蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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閑話 享楽と薔薇色

「……ふふっ」

 思わず唇の端に笑みを浮かべ、紫の髪の毒龍はその大きな尾を燻らす

 

 それを呆れきったように、否、嫌悪するかのように顔を歪めて、一人の少女が眺めていた

 漆黒の和装に薔薇色に染まるオーラ。おぞましく悲鳴を固形にしたような氷の翼を持つその者の名を、ティアーブラック。或いは、『神話超越の誓約(ゼロオメガ)』アヴァロン・ユートピアという

 

 「何が面白い、下等龍」

 「酷い言葉じゃの。今に限れば、儂もお主も同じ立場じゃろ?」

 その言葉を、氷翼の龍少女はふざけたこととばかりに凶暴に右目を見開いて嘲った

 「何処がだ、滅んでおくべきであったおぞましき毒物が」

 薔薇色の光が紫を苛み、その肌に傷を残していく

 

 「止めてくれんかの?あやつから貰った服に傷が付く」

 「価値の無いものがどうなろうと知ったことか。貴様含めて、壊れてしまっても構わんのだからなシュリンガーラ」

 その言葉に、シュリンガーラと呼ばれた龍少女はその大きな尻尾を胸元に抱えて丸くなった

 

 「どうした、シュリンガーラ。随分と甘い。絆されたか?」

 はっ、と防衛反応のように縮こまる少女を足蹴にし、地面に転がったところで左膝を立てて顔を踏み椅子にしながらティアーブラックは幼き龍を煽り倒す

 「堕落と享楽の亡毒龍、(わたし)にすらその名を轟かす腐りの祟り神。所詮は元は小さな龍とはいえ、価値を見出だしてやらんことも無いかと思っていたが、期待外れか」

 「……儂、は」

 「三首六眼。大半の眼を閉じ、それでも自身の享楽のために幾多の世界を心という毒で腐らせ食ろうて来た

 ああ、世界には存続に価値など無い、かくもおぞましい者共には滅びこそが唯一の意味、それを分かっていると、まあ信じては居なかったが。所詮は下等生物、たまたま正しさに添った行動をしておっただけよな」

 

 縮こまりながら、地面に頭を押し付けられながら、その大地を小さく吐いた唾液がじゅっと音と湯気を立てて溶け行くなか、すこしずつ地面に肉体全体を沈みこませ、毒龍は吐き捨てる

 「知っておるよ、アヴァロン・ユートピア」

 そして、何処か悲しげに溶けかけの龍形態へと変貌しながら呟いた

 「……『共に償う』、か

 当に遅いの、お前さん。儂はもう、単なる怪物じゃよ。堕落と享楽に、世界を腐らす心毒の龍」

 そのままに、紫の龍は全身から周囲に向けて毒霧を散布して己を椅子にしたままの神を追い払わんとする

 

 が、絶望の冷気と薔薇色の光を纏う少女姿の神は、微動だにせずに毒龍の首を軽く腕で打ち払った

 「……痛いの」

 「下らん事ばかり言っておるからだ、下等」

 「それが儂じゃからの

 分かっておる、分かっておるわ。何も響かぬ、変わらぬ

 最早アーシュ=アルカヌムには戻らぬ、戻れぬ。儂は、儂等は堕落と享楽の(アージュ=ドゥーハ)亡毒龍(=アーカヌム)。世界を心で滅ぼす者

 共に償うというならば、世界を滅ぼしたという罪も背負ってくれるのかの?馬鹿馬鹿しい言葉じゃろ、お前さん。何も分かっておらぬわ」

 失望したように、毒龍は眼を閉じた

 

 「何故、お前さんはあの時居なかったのかの

 完全に今更じゃよ……。この儂はただ、六眼を……眷属を用意する為に、最早他人に対し狂い果て終わる享楽しか意味を見出だせぬ儂自身に用意された、誰かをまだ信じていた頃の幼き儂の再現に過ぎぬのじゃから

 愛恋(シュリンガーラ)。未だ他に意味を用意するが故に、眷属として堕とす事が出来る唯一の首。それを信じたいならば、堕ちてくれよ、儂の勇気(ヴィーラ)

 さての、と気持ちを切り替えるように、首を回して毒龍は背の神を見据えた

 

 「何しに来たのかの、神様?今は儂のターンじゃし、その姿、儂の毒で見えておるだけで外に出られぬじゃろ?」

 「ふん。決まったこと。下等な龍が真なる神に対して変な気を起こし、滅ぶべき者共と組み出したらあまりにも不毛

 故に、躾てやったまで」




チラっとな
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イラスト:ぽん酢様

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