蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……はあ、もう良いや」
諦めと共に鍵を回しきる
珍しく魔法が使われていない古めかしい錠前式の鍵は軽い音を立てて開き、鍵を抜き取ってポケットへ
「鼓動、どきどき」
「す、凄い部屋なんですよね……」
背中に吐息が当たるくらいに近い二人の少女が見守るなか、おれは静かに……
「……御免、離れてくれ
これ、外開きだ」
そんな間の抜けたことを言ったのだった
「……綺麗……」
部屋に踏みいるや、アナがぽつりと呟く。感動的に語る言葉には少し現実味がなく
幅広くゆったりとしたスペースのある部屋。そこは半透明のカーテン(恐らくはオーロラビーストと呼ばれる淡い光の衣を纏うモンスターの外皮だ。因みに基本的に上級職にクラスチェンジした者複数で狩る生物で、土着の生物としては七大天の眷族を除けば生態系の頂点の一角であり、ぶっちゃけおれが戦ったゴーレムやキメラをして1vs1では勝てないと思われる。当然その外皮なんぞ高級品でおれでは手が出ない)で二つに仕切られており、アルヴィナの言が本当っぽいなという事を分からせる
高い天井からは魔力を込められており独りでに光を放つ他、消灯時間になると勝手に消えるシャンデリアが垂れ下がり、壁も天井も磨き上げられた石造り。その上に柔らかなカーペットが敷かれ、各所の調度品も魔法無しの手作りだろうか
ま、芸術品は手作りの方が大抵評価高いからな……なんて思いながら見回す
ところで親父?カーテンが半透明なら向こうが見えるから仕切りとして無意味なのではなかろうか。本人は全く気にしてなさげだが。というか、仕切りが半透明な上に捲れば通れるもので男女って本当に大丈夫なのか。アイリス相手ならまあ兄妹だしという免罪符はあるが、これは本気で名分がない。また変な噂立つんだろうなこれ……
「凄い部屋……」
ガチガチに固まりながら、アナがおっかなびっくり足を進める
「大丈夫かアナ」
「だってこれ全部高いんだよね?壊したらって思うと……」
「まあ、おれの居た部屋より数段高いな」
「す、数段……」
「孤児院の建物より多分このカーテンのが高いレベル」
「ひっ!」
因みにだが、おれの部屋はぶっちゃけた話質素めである。皇子にしては、って付くんだが、貴族として最低限舐められない程度の調度品。アイリスの部屋に最初に行った時にはその落差にくらくらしたものだ。皇族の中でも落差ってデカイな、と
「……ひぇっ」
怯えておれの背中に隠れる少女
こんなんでこれからこの部屋で暮らしていけるのだろうか
「……これが100年ほど前のブランドものの茶器だろ」
一応学んではいる知識で解説をしてみる
因にだが、あくまでも年代とかそこら辺まで。詳しくはおれだって覚えていない付け焼き刃って奴だ。庭園会だ何で自慢されたときに古式なのか、斬新なのか、有名な人物のものなのか、それとも名は知られていないが御抱えの職人のものなのか、そういったフワッとした傾向くらいは覚えてないと困るからって程度
正直な話、綺麗だとは思うものの、おれ自身も審美眼とか無いんで何が凄いのかは良く分からないというか。凄いかどうかくらいというか
「ひゃ、ひゃくねん……」
「ベッドの羽毛もおれのとは比べ物にならないなオイ。アイリスの部屋と同じ材質だ」
敷かれたそれを触れて思う。柔らかすぎだろう、と。しっかりと暖かく、それでいて存在感の無いふわふわの質感。雲鳥と呼ばれるあの魔物のものだ。警戒心が強く、羽毛は雲のようで、其処から雷を降らせるあの化け物の。ぶっちゃけた話、魔防0のおれでは絶対に太刀打ちできないような生き物だな
余談になるが、自室のおれのベッドだが、木製だ。マジで頑丈な木で出来てて敷き布団なんてものは無い。何なら掛け布団も無い。堅くても外でも寝られるようになれと師匠が贈ったもので、寝心地としては石の床で寝ているのと変わらない。正直気にしてなかったし野宿だ鍛えろと師匠に数日連れ出された時にはその経験から寝やすいと言えば寝やすいんだがが、改めて考えるとヤバいな。せめて掛け布団をくれ
余談だが、師匠が来る前に使ってた仮にも王族の為のふかふかベッドは今やしっかりおれの痕跡を洗われてメイドのプリシラのベッドになっている。そりゃ欲しいだろうけどさ、躊躇無く仮にも主人のものであったベッドを貰っていくとか良い性格してると思う
「そ、そんなの使えないですよ皇子さま!」
「……置いてあるんだから使えば良いんじゃないか?」
「でも」
「無問題」
マイペースに荷物から薄い布団を取り出しつつ、黒い少女が呟く。大荷物は布団などすらも含んでいたらしい
「細かい傷、もうある。今更」
「確かにそりゃ今更だな。ま、基本貴族とはいえ大抵は子供が使うものだしな。実はレプリカなのかもしれないな」
言いつつ、良く見てみると確かにちょっとした傷がベッドについていたりした。鞭跡か何かだろうか、凹みのような傷。何で付いたのだろう。まさか前の利用者が鞭で叩かれてた訳でもなかろうに
「まあ、元々傷が入ってるのに、今更どうこう言ってこないだろ」
さっきまで居た妹の部屋を思い出して呟く
だって、あの部屋の調度品には傷一つ無かったしな。そこらはまあ、仮にも物静かな皇女と、騒ぐかもしれない貴族や忌み子の差なのだろう
「気にすんなって」
言いつつ、靴を脱いでベッドに……
……ん?
「親父ぃぃぃぃっ!」
良く見ると、ベッドは一つだった
いや、かなり大きい、大きいんだが……。子供なら数人並べられるサイズだ、正直大人でも二人用くらいの大きさ。魘されても落ちないようにかなり過剰な大きさに作られているアイリスのより更に大きい
だけどさ?流石に1個は不味いだろう常識的に考えて。セッティングを決めたろう者……ぶっちゃけた話アイリス自身がやったとは思えないので、アイリスと組んでおれをアイリスの代理として動かそうとしている父……の常識を疑う
「じゃ、おれソファーで寝るから」
踵を返して、子供には大きなソファーへ
うん、横になれる大きさしてるし、変に動かなければ落ちないな
ソファーに座るだけのつもりで、どっと疲れが襲ってきて
そのままおれの意識は落ちていった
余談ですが、今作の主人公ゼノこと獅童三千矢くん(この名前は基本作品内では出ません)の享年は13です。その為、エロ方面は真面目に無知です
ヒロインよりもそういうこと疎いかもしれませんので、主人公側からのアプローチは全く無かったりしますがご了承下さい。彼にとって女の子の着替えは見ないものだし、可愛いというのは性的なほのめかしは無いものなのです