蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 銀髪聖女と降臨する愛恋

「大丈夫か?」

 「う、うん……ありがとね、頼勇様」

 って、何処か照れたように竪神さんの手を借りてふらふらしながら立つリリーナちゃんを、わたしは静かに見詰めていました

 

 脳裏に浮かぶのは皇子さまの事ばかり。確かに竪神さんの言う通り信じてあげなきゃって思うんですけど……

 

 どうしても、あの姿を見てしまっては、不安で仕方ありません

 勝ち誇ったように……は穿ち過ぎかもしれませんけれどわたしを見つめる毒々しい緑の瞳。皇子さまに触れて尻尾のように揺れる紫の髪。そして、何よりも少し幼くなったあの顔

 

 その全てが……

 「それにしても、ロダ兄ちゃんが居るのに入り込まれちゃってるの、心配だなぁ……」

 リリーナちゃんの言葉に繋がります

 

 「あの子、シュリちゃん……でしたっけ?」

 その言葉に、重々しく竪神さんは頷いて、休眠に入った父親の魂を見つめました

 「皇子からはそう聞いている。だがあの姿、ほぼ間違いなく……」

 

 「僕の妹さ」

 弾かれたように、竪神さんが背の巨大な剣を引き抜きました

 「すまない、無理をさせる!レリックハート、ウェイクアップ!」

 ブゥン、と小さな音と共に、緑の燐光が舞います。何処まで役に立てるか分かりませんけれど、わたしも腕輪を前に、手を胸元に掲げて魔法を使えるように構えました

 

 聞こえる声は、さっき水鏡を通して聞いたものが……ほんの少し大人びた低い音域になったもの。でも、寧ろイントネーションは落ち着いたあっちの方が少しだけ大人っぽい気もします

 そしてこれは、わたしが少し前に聞いたもの。そう、あるかな?何とかさん達に神輿として担がれた上に退屈そうに乗っていた……

 

 「ラウドラ!」

 竪神さんが、名乗ってくれたその名を叫びます

 「もう、逃げないでくれないかな?僕、別に君達と遊びたい訳じゃなくて

 躍り狂って死んで欲しいだけなんだから、余計な労力掛けさせないでくれない?」

 毒々しい緑の左瞳をギロリと見開いて、わたしより……ちょっと背が高くて同じくらいの歳格好の女の子は、その八重歯というより牙を剥き出しに笑い掛けてきました

 その姿は、シュリと名乗って皇子さまに取り入るあの女の子と……瓜二つ。いいえ、あの子がわたしくらいの歳に成長したらこうだろうというそれそのままの外見で、違うのはあの子には畳んでいるのか見えなかった大きな龍翼があるところと襤褸布じゃなくて豪奢なドレスを身に纏っているところの二つだけです

 ……後、胸が大きいこと……は成長の一環かもしれません

 

 その飾られたドレスに彩られる大きな胸を揺らしながら、毒龍ラウドラはわたし……は完全にスルーして構えた竪神さんを見据えます

 

 「君に僕の名前を呼ばれる筋合いはないよ。死んでくれる?」

 「それすら許されないとは、私も予想外だが」

 「僕は【ラウドラ】。人々に残酷な仕打ちを受けた星龍アーシュの怒り(ラウドラ)の化身。人に名前を呼ばれるなんて、御免だね」

 「そうか、それは失礼した」

 と、言葉を交わしつつ彼はわたしに目配せします

 これは多分ですけど、自分が時間を稼ぐから逃げろって合図。勝てないことは分かっていて、切り札のLI-OHも少し前にエネルギーを使って格納庫に転送されていったばかり

 かなりの時間飛べていて、進歩すごいって思ったのもつかの間、内陸までラウドラさんが追ってきたという想定外に完全に追い込まれています 

 

 「腕輪の聖女様!」 

 「アーニャちゃん!」

 「でも」

 「私たちが死んじゃったら、世界が終わっちゃうよ!」

 

 その言葉に、ぴくりと龍人のエルフさんほどでなく尖った耳が動きました

 「へぇ、なら君達が死んでくれないかな?

 僕は見たいだけだよ、君達の絶望と灰滅(かいめつ)を。邪魔しなければ、もう少しの間苦しんで生きられるのに何故無駄な抵抗をするのかな?

 君達は醜く、浅ましく、どんな地獄でも生にしがみついておぞましい醜悪さで死んでいくものだろう!なら、邪魔せずに居てくれないかな!?ウザったいからさ!」

 

 ギロリ!と。拡げられた翼膜に毒で出来た瞳が浮かび、わたしたちを見据えます

 「そうかもな、だが!」

 びくり、とリリーナちゃんが震えます

 

 「生にしがみつく姿は醜くもあるだろう!貴女方からすれば想うところはあるだろう!

 だが!それでも!神から!父から!母から!世界から貰った命を!むざむざと棄てるものではない!だから立ち向かう!」

 「五月蝿いなぁ、僕はそんな御託を聞きたい訳じゃなくて、死んでくれって言ってるの

 重要なら、死んでくれたら面白い事が……起きるだろ!?」 

 しゅっ!と伸びる毒尾

 

 わたしはそれに対応しきれず、竪神さんがエンジンブレードで毒尾を切り払ってくれて事なきを得ます

 「あ、ありがとうです竪神さん」

 「礼は良い!まずはこの状況を切り抜けるだけだ!」

 

 「ふぅん」

 と、眼前のラウドラさんの眼が細まります

 「ねぇアーニャちゃん!」

 「でも、でもです!ラウドラさんだって、あのあるかな?さん達を連れていましたし、何とか……」

 「止めてよ、殺すよ?」

 どこまでも冷たすぎる言葉に、背筋が凍りました

 

 「あいつらなんて、勝手に僕を奉り上げてるだけだろ?

 どうせろくでもないんだ、虫酸が走る

 

 そんな奴等を、全て自分達が目茶苦茶にした後で絶望して死んでいってくれるからって見逃してあげてるだけ、僕は優しくない?慈しいだろ?優しいって言え」

 どんどん語気を荒くして、ラウドラさんは捲し立てます

 その背から、霧のようなものが溢れて……

 

 「……そう急く事もなかろ、ラウドラよ」

 不意にわたしたちの前に姿を現したのは、一人の女の子でした

 解れた女の子向けの服の上から襤褸を羽織り、翼の代わりに大きな尻尾を左右に揺らす、幼いラウドラとでも呼びたくなる龍人の女の子、皇子さまの横に居た、シュリと名乗る個体

 

 「随分と早く来たね、シュリンガーラ。どうしたんだい?」

 怪訝そうに、ラウドラさんが問います

 「未来の儂が随分と焦った行動を取るからじゃろ儂よ。直接神の暴威で殺すは容易い。じゃが、それ程までに面白くない事も他に無かろ

 もっと気長に、堕落と享楽に生きるべきじゃろ?楽しみをこうも減らしてしまうとは、やはり憤怒(ラウドラ)の儂、かなり短絡的じゃな」

 尻尾をふりふり、わたしたちにはまるで目もくれずに幼い龍人さんはほぼ同じ外見のラウドラさんの前に立ちました

 

 そんな筈無いんですけど、まるでわたしを守るかのように

 

 「……殺した方が余程楽しいさ」

 「破滅を見て享楽に酔う、こやつらを短気で殺してしもうては、それが最早出来んよ

 儂が見たいのは、儂の運命……ヴィーラが己の堕落と享楽の果てに自業自得の結末に絶望する顔じゃ。それこそが、この世界に儂等が降り立った理由だったのじゃろうと思うておる

 じゃからの、見たいのはあやつが必死に手を伸ばしても届かんかった事に慟哭するような、そんな絶望した顔では無い。そんな顔、己の手でそれを破壊し堕落した姿を見れんくなった証明じゃろ?断じて見たくもないわ」

 

 と幼い毒龍さんは同じ顔の未来の自分?に凄みます

 「短絡的な怒りで儂の娯楽を奪うでないわ、ラウドラ」

 「……五月蝿いよ。僕はラウドラ、君みたいな軟弱な昔の……

 有り得ない夢物語を信じようとしていた間抜けな頃の僕とは違う。滅び行く心持つ者達に、たった一つの【見世物】の価値を見い出した真理を知った僕。堕落と享楽の亡毒

 不愉快だよ、幾ら眷属なんて今更僕達が見出だすには価値を認めなさすぎるとはいえ、こんな不完全な頃の僕をわざわざ分けて存在させているなんて

 だから、偉ぶるなよ、愛恋(シュリンガーラ)。不完全すぎる僕。お前の言葉が僕より正しいわけがない

 殺してやろうか?」

 鋭い眼光が、同じ顔の女の子を射抜きます

 

 「構わんよ?儂を殺したところで意味無いことは知っておろ?全ての情動(ラサ)を破壊せねば、どうせ直ぐに蘇るからの。好きにするが良かろ

 じゃが、この服はこれ以上壊さんといてくれよ?着れぬと困るからの」

 その言葉に、状況にあまり付いていけていなかったものの構えていた竪神さんが弾かれたように剣を納めて飛び下がりました

 

 「つまり、奇跡的に一体を倒せたところで全滅が出来ねば無意味か!

 聖女様方、此処はただ、逃げの一手だ。内輪揉めの間に!」

 その言葉にわたしもリリーナちゃんも頷くしかありません。こうしないと、皇子さまのところに帰れそうもありません

 

 でも、その瞬間

 「めんどーだなー

 やっちゃえー!」 

 そんな、無邪気な声が空から降ってきたのでした

 「平穏(シャンタ)!儂まで此処に来るとは、流石に遊びが過ぎるのではなかろうかの?」

 「えー、めんどーだし、全部焼いちゃおーよ?

 ジャンクで単純なのが、いちばんおいしーんだよ?」

 同時、響くエンジンの音

 

 空には、皇子さまがすっごく昏い顔で逃げ去るのを睨み付けていた……おっきな魔導船が浮いていて、わたしたちにビーム砲の砲門を向けていたのでした

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