蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……またな」
雷轟に貫かれて、ぺちゃっと血溜まりのように毒を痕跡として残して跡形もなく吹き飛んだ龍少女に向けて、何処か間違ったそんな言葉を吐く
「もう会いたくない」
「まあ正直同感だなアルヴィナ」
会わなくて良いなら会わないに越したことはない。だが、既にアージュ=ドゥーハ=アーカヌムがこの世界に襲来して毒をばら撒いている以上、まだ希望を持っていた頃である……変わってくれる可能性のあるシュリが出てきてくれるのが一番良い
アナが皇子さまも聞きたいですよね?と繋げ続けてくれていた水鏡を通して竪神とアージュ等の会話を色々と聞かせて貰ったんだが、アージュ本体はハナっから此方を理解する気がない。ぶっちゃけた話あのティアーブラックと同レベルには分かり合えない
だが、シュリは……既に諦めきった毒龍后の中で、まだ諦めてない頃、本当は何処かにあるのだろう小さな希望を分離したもの。最早誰も信じないなら、何で『運命の人』なんておれを呼ぶ?
あれは彼女なりの自分を止めて欲しい、希望を持たせて欲しいというSOSにしか、おれには聞こえなかった
「だけど、残りの殺す気しか持ってない奴等より、シュリが出てきてくれた方がまだ助かるよ」
救うって何をすれば良いのか分からないがな!
『馬鹿ですか馬鹿ですよね馬鹿と言って反省してください兄さん。今日という今日だけは……』
と、そんなおれを非難するように耳に届いた言葉が尻切れ竜頭蛇尾にしぼんでいく
始水?
『いえ、私が反省しました兄さん。私が七天だとも何も知らなかった兄さんは、それでも「これで寂しくないよな?」と私と契約してくれました。それを受け取った私だけは、孤独だと感じた龍神へ後先考えず手を伸ばす兄さんの恐ろしい蛮行を非難する資格を持ちません
ええ、その馬鹿な行動で、兄さんと私はもう一人じゃない訳ですから。ええ、ええ、ええ、私にも無意識に同じことした訳ですし、何よりも兄さんなんて安易に取り返しがつかない契約を交わすものだなんて身に染みて分かってる私が納得しないなんて』
……何か怒ってる気しかしない
すまない、始水
『兄さん、此処で謝るのは最低の選択です。反省されても遅すぎるし致命的な道をとっくに選らんだ後なんですから、冷静に振り返られると流石に兄さんにも口汚い言葉を紡いでそうなので、せめて「君の時と同じだ、間違ってない」と胸を張ってください
どうせもう遅いんですよ、正直あの毒龍なんて真っ平ごめんですし、殺せるなら殺してくださいって話ではありますが……』
くすり、と語気の割には楽しそうに、龍神様はおれに警告した
『龍は……特に私やこの世界には来ていない妹、そしてアージュの大元であるアーシュ・アルカヌムのような星の龍、皇龍という存在はですね
絶対にこれと決めた財宝を手離しません。これと決めた相手のために星になる生ける星
「儂の運命の【
あの行動をかました時点で、今後兄さんは「何があろうと【
く、詳しいな始水……
『腐りきった今は最早星の龍ではないので知りませんが、私と同じ事してる同種の事が分からなくてどうするんです?』
……そ、そうか……
ひょっとして、始水ってフレンドリーで世界想いの神様だとしても割と怖いのではなかろうか……
あ、切れた
まあ良いやとおれは少し放置してしまったアルヴィナに向き直る
「来てくれたんだな、アルヴィナ」
ちなみにアルヴィナが居ることは問題ない。ジェネシック……絶望の冷気を扱う機体を完成させるには、間違いなく死者の魂の扱いに、弔いに長けたアルヴィナの協力が必要だから入れるように鍵をあげている
寧ろあのシュリどっから入ってきたの領域で……
多分ロダ兄だな、ひらひらと手を振ってきた彼にそう理解する
「皇子が、ちゃんと敵対してくれるなら」
そのまま、おれのあげた帽子を目深に被り、魔神の女の子は……
ガブリ、とおれの焼け焦げた右手に八重歯を立てた
「……痛いんだが」
「皇子はボクの、ボクは皇子の
あの腐肉に安易にあげようとしたのは犯罪、お仕置きする」
おれは大人しくそれを受ける
「……ごめん、アルヴィナ」
「……怒ってるだけ、許してる」
帽子の下で耳が伏せられているのが、帽子の高さで見て取れる。あまり納得はしてくれていないようだが
「乙女心。ボクにしたのと同じこと
許すしかないけど、ボクだけが特別が良かったって怒る」
「……ああ、ごめん。それでもおれは行くよ、あの道を」
うん、と少女の首が振られ、歯が離される
「ボクと行った道、これからの道。皇子の目指すそれは大きすぎて、二人だけ……」
少しだけ言い澱むアルヴィナ
「あーにゃん含めて三人までと思ってるボクとは違うけど。でも、良い
それが皇子。ボクの見た明鏡止水。相手が誰かなんかで、状況がほぼ同じでも態度が変わる方が問題。ボクが勝手に怒ってるだけ
だから、もう平気。皇子を嫌いにならない。だけど、噛ませて」
いや結局まだ噛み付くのか、とおれは苦笑しながら、はい、と左腕を差し出した