蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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握手、或いは人材選定

「な、成程……?」

 理解できてない感じにリリーナ嬢がふむふむと頷く

 だが、横のアナはちゃんと状況を理解したようだ。流石は聖教国で聖女とされてただけのことはあるな

 

 「つまりさゼノ君、多分大丈夫って思ってたユーゴが暴れまわってるって話だよね?」

 「ああ、そうなる」

 「じゃあさ、潰しに行けば良いって事だよね?確かにあいつすんごい強そうだったけど」

 だが、おれはその言葉にダメだと首を振る 

 

 「ん?駄目なの?」

 「駄目だよ。相手は教王ユガート・セーマ・ガラクシアース。まあ正体はユーゴなんだけどさ、一応それらしい地位に居る他国のお偉いさんだ。教王なんて名乗ってる以上そうなる

 あそこは聖教国、七大天を奉る宗教国家。そしてね、彼らはおれ達に公にSOSを出してはいないんだ。つまりさ、介入したくても正当な理由がない。そんな状況で大挙して乗り込んだら、おれ達が世界の敵になるよ」

 ま、リリーナ嬢とアナだけは聖女様だから騙されてるだけって許されるだろうけどとおれは肩を竦める

 

 そう。それが一つ厄介なのだ。苦しめられてると言ってくれないから内政干渉になりかねなくて動き難い。向こうのトップのうちアステールはユーゴに惚れている状況だし、教皇様は恐らく殺されて既に偽物。枢機卿はかつてもヴィルジニーとアステールを人質にされてユーゴに味方させられていて弱みがあるし、まともなのはヴィルジニーくらい。だが、それも表だって動けばユーゴに即座に殺されるだろう

 

 「分かってても大っぴらには動けないんだ、リリーナ嬢」

 「うっわ」

 「だから、分かっていても公式に礼節に則ってあの国を訪問して、そのメンバーだけで裏で何とか解決しないといけない

 分かってるのはおれ達だけだ。そして……おれ達は世界の敵になる訳にはいかない」

 そして……とおれは指折り数える

 

 「そもそも、ユーゴ的にはおれ達を入れたくないだろう。だから、下手な人員は入国すらさせて貰えないよ

 入れるとしたらまずは聖教国である以上無下には出来ない聖女様」

 指を二つ折る

 

 「あ、私行けるんだ。でも……」

 「折角方法を見付けてきたシルヴェール様の婚約者さんを治せるかもしれない状況で、行くわけにもいきませんよね……」

 「うん。何日かかけてゆっくり馴染ませていく必要があるみたいなんだよね……」

 役に立たないねーとばかりにしょんぼりするリリーナ嬢。心なしかツーサイドアップが何時もより沈んで見える

 「いや、折角頑張って力を手にしてきたんだ、シルヴェール兄さんのために使ってやってくれ」

 

 と、おれを見上げてくるのは銀の聖女様

 「あの、皇子さま、わたしは……大丈夫ですよね?ほら、一応聖教国で腕輪の聖女とか呼ばれてますし、今回はあなたのお役に立てますよね?」

 心配そうに揺れる海色の瞳。危険な場所だからと断りたくもあるが、最初から危険だと言いながら話を進めている現状、そんな自身の命の危機より他人を優先したいという気持ちは分かる。だから、おれは少しだけ気を落ち着け、いや残れと出かかる言葉を呑み込んで頷く

 「ああ、アナが聖教国に一旦戻るって話を止められる人間はあそこに居ない。来てくれたら本当に助かるよ

 そもそも、おれだけじゃ入国拒否で終わってしまうからさ。少なくとも誰か来てくれなきゃアステールを救いに行く事すら不可能なんだ」

 

 そんなおれの言葉に、頬を軽く染めてサイドテールの女の子は微笑む

 

 「えへへ、全然皇子さまのお役に立てなくて悲しかったですけど、勝手に距離をつくらされるだけに思えてましたけど

 偽物?聖女様としての立場が、あなたの役に立てるんですね」

 「でも、だアナ。知っての通り相手はユーゴだ。とてつもない危険に晒される事は間違いないんだ」

 本当に良いのか、と改めて確認だけ取る

 本当は、おれ自身が言って欲しい……責任を逃れたいだけのようなもので

 「大丈夫です、皇子さま。わたしがやりたいんです

 あなたのお役に立ちたくて、でも決してそれだけじゃなくて……」

 ふわりと雪のように儚さを感じさせる笑みを少女は浮かべ、その腕輪の付いた手を眼に毒な胸元に置く

 「わたしだってアステール様……ううん、アステールちゃんの友達です。聖教国で、あの子が居てくれたから皇子さまのところに帰るために頑張ろうって想いを強く持てた、大切な恩人です

 だから、わたし自身が、この力で、わたしの出来ることで、あの子の為に動けることがあるなら、やりたいんです」

 「アナ」

 「危険だって承知の上です。皇子さまもアステールちゃんも命がけなんですから、わたしにも同じくらい一生懸命にさせてください

 お願いです、皇子さま」

 その言葉を告げる瞳には、儚い印象とは真逆の強い光があって。それは、あの日おれを監禁してきた最後、告白してきた時に見えたのと同じ光

 それを信じないことはおれには出来なくて、少女の手を取った

 

 胸元に当てられていたせいでその際にふわりとした新雪に手を埋めるような感触が指先に触れ、慌てて離す

 地味に締まらないなこれ……

 が、胸元に当てられる程ではなくとも逃げるおれの右手を細く白い指が追い、掴んだ

 

 「……はい、頑張りますね、皇子さま」

 そして銀の聖女様は横ですんすんと香りばかり嗅いでいる黒髪の魔神を見る

 「アルヴィナちゃんはどうします?」

 「行く」

 「いや待ってくれアルヴィナ。魔神族であるアルヴィナは正直なところ向こうの索敵にバレて面倒になりかねない」

 が、参戦を表明してくれて悪いと思いつつ、おれは手で立ち上がるアルヴィナを制する

 帝国内でバレてないの、そもそもトップである父さん等が知っててガン無視決め込んでいるからだからな。割と魔神族察知する魔法は多いし、実際何度か引っ掛かっているのだとか。もう少し手綱を付けろとは父さんに愚痴られたが、そもそもアルヴィナはおれのペットじゃない

 

 「正直最後の手段だ、アルヴィナに来て貰うのは。魔神が居ると知れたら聖教国は混乱する。それに乗じてって戦法を取るしかなくなるから……

 それしか手がない時まで温存したい。他に何とかなる可能性がある限り、それを模索したい。この手を使ったら、もうアルヴィナは追われるしかなくなるんだからさ」

 「……わかった。でも、あーにゃんか皇子が呼んだら即座に駆け付ける」

 「ああ、頼むよアルヴィナ」

 

 「あれ?えっとじゃあ他には……?」

 「そもそも、向こうが来るなと言えないようなラインの人材となると、此方には……」 

 と、アナとの対話でズレた話を戻すおれ

 「まずアナとリリーナ嬢。次にエッケハルト……の奴は引き摺ってでも連れていくとして」

 脳内で酷っ!という抗議が聞こえた気がしたが無視。いやお前多分アナの為だと言えば着いてくるだろうきっと

 「後は流石にノア姫とアウィルくらいか」

 

 「あら、呼んだかしら?」

 と、その瞬間に扉を空けてきたのは、珍しくめかしこんだ……というか何時もより重装備のノア姫であった。まるで旅装備だ

 

 「ノア姫」


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