蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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奴隷、或いは勇猛果敢

アイリスと少しだけ連絡を取りつつおれはシュリと名乗った毒龍少女を連れて貴族邸宅の集まる区画を抜ける

 

 感心したような溜め息が聞こえてくる辺り、やはり毒のゴーレムには見所があるのだろう

 

 「やはりお前さんは違うの」

 引かれる自身の手を見て、また襤褸布を被った少女はぽつりと呟いていた

 「ん?」

 「毒だからと、儂に触れたがるものなどおらんかったからの。人が触れたのは何時ぶりであったか、もはや覚えておらぬのでな」

 言われて、おれは漸くその事を思い出した

 

 そうか。全身毒庫みたいなもので、汗に触れることもしたくないからと手を握られたことも殆ど無いのか

 事実に気が付いてしまうと流石に無視は出来ずに繋いだ手を見る

 少し冷ややかな少女の掌。汗は滲んでいるが……

 

 「そう痛くはないな」

 「お前さん、強いの」

 その台詞が返される辺り、【防御】判定でダメージ食らうタイプの毒なのか、汗

 

 「おれは気にしないことが出来るけど、怖がられるのも仕方ないのか」

 火傷痕を見せ付けながらぽつりと呟く

 「仕方の無い話ではあるの」

 ますます握られる手を、離さないように握り返す

 

 「それにしても、優しいの」

 「おれ自身、散々忌まわしい存在って扱いは受けてきたからさ。忌み子、呪われた子って

 だけど、おれには地位があった。色々と助けてくれる人も居た。かなり恵まれてた

 だからさ、似た立場って聞いて……何か出来ないかって思ってたんだ」

 何様だろうな、と苦笑しながら、おれは何処か誰かの面影を追いつつシュリの手を引き続けた

 「……それが言えるのは、凄き者の証よ」

 ふわり、と微笑む毒龍

 

 「儂の……ヴィーラ」

 「シュリ?」

 聞きなれない言葉におれは目をしばたかせて聞き返す

 「ヴィーラって何だ?女の子の名前……じゃないよな?」

 こくり、と頷きが返ってくる

 

 「儂は三姉妹の末と言ったがの、儂等アーカヌムには九つ、特別な名があるのじゃよ。儂がシュリであるように

 

 そして、その中でヴィーラとは……」

 むむぅ、となにかを思い出すように少女は眉間にシワを寄せ、とんとんと指先で頭を叩く

 「そうじゃ、勇者を現す名という訳じゃよ」

 

 その言葉に、おれは思わず首を横に振る

 「おれは勇者じゃないよ」

 「……駄目かの?」

 自棄に懐かれたな、とおれは内心で思いながらも、それでも駄目だと言い続ける

 背負ってやっても良くないか?という思考回路は、頭の隅に追いやって

 

 「駄目だよ、シュリ。おれは君の事をあまり知らない。そんな君の想いまでも背負いきって勇者なんてやれない」

 でも、と不安げな紫の毒龍少女にせめてもと笑いかける

 「だけど、おれは皇族だ。君達国民を護る剣で盾だ。だから、今はそれで良いか?」

 その言葉に暫し黙り……少女は申し訳なさげに己の小さな頭をぴょこんと下げた

 

 「すまぬの。主殿は認めてくれたが、あれも儂の毒を欲しての事。毒龍たる儂を案じてくれ、全てが毒と知りながら触れてくれる者などついぞ知らぬゆえ、急いた事を」

 しゅんと肩を落とす仕草は老獪というより明らかに幼い

 

 「……気に入ってくれるのは嬉しいよ。でも、安請け合いは出来ない」

 ただでさえ、おれは背負うものが多すぎる。魔神相手の世界の命運は元々アナやリリーナ嬢に降りかかるもので、ゼロオメガ相手などは頼勇達が共に背負ってくれていて。それでも、おれ個人が託されたものはあまりにも手に余る

 だからといって捨てたりしない。それでも、まだこのほぼ知らない少女の憧れまでも背負っては壊れてしまう気がした

 

 「すまない、シュリ」

 「構わぬよ。儂自身、ビーバッアを喪い冷静さを欠いていたのじゃから」

 ……で、そのビーバッアって何だ?

 

 ……ん?おれは誰に聞こうとしたのだろうか。シュリ当人か?

 何だか歯車が噛み合っていない気がして

 

 『お兄、ちゃん。デートなら、帰って……来て』

 妹の呆れきった通信に正気を取り戻す

 そうだ。同情してようが可愛い女の子奴隷だろうが、やるべき事を忘れててはいけない

 

 慌てて少女を引き連れて服を買う。あまり良さげな服は無かったというか、頑丈で毒に耐えられるものをと思ったら下着はそんな阿呆な想定したものが売ってるわけもなく、せめて襤褸布よりはマシなワンピースだけを買い与えるに留まってしまった

 いや、寧ろ毒に強い魔物素材のワンピースって何なんだろうな……どんな需要だと思いつつ、くるっと襤褸より可愛い服に身を包んだ奴隷毒龍がターンするのを見守った

 

 「……うむ、好いの

 じゃが、本当に貰って良いのかの?」

 「良いよ、シュリ。おれからのプレゼントだ」

 そんなことを言いながら、おれはそろそろ時間かとアイリスの元へと戻る

 

 ……何にも、気が付かずに

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