蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
教王、或いは決意の残骸
「こふっ!」
床へと吐き出される血。目の前の
「ってノア姫!」
それを眺めてる少女エルフに対して思わず叫ぶ
「これでもね、仕方がないから薬草は煎じて飲ませてあるのよ。その上でこれ」
「七天の息吹でも何でもあるだろ!」
「勿体無いわよ、それに……ね」
すっと細くなる紅玉の瞳。手にした杖が振られ、淡い光が死にかけの青年を覆うと……弾かれる
「見ての通りよ。アナタに似た症状ね。普通の魔法は効かないわ、それこそ聖女の力でもなければ、彼は死に行くだけよ」
その言葉と、事実回復魔法が弾かれた現実に戦慄する。おれの呪いは七大天……と言われているがその実混沌の神のものだ。魔神達の神が裏切り者を呪っている
だが、異端抹殺官にはそんな呪いの由来はないはず。ならば一体誰がこんな……
「げふっ!エッケハルト、様は……ヴィルジニー様の、希望は……」
かすれかすれの声。それにおれは彼の手を取ろうとしながら横に振る。無いてはとれず、肩を握ることになる
「あいつは引きこもりがちだ。だからおれが聞く」
と、そんな言葉を告げると、元々血の気の無い顔が更に青ざめた
「ならば……聖女様は……我等が腕輪の……」
「出先だ。だが、おれを信じてくれ、異端抹殺官殿。確かにおれは忌み子だが、かつてヴィルジニーを護ったのはエッケハルトだけじゃなくおれもだから。だから……
確かに彼に伝えるから、おれに教えてくれ!何があったんだ!」
そうして肩を揺すりかけ、そんなことしたら事切れかねないと思って視線でただ訴えるに留める
だが、彼は言葉を紡ごうとせず……
「あら、ワタシというエルフ種が、女神の似姿が居てもその態度?」
「かつて、ヴィルジニー様を襲った……二つの、災い」
と、ノア姫に言われて漸く溢し出す
「二つの……」
思わず聞き返す。いや、一個は分かるんだ。だがもう一個はおれは知らない。それがひょっとしてエッケハルトがどうこうに繋がるのだろうか、おれは少し言葉を待って……
「一つ、忌むべき子」
ってもう一個の災いっておれかよ!?一気に気が抜けた……ってそんな場合かしっかりしろおれ!
「ならば、もう一つは」
「ヴィルジニー様を娶ろうとし、今やそうではない動きを為す不遜」
「ユーゴ・シュヴァリエ」
「教王、ユガート・ガラクシアース」
「随分大きく……あれ?そうでもないか」
ガラクシアースという名に過剰反応しかけて思い直す
いや、アステールの姓ではあるんだが、そもそも彼女の父の名はコスモ・セーマ・レイアデス。【セーマ】の名が教皇一族である事を示し、姓ではない
「あんなもの、セーマの名に相応しく……ない」
「ああ、名乗っているのか」
本当は彼、ユガート・セーマ・ガラクシアースと言ってるんだろうなぁ……
「あんな、神気取り……」
「神気取り、か。それはもう、許せるわけないな」
「貴様もだろう!」
と、彼は怒りの形相で叫び、げほっ!とおれの胸元に大きく血を吐いた。ってかそこまでするほどに言いたかった言葉なのかそれは……
嫌われてるな、と当たり前の事に少しだけ悲しくなって、目を閉じる
「……神じゃない。おれは人だ。人でしかない。英雄でも神でもない人だから必死に手を伸ばす
おれは七大天様みたいに、伝説の勇者みたいに全てに手を差し伸べられないから。だから目の前の貴方に手を伸ばしているだけなんだ
だってそうだろ?おれ達はこの世界で生きているんだから」
「…………言うものだ、忌み子……
だが、ならば……たの、む」
そう言って、顎でほんのすこし指し示すのは、胸元のポケット
触れてみれば、硬いものが指に当たる。取り出してみればそれは……どこか見覚えのある、金属片だった
「これは」
「贋竜水晶……」
ひょこりと横から出てきて魔力を注ぎ正体を教えてくれるアイリスの猫ゴーレムと、ぷにっと肉球に触れられ淡く輝き青に染まる金属片
そうか、偽物の……と思ったところで気がつく
「って待て、これは!」
そう、新・哮雷の剣と名付けられた贋神器の一部!
「我等を護った、帝国皇子の……神器の残骸
お陰で、我一人、何とか逃げ出した……」
その言葉からして、もう兄は生きていないだろう。だがあの人、何だかんだ戦ったんだと分かる
おれの月花迅雷の為に作られた偽物で
少しだけ申し訳なさを感じる。だが、きっとあれが偽物だなんて当に彼自身知っていて。最期まで本物であるかのように振るい、誰かの希望となろうとして死んでいったのだ
ならば、ごめんはおれが言うべき言葉ではない
「有り難う、兄さん。有り難う、エドガール殿
その想いが勇気が、叫びを確かに此処まで……おれ達にまで届かせてくれた」
きゅっと愛刀を召喚して握り込む
小さなスパークが、角から走る雷がおれの手指をくすぐる。攻撃という程ではない、決意表明のようなものだ
ああ、おれと同じく怒ってくれるんだな、とその角先を撫でる
「七大天に非ず、銀腕のカミと共に己こそが神を詐称する……教王ユガートを
七大天への信仰を捨てさせる彼に対抗しようとした我等を殺したあの化け物を!」
「ああ、もう一度、おれ達が……彼からヴィルジニー達を救ってみせる」
キィン、と鳴る刃。鞘に装着されたALBIONの破片が勝手に展開される
「星刃、界放」
その意志を汲み、外見だけ変身する。青年から手を離してしまうが、あたふたしなかがらその背中は桜理が支えてくれた
「スカーレットゼノン・アルビオン
おれだって、少年達の
相手が銀腕のカミだとしても、きっと助ける。だから……」
お休み
そう言いきる前に、彼の頭ががくんと落ちた
「限界、だったようね」
杖を置いて、ノア姫が静かに告げた。同時、変身を解く。そもそも戦うために発動したのではないからすぐに解ける
「それで、どうするの?」
紅玉の瞳がおれを射る
答えなんて、当に知っているだろう。だが、あくまでもおれから決意として聞きたい、そんな想いを感じておれは一息つく
これは、本来あまりやりたくなかった事。だが、分かっていた。分かっていたんだ
もうとっくに、これ以上戦力不足だからと後回しにする訳にはいかなくなっていた脅威が、エッケハルトとニコレットの手を借りて次善的に何とか対処した間接的な被害ばかりではなく、遂に直接被害をもたらした
元々、放置していた事自体割と不味いことだったんだ。だが、勝ち目がなかった。ジェネシック・ダイライオウも何もない状況で勝てる未来が見えないから、言い訳して逃げてきただけだった
だがこれ以上、逃げるわけにはいかない。おれ達に(正確には何故かヴィルジニーの信頼厚いエッケハルトにだが)手を伸ばされた、おれはその手を取った。だから
「ユーゴ・シュヴァリエ。そしてAGX-ANC14B相手に、アステールを、そして聖教国を、ついでにヴィルジニー達も取り戻しにいく」
「ええ、分かったわ」
青年の目を閉じてやりながら、纏めた髪を揺らしてエルフの姫が強く頷く
「ぼ、僕は……」
迷いながら、桜理は左腕の時計に目を落とす
「怖いけど、君が必要だって言うなら……」
「有り難う、ノア姫、桜理。でも、別に戦争しに行く訳じゃない。あくまでもおれ達の敵はユーゴだ
だから、最低限国と国の間の礼儀を通した上で何とかする。準備を頼めるか?」