる気すらきっと無いのに……
「……分かったか、馬鹿息子」
「ああ」
ふぅ、と息を吐いて変身解除。そもそも敵じゃない相手だから変身を維持するのが大変すぎるんだよなこれ
それに合わせ、父の焔も消えた……って部屋焦げてるけど大丈夫かこれ
「そうだ。お前が龍姫に見初められて戦い続けるように、他の七大天や
そう気に病むな、お前達以外にも抗う力はある。……といって、慢心して聖女を死なせたりしたら困るが、背負いすぎるなよゼノ」
うん、それが言いたかったのは分かった。別におれ達しか戦えない訳じゃない、と。阿呆みたいなゼロオメガが荒れ狂う状況で、抗う者は多いのだと
いや、その為に全力変身までさせるか普通!?
いや、変身して障壁出させないとぶち抜ける黄金の焔を見せ付けての説得力を出せないのか……
「というか、どうやってその力を」
「言ったろう?七大天で脅威に立ち向かうために動くのは何も龍姫だけではない、と」
その言葉を告げる父の背後に、おれの今のおれとしての最も古い記憶に姿を見せる道化が笑った気がした
「ああ、成程……」
おれが始水の手を借りて変身しているように、父は道化の力を借りて変身したという話なんだろう。そもそも道化の七天御物だしな、デュランダル
「いや、それとさっきまでの話は関係無くないだろうか、父さん」
「ああ、無いとも」
いや本当に無いのかよ!?
ボクの事が歌に入っていないと憮然とするアルヴィナに向けて『アルヴィナの眼は月みたいに綺麗だ。そして月は最も近い星なんだから、星はアルヴィナの事でもあるんだ』と何かキザっぽく誤魔化しつつおれは眼を見開く
「ゼノ、お前は自分と
「親子」
「然りだ。
「それは、おれが……真性異言だから?」
「違うわ、阿呆が。そもそも、お前もアイリスも
……あ、と思い出す
「そうか、忌み子」
「その通りだ、ゼノ。どう見ても
故な、あくまでも公式書類の上では、お前は父の分からぬ未婚のジネットの息子という扱いにしかならん。
ふざけるなと散々誤魔化してきたがな、忌み子故にここまでしか出来ん」
そして、父の瞳がおれを見る。もう燃えるような感じも、鋭さもない
「まあ、だがジネットと己の子なのは周知の事実。普段はそれで良かったが……
最近キナ臭い。こうした問題を突いて何とかお前を様々に引きずり落とす気を持つ層が暗躍しているらしい。それは正直不快だが、あまり表立って潰しに行く訳にもいかんのだ」
「だから、なのか」
「そうだ。この時期に阿呆過ぎる者共相手にする為に、慣れん事をしてみたが……
やはり向かんな」
思わず頷く
「頷くな、お前も同じだろうゼノ」
「ああ、おれも父さんも、脅威を物理的に打ち払う方がよっぽど向いてる」
「そうだな。勝つぞ、我が子よ」
「分かってるさ、父さん。だっておれ達は」
「「