蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
むすっとしたアイリスを連れて、おれは行く
何処へかというと、当然婚約者候補が待つ場所へだ。おれが常に横に居るという条件で、アイリスは外に出てくれるようになった
兄離れもするんだぞとは言いたくなるがまあ良いか、今はまだ、不安とか沢山あるんだろう。今のうちに甘えさせてやりたい
「お兄ちゃん」
不安げにおれの礼服(ちなみに今回は騎士団としてではなくアイリスの兄として出向く事になるので騎士団の制服ではなく和装だ。皇族としては和装、騎士団としては制服と使い分けることにしている)の袖が引かれる
「いなくなろうとしないで」
「何でそうなる」
「顔で……分かる」
始水かアナかお前は
……あれ?そもそもあの二人がおれの表情を読めるのがまず変なのではなかろうか……って神様だもの出来るか
「いや、居なくなるつもりで考えてた訳じゃないよアイリス
たださ、これから先、大きな戦いになる。その際にずっとアイリスと居てやるわけにはいかない。おれ達は民の剣で盾だから、それぞれ別々に多くを護り……それを合わせて全てを護る義務がある
だから、一人でもって思ったんだ」
その言葉に、今日はスライドホバー移動するジェット猫ゴーレムに乗りながら妹は小さく頷いた
そうだ。この妹は幼いだけで……周囲を知らなさすぎて変なだけで、別に悪じゃない
こうした時には「お兄ちゃんが居れば良い」からと民を見捨てるような発言をすることは無い
だからこそ、頼勇だってこの一見危うい少女を信じているのだろう。心の奥底に、確かに皇族としての誇りを持つのだと
「……でも、不満」
ぽつりと少女は告げて、ホバー走行する鋼の猫を止めた
というか、割とおれも乗ってみたいんだがそれ。中々に凄い光景だし乗り心地も良さげだ
原作ゲームじゃ基本バストアップというか、腰辺りまでの立ち絵が基本で足元が見えるのって戦闘グラと一部のスチルだけなんだよな。お陰で……いや、そもそも良く良く考えたら、外に興味を持ってくれた後のアイリスって無駄に自分で外出する必要また無くなるからゴーレムで出てきてるしわざわざこんなゴーレムに乗る必要もないのか、自分が使ってる体自体がゴーレムだからそれで好きに動けるんだし
と思うと、この猫ゴーレムに乗って外出するアイリスってかなりレアなんだろうか
いや、レアだから何だと言われたらそれもそうだが。寧ろ危険がある分困るのではなかろうか
うん、反省しよう。おれもアイリスも皇族だから狙われてどうこうはほぼ無いが、面倒は面倒だしな。こうなるまでおれが無視していたのも悪い
「不満か」
「結婚は……考えてないけど。でも、あの鬣の人なら、婚約、者、って……言われても、許せ、ます」
お、好印象。というか割と当たり前か、アイリス頼勇の二人ってゲームでは鉄板みたいな組み合わせだし
ガイストは……うん頑張れ、おれは割と応援してる。頼勇の側がアイリスと添い遂げる気にならない限りは
「でも……これから会うの、違う人」
「らしいな」
モブ三人とやらかす人一人。あくまでも新規開拓目的だということで、婚約者候補にすら頼勇もガイストも入っていない
いや、どう見てもあの竪神だろみたいな扱いとか一部ではされてるらしいが、その二人が候補に居なくて界隈は騒然としたのだとか
なお、ガイストは一晩寝込んだらしいが頼勇は平然としていた
ノア姫は……当初意外そうにしていたのだが、少し出掛けて帰ってきた時には納得していた。何でも、おれの父に「お前はあの阿呆の婚約者候補を選ぶとしてあの銀髪を枠に入れるか?」で理解したのだとか。解せぬというかどういう意味だそれ
『兄さん、既にもう決まってる相手をこれから選ぶ枠に入れても意味ないという話ですよ』
……言われても良く分からないというか、だ。頼勇がそこまでアイリスとペア想定されていたのかというのが意外に思う
「許せる範囲、の外……
知らない人と、婚約者……やだ。お兄ちゃんか、あの鬣の人か、ガルゲニアで最低限……」
「ロダ兄」
「きらい」
「エッケハルト」
「大、嫌い」
「シロノワール」
「論、外です……」
「オーウェン」
「女とは、結婚しない……」
「アナ」
「嫌いじゃ、ないけど……結婚は、おかしい
遊ばないで、お兄ちゃん……」
怒られた
「悪い。でも、本当に結婚とか婚約とかしなければいけないって訳じゃないんだ、アイリス」
ぶっちゃけ多分ガイストを焚き付ける意味が混じってるというか、基本的に皇族側から取り込みにいくのは……みたいな関係であるガルゲニア公爵家側から忠誠というか告白を引き出しに行ってるんだろう
その為に四人も候補募って競わせるのかとなるが……いや、そもそもアイリスの婚約者を選ぶという話でさらっと参加してる四人がまず変なのか。一部界隈では頼勇だろで片付くような扱いだとすると逆に何で自分がと名乗りを上げたんだって話になる
それが単純なアイリスへの好意なら良いが……
「お兄ちゃん?」
「悪い、考え事だ」
首を振って意識を戻す
「やらかす人、教えて」
「駄目だアイリス」
「何で?」
その言葉に、おれは静かに今の考えを纏めたものを告げた
「良いかアイリス。やらかす人はそもそもアイリスへの好意が狂ったアレな人だ」
割と酷い言い方しつつ、おれは語る
「でも、やらかすと知らない三人はさ、どんな思想で応募してるのか分からない。だからこそ、本気で気を付けるべきは寧ろ、そっちなんだと思う」
ぶっちゃけるとだ。やらかす彼が真性異言化してれば割と分かると思う。原作でやらかす姿を、心の奥底の歪みを見てきたからこそその歪みが違えば違和感がある
だが、残り三人の誰かだと正直分からない。おれがかつて狙っていたように、真性異言だとしてもそうと知られないというアドバンテージが向こうにはあるのだ
いや、単にアイリススキーであわよくばってだけの人かもしれないし露骨に脅すのは良くないが……
「気をつける」
「気を付けすぎないようにな。変に思われるから」
「ん」
おれの言葉に、妹は小さく頷いた