蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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変身、或いは憤怒の叫び

「バージャダム!エルクス!」

 そうして現れるのは二度目の変身体。それ相手におれは唇を噛んだ

 いや、どうする?そう思った瞬間……降り注ぐのは翼から放たれた赫い毒のビーム

 

 「っ!敵意はないんだがな?

 それに、貴女も別におれと戦いに来たわけではないだろう?」

 その言葉に、はっ!と龍神少女は嘲笑う

 というか、嫌な予感がするんだが……

 

 「そうさ、僕は戦う気なんて元から無いさ。ただ、ウザいから殺しに来ただけ」

 同時、ブースターのような翼から更なる大量のレーザーがおれを襲った

 

 シュリはもう少し……いやかなり穏健だったぞ!?と、飛び下がりながら心の中で叫ぶ

 始水が何度も警告してくれたが、本当にシュリって奇跡的なまでに話が通じる化身だったのかもしれない。いや、あまりそれを信じたくはないがというかまだ分かり合う希望を持ちたいが……厳しいかもしれない

 

 「面倒だから逃げないでくれるかな?そして死んでくれ

 別に良いだろう?《勇猛果敢(ヴィーラ)》?君が本当にそうならば、死なんて殆ど意味がない。ま、そんな筈無いと思うけどさ。だから、しょうがなく服は届けてやるから死ね」

 と言われてもなとおれは肩を竦める。シュリは生きているのは分かっている。あの肉体を破壊しても倒せた訳じゃない、何処かに居るだろう

 だが、それがおれにも適用されるルールかと言われると違わないか?

 

 「だから!」

 愛刀を一旦納刀し、天を貫くように振り上げる!

 ガギン!と放たれた赫いエネルギーを両断し、蒼い結晶刃が迸る四色の雷に煌めく!

 

 「始水!アルヴィナ!」

 一息置いて、更に此処に居るだろう皆へと心臓に力を込めるように唸り叫ぶ

 「御先祖様、下門、アドラー!行くぞ!『星刃、界放!』」

 最早遠慮も出し惜しみもすべき相手でも出来る状態でもない!星雷の輝きがおれの内側から沸き上がる魔神(せんぞ)の猛りと共におれを覆い、雷炎と氷、絶望と未来を背負う!

 

 「『愛!勇気!誇り!大海!夢!』」

 短縮した祝詞、御先祖様に合わせ言葉を紡ぐ

 「『溢れる(おもい)を束ね紡ぎ、創征の銀河へと』」

 始水の声が合わせてくる。シュリへ届かせるために、おれがほんの少しアップデートさせた言葉がぴったり唱和する

 

 「『『(GONG)を鳴らせ!

 "スカーレットゼノン・アルビオン"ッ!!』』」

 黄金の雷が轟き、尽雷の狼龍が咆哮をあげた

 「っ!変身だと!?」

 「ああ、そうだイアン!お前と……」

 脳裏でさらっと正体を教えてくれる始水。何となく予想はしていたというか当にイアンが答えを叫んでくれてはいたんだが、それが事実だと裏付けて叫ぶ

 「アージュ=ドゥーハ=アーカヌム 《憤怒(ラウドラ)》!貴女を止めるために!皆がおれに力を貸してくれる!」

 キッ!と結晶が形となったバイザーの下で彼を睨む

 

 「そんな怒りで、これ以上戦わせない!」

 「そんな怒り?本当に、人間とは愚かすぎる。この怒りが!想いが!お前達が呼び起こした裁きだというのに!」

 シュリの可愛らしいものに比べて明らかに伸びた八重歯を剥き出しにして、目を見開いた龍の神が吠える

 

 「そうだ!理不尽で残虐な人類への怒り!それが俺を呼び覚ます!」

 「間違いだと言ったろ、変身ネズミ少年」

 「黙れ!お前もおぞましい裏切り者なのか!その耳も翼も、尻尾も左腕も!何もかも飾りなのか!神に人に!理不尽に虐げられてきた亜人の怒りと誇りはないのか!」

 ロダ兄相手に抜き放った光杖を突き付け、血の涙でも流していそうな声音で少年は吠えるが……

 

 「いやな?別にこいつも飾りじゃねぇしそれで差別もされたがな?俺様はまーったく、世界にも人々との縁にも絶望しちゃいないぜ」

 それを意に介さず、白桃の青年はからからと笑う。まるで諭すように、優しい態度で

 「どうしてだよ!」

 「はーっはっはっ!そもそも変身ネズミ少年!アンタだって別に恵まれてないって訳でも無いだろ?

 拾ってくれる人もいた、そいつの悪意から庇ってくれた人も居た、心配してくれる妹も、引き戻しに伸ばされる手も、全ては縁よ!どうしたどうした、自分一人で完結して閉じ籠ってちゃ、世界なんて何処にもないぜ!」

 「最初は悪意から始まった」

 「そうだ、人間など、心など!全て醜い欲望の発露!(シュリンガーラ)勇気(ヴィーラ)?馬鹿馬鹿しい、おぞましい!」

 すらりとした腕をぴっちりと覆う黒い手で少女龍神は右目を抑える

 

 「そんな優しさなどまやかしだ!全ては悪意を誤魔化す醜悪な塗飾!それをさも正しく尊いものであるかのように嘯いて、貴様らは僕に何をしてきた!」

 「分かるかよ、そんなもの!」

 言っちゃダメだろ、と思いながら叫ぶ

 そうだ、おれがシュリに向けてきた想いも、感じた事も何もかも、表面だ。あの子の心の奥底に何時もあった絶望なんて、何一つ本当に知っちゃいない!

 それでもだ!

 

 「君の過去は君の過去に過ぎないだろう、ラウドラ!」

 「そうだぜそこの毒龍神!自分から世界を閉ざしちゃ変われない、だから俺様は縁を紡ぎ世界を見続ける!」

 

 「……都合の良い言い訳を!」

 っ!平行線!シュリならばそこで迷ってくれるぞ!?ってそうだな、対峙すればするほどに痛い程理解できる

 

 「というかだ!一応僕等の眷属だろう貴様!!何を無礼を働いている!」

 「ああ、眷属だとも。だからおれはシュリンガーラを一人にしない。手を伸ばす!それだけだ!

 その為に!今は間違った怒りを止める!!」

 そう!おれはシュリに願われた眷属、勇猛果敢(ヴィーラ)だとしても!そうある事と……お前を止める事は矛盾しない!シュリの根本にある何かと、そもそも今の世界を滅ぼすアージュ=ドゥーハ=アーカヌムの存在の方が矛盾しているのだから!

 とはいえ、ロダ兄にはエクスカリバーも無いし、実質1.3vs2くらいの差があるから攻めに攻められない!倒さなくて良いとしても、不利は不利!

 

 「ああもう、理解出来ない!何だその矛盾は!

 こんな理不尽、良くもまあ昔の僕は耐え、あまつさえ寄り添おうとしたものだ!全て怒りで祓う事だけが、たった一つの正解だというのに!

 正義も勇気も、全てを討ち滅ぼす怒りの中にしか無い!

 欲望を押し付けることが正義か!それを受け入れ耐えることが勇気か!紛い物の正義を振りかざして僕に挑むなぁっ!」

 「そうだ!人間は悪!世界も悪!間違った世界における間違いなど!正義に同じだ!」

 その言葉に、ひっ!と怯えたようにネズミ少女は完全にロダ兄の背にしがみついて隠れた

 

 「……本当かよ、少年

 今もアンタに怯えてる妹が死んだって思った時、アンタ何を感じた?怒りだってなら、何にだ?」

 「ただ、主を気取っていた悪魔と!助けなかった忌み子と!理不尽な世界にだ!」

 

 その瞬間、おれの背から嵐が起こり、一つの影を呼び起こす

 それは、黄金の髪と混沌の瞳をし……なぜかおれっぽく水晶のガントレット等各部を武装した上で何時もの黒翼の他におれの背のブレードウィングっぽいオーラの翼まで生やした四枚羽根の魔神王シロノワール

 「シロノワール!」

 おれの声に応えるように、青年は静かに結晶の槍グングニルを構えた

 

 「私も大切なものを奪われた事はある。だから今此処に居る

 だが、だ。貴様の言葉には太陽の精神も鋼鉄の決意も、貫き猛る意志の片鱗も見えはしない。空虚な怒りに振り回される、憐れな人形が

 そんなものが、妹を護る者だと?私の神経をあまり逆撫でするな、不愉快だ」

 「つまり!」

 「ふん、あれは私の裁く敵だ、付いてきたいならば精々邪魔をするな」

 ロダ兄の言葉に翼を打ち振るい、魔神王は澄ました顔で告げる

 ……ツンデレかお前は!

 だが助かる!エクスカリバー程ではないとはいえ、グングニルとて蒼輝霊晶の武器、火力は十分!あの謎変身にも立ち向かえる!

 

 「ああ、任せたシロノワール!おれは、神様にお帰り願う!」

 「……ああもう、ウザい!煩い!」

 が、その瞬間、赫いオーラが膨れ上がり、庭全体に炸裂した

 その最中、おれに向けて飛んでくるものを左手の鞘で受け!

 

 「お前たち人間が欲しかったのはアマルガム(これ)だろう!おぞましい!くれてやるから、僕の前から消えろぉぉぉっ!」

 刹那、おれの全身から無数の雷撃と冷気が迸った

 「っ!?ぐ!がぁっ!?」




おまけ、えぬぽこ(@nnm_555)様から戴いたラフで作ったラサの名前の解説的なアレ
【挿絵表示】


ラウドラ(憤怒)だけ無い?そもそもラウドラちゃんがぶちギレて叫んでいますが、アージュは兎も角その大元の姿は自分が痛いから他人にもこの痛みを与えちゃいけないと溜め込んで耐える、何をされても反撃してこないから虐め放題酷いことし放題の美少女皇龍ですのでそんな感情ありません。酷いことされたら涙目で震えるか逃げるかするだけです。
まあ、こんなんだから闇堕ちした状態のラウドラってキレ散らかしているんですよね……

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