蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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異伝 銀髪聖女と最期の言葉

「フォルト・ヴァンガード……」

 苦々しげに竪神さんが天空を悠然と雲の海を航海(航空の方が正しいかもですけど)する大きな鉄の魔導船を見上げました

 

 「ど、どうしよ頼勇様!?」

 「ふん、最早どうにもならぬ事よな。諦めよ、そして絶望に沈み……」

 どこか目線を逸らしながら、幼い毒龍はわたしを小馬鹿にするように笑いました

 「せめて少しくらい時をやっても構わんよ。祈りくらい、させてやろうではないか儂よ」

 「えー、おあずけー?」

 そんな風に不満を顕にしながらも、砲撃はまだ降ってきません。ほんの少し時間をくれるっていうのは本当なんでしょうけど、残酷です

 

 わたし達に……わたしに、何か出来る事なんて無いのに。聖女様の力は借り物で、腕輪は苦しむ人をわたしの個人的な力よりもうちょっと癒してあげる事しか出来なくて

 目の前の女の子に対して何か有効な手なんて有りません。逃げる手段だって無いんですから

 絶望が、長引くだけ

 

 きゅっとリリーナちゃんが眼を瞑ります

 

 「神にでも祈れ、先立つ不幸をな」

 竪神さんは尚も剣を構えますけれど、どうしようもなくて

 最後にわたしがぽつりと呟いたのは、龍姫様への言葉ではなく……何より大事な人の名前でした

 

 「皇子さま、ごめん……なさい」

 本当はきっと弱くて泣き虫で、誰かを喪いたくないから最初からって怯えがちなわたしの大好きな人

 背負わせたくないのに、リックさん達だけでも辛そうなのに。わたしの死すら背負わせてしまう

 それが、たまらなく嫌で

 

 なのに、最期にせめて一目見たくて、水鏡を……

 

 『「竪神ぃぃっ!行けるな!」』

 でも、零れた涙越しにわたしの眼に飛び込んできたのは……

 おーばーろーど?って言うんでしたっけ?バチバチと煌めく雷に腕を焼き焦がしながら、黄金の光に照らされて叫ぶあの人の姿

 

 「……え?」

 『「エネルギー充填、78%!GGCカタパルト、起動展開!頼む、手を貸してくれアロンダイト・アルビオン!

 ……起動完了!アイリス、頼めるな!」』

 「お、皇子!?」

 『「明らかにシュリの言動が変だった。ならば何か起こるって言ってたのは必然!それを切り抜けるにはやはりこいつしかないだろう!

 下門の託した力が!この湖・月花迅雷が!百獣王の力になる!

 

 転送っ!」』

 その言葉を聞いた瞬間、こくりと竪神さんは頷いて、わたしとリリーナちゃんに一歩寄ります。寧ろ近すぎて本来危険なくらいに

 

 「ああ、ああっ!

 殿下!皇子!リック!君達の想い、託された!」

 その体が……わたし達を巻き込んで緑色の光に包まれます

 

 「え、頼勇様!?」

 「無かったはずの希望、私の英雄達が繋いだ光!無駄にはしないさ!」

 わたし達が転送されていきます。何度か聞いた……でも、ずっとわたし達の身体を狙う人の元でばかりだった不思議な音と共に、今一度鋼鉄のコクピットへと

 

 「世界を護る特命の元に!

 顕現せよ、我等が想いを束ねし百獣の王!

 

 超特命(エマージェンシー)合体(フュージョンッ)!!ダイッ!ライッ!オォォォォウッ!」

 「……やはり儂は割と嫌いじゃよ、龍姫の聖女……」

 

 次の瞬間、地上に……わたし達を煽った結果、皇子さまが託してくれたものに気がつかれてしまった唇の端を綻ばせて呆けている女の子を残して、わたし達の姿は大空にありました

 一度見た竪神さんの最終兵器……皇子さまと戦っていて、あの時は見たくなかった切り札、ダイライオウ。アイリスちゃんや皇子さまと共に開発していた合体機神に乗った状態で、です

 

 「だから、余計な抵抗を!」

 「『オーバーライオウ!アァァクッ!』」

 翼をうち震わせて飛び上がったラウドラさんの全身が緑光のリングに拘束されました

 

 「こんなもの!」

 「『十分な時間稼ぎだろう、ラウドラ!』」

 ひゅん、とモニター?に映った視界の端をビーム砲が掠めます。魔導船から放たれたビーム達。けれど、一切怯むことなく、空を舞う鋼の百獣王はその最中を突き抜けて

 

 「『雷王砲!』」

 「頼勇様、勝てるのこれ!」

 「勝つ!エンジンに不調を与え!

 

 生き延びる、それが勝利だ!足止めだけで良い!撃破の必要など無い!

 ならば聖女様方、皆の想いが!ダイライオウが!勝てない道理などあってたまるものか!」

 その言葉と共に、背の巨砲でバリアーを貼る魔導船の全身を揺らした巨神は背のブースターウィングを全力で噴かせ、LIO-HXでやった時のように離脱を計ったのでした

 

 「お願いします、竪神さん!」

 「うん、命預けるしかないんだから頑張ってよ頼勇様!私だって死にたくないもん!」

 「はい、皇子さまをもっと孤独になんて……」

 「ああ、分かっている!帰らせて貰うぞシュリンガーラ!」

 

 そうして戦場となった森を飛び去るわたし達を……ビーム砲で燃え始めた森の中、じっと幼い龍は満足げに見つめていました。まるで、こうでなきゃ面白くないとでも言いたげに、尻尾を上機嫌に頭の後ろでフリフリしながら、拘束を破って追おうとするラウドラさんの肩に手を置いて、首を横に振ります

 遠ざかっていくモニターに映るその整い過ぎた顔は炎光に照らされていて……

 

 あ、森の火事……ごめんなさい!今度何とか出来るならきっとやりますから!


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