蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「やっほー!たっだいまー!希望を手にしてのご帰還だよー!」
「今帰りました、皇子さま」
そんな声が、おれの背後から聞こえる
「ってちょっと待って待って、何だかすんごい神妙な空気で場違い感が……」
「ご、ごめんなさいです……大人しくしますね」
そして、一気に元気そうだった気配が萎縮した
「すまない、最後に葬儀を終わらせるから」
「へー、私達が居ない間にそんなことが……」
漸く戻ってきた聖女様がうんうんと頷く。すでに彼等の葬儀は終わった頃であった。まあ、初七日だの葬儀の前のあれこれだのはほぼ無いから早かったが
が、ラサ男爵の遺骸についてはさんざん渋られたし、異端抹殺官殿については逆の意味で渋られた。何か聞き付けて現れた教会側から故国にお返しすべきだとか忌み子が穢れた手で触れるなとか散々言われたが、故国から逃げてきたんだよと何とか説き伏せた
『心配せずとも、私がちゃんと死後の事はしておきますよ。あまり彼に対して良い思いは個人としてはありませんが、流石に神様としてそこくらい弁えていますから』
と、脳裏に直接語り掛けてくるのは最近まで黙っていた幼馴染の神様。彼等の信仰する七大天の一柱である
これで安心ではあるんだが、地味に異様な状況な気がする。といくか、彼を救えたりしなかった……だろうな。救えるならまず助けたろうから。神様は万能であっても全能ではないのだ
『ちなみにですが、あの毒に狂った方は無理です。愛恋の毒のせいで死後の魂は腐った龍神に喰われましたから残っていません』
……何だか嫌なものを聞いた気がする
それはまあ今は置いておくとして、おれはもう一度最後に手を合わせてから、二人に向き直った
久し振りに会った気がする二人の聖女。彼女等が居たら呪われた彼は死なずに済んだのだろうか、なんて最早遅いし罪もない相手に対しては間違った責める気を追い払いながら、おれは二人に笑いかける
「って待ってください皇子さま!いったい誰のお葬式で……」
「異端抹殺官エドガール殿」
「え、あの方なんですか……」
心配そうに尋ねてきたアナの目がホッとしたように緩んだ
いや緩まないでやってくれないかアナ?彼だって普通に生きてただけだろ
「いや、なんでそんな事になってるのゼノ君!?」
「それを合わせて、情報交換しようか」
くわっ!と目を見開いて言ってくるリリーナ嬢に対しておれはそう告げた
「あ、じゃあお茶煎れてきますね!皇子さまはお砂糖少なめでミルク多め、リリーナちゃんはお砂糖たっぷりで良かった……ですよね?」
……いや、やりたいなら良いけど疲れてるなら休んでも誰も文句言わないぞアナ?とそそくさと嬉しそうに久し振りに駆け出す銀髪聖女を見送って……
暫くすればたしかに相手の好みに合わせた紅茶のような暖かな琥珀色の茶が並べられた
「えへへ、疲れたからわたしの分普段より多く甘いもの入れちゃいました」
と、銀の少女はサイドテールを揺らして
「な、成程そんな事が……」
あの女の子悪かったんだねーと頷くリリーナ嬢。ずずっと啜られる琥珀色のお茶
「うーん、どうすればいいかなゼノ君」
と、悩んだ少女の手を、制服の上着の裾ポケットからひょこりと顔を出した小さな生き物が舐める。頭に宝石の付いたウサギともリスともつかない謎の生き物……カーバンクルだ。流石に胸ポケットでは無いらしい……って、そもそも柔らかいとはいえ胸に押し潰されるから入れないかそんなの。おれは制服の胸ポケットに手帳を入れてるが、正直銃弾とか防ぐ昔始水と見た映画の影響だしなそれも。いや、そもそも手帳で防げる程度の拳銃弾なら今のおれ数千発撃たれても痛くも痒くもないんだがお守りだ
連れ帰って来てたのか、と何となく息を吐く。いや、別に悪いことではないんだが……
「あ、皇子さま、ナッツ……じゃなくて干しリンゴとか無いですか?アウィルちゃん向けのそれ、この子好きそうだったんですけど全然沢山は持ってきて無くて……」
『ククルゥ!』
抗議するようにおれの脚に頭を擦り付けてくる小柄な姿に擬態した天狼。本来はおれが乗れるので頭が低すぎる
「あはは、あげたらアウィルちゃん怒ったんだよね……」
苦笑するリリーナ嬢に、おれはほいと大袋を指差した
そもそもアウィルの為に買いだめしてある。ノア姫には良い顔されないからノア姫が来ない騎士団の一室に米俵みたいな肩に担ぐレベルの巨大な菓子屋に卸す業務用の干しリンゴが置いてあるのだ
「あ、あるんですね……」
「ゼノ君って割とこの子に……だけじゃないけど甘いよね……いやまあ、それがゼノ君って攻略対象なんだけどさ
……誰にでも優しいから泣くよ?」
「そうか?」
「アーニャちゃんが」
いやアナがか。うん、それは気を付けるべきかもしれない。結局おれの呪いはそのままで、応えるわけにはいかなくて。それでもだ、好きだと言ってくれる相手から何時までも何時までも逃げてるだけなのもいけないから
「え?泣きませんよわたし?」
「そこは泣こうよアーニャちゃん!浮気だよ浮気!」
本気でも無いのか……と少し肩を落とす。その掌をペロペロとアウィルが舐めてくれていた
「いやわたしに本気になってくれたら嬉しいですけど、それはそれとして、それで手を伸ばして貰ったから今があるわたしが皇子さまのその行動を責めたりしませんし……
何ならそうして皇子さまが手を伸ばした子達が多いほど皇子さまを助けてあげられますし」
「……ごめん、頭アーニャちゃんってそんな反応なの忘れてたよ……」
そんな久し振りのやり取りに唇を歪めて微笑みながら、おれはよくやってくれたろう愛狼に向けて干しリンゴを投げた
「……で、とりあえず情報を互いに交換しようか?あまり時間がない」
「え、そうなの?ごめんごめん!
私達は割と報告どおり!頼勇様は早めに開発行くって!」