蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
静かな燃える瞳がおれを見据える
「ルディウス兄さん」
「君と同じだよ、ゼノ。許せる範囲ってものがある。そして、ね
彼等はそれを踏み越えた」
おれの手の中にある折れた剣の破片を摘まみ、彼は小さく語る
「君の計画があるのは分かるよ。やりたいことがあるのも知ってる。僕はこれでも信心深いからさ、あのアステール様から散々聞いてるよ
だからこそ、良いかな。君たちの行動に、僕も入れて欲しい」
「と、言うことだ。他に皇狼騎士団を纏め散発的とはいえ襲来が始まった魔神族を抑えるとなれば、
ま、政治など纏められた幾つかの方針からこの道だと選ぶ等半分は部下任せだ、多少の時間ならば居なくとも回る」
と、静かに告げる父皇。完全にルー姐の行動を認め、言外におれに対応を促している
「……ルディウス兄さん」
一応おれもアナに目配せし、良いですよと微笑まれるのを確認してからおれは青年に向けて手を差し出す
「良いんだね」
「一つだけ、おれの言うことを守ってください。そうしなければ上手く行かないから」
「分かった、僕は君達の為に何をすれば良いかな」
女装しているというのに鋭すぎる眼光に見詰められ、おれは何処か茶化すように、ごまかしを混ぜながら告げた
「ルディウス兄さん。おれが良いというまで、若しくはこのままではどうしようもないと思うまで……『ルー姐』を貫いてください
それが出来るなら、大丈夫です」
「ん、どういうことかな?」
小首を傾げ、青年のツインテールに纏められた髪が揺れる。男性だと分かっていてもフェティッシュな魅力に何だこの人とクラクラする
「それだよルー姐。第四皇子、皇狼騎士団長。そんな相手が乗り込んできて、警戒されない道理があるはずがない。だから、そんな手は使えない
シロノワールも、竪神も、だから寧ろ着いてきては頼れるけど困る」
具体例を挙げながらおれは指を折る
そう、だから頼勇にもそうそう頼れないんだよな。あくまでもユーゴにはおれ達を舐めて貰う必要がある
その点おれは何処まで行っても魔法に弱い忌み子だ。そして恐らくだが、向こうは月花迅雷の進化を知らない。だから月花迅雷を預ければ脅威とは見なされないだろうという皮算用がある
が、頼勇やシロノワールは別だ。そして、警戒されたら勝ち目なんて無い
「じゃあ、ルーねえさん?ならだいじょぶなんですか?」
「うん、大丈夫だよアナ。ルディウス皇子なら困るよ?
でもあいつらはきっと……」
と、おれはふんふんと着いていけてないように桜理と共に適当に頷いているリリーナ嬢達に言葉を投げる
「リリーナ嬢、オーウェン。君達の知る『原作ゲーム』において、メインキャラクターっていうのは、皇族の中で誰だ?」
「まずゼノ君、シルヴェール様、あとアイリスちゃん」
「えっと、皇帝陛下もそうじゃなかったかな……?」
そのおれと同じ答えにそうだなと首肯を返す
「そして彼等
うちの学園のテスト受けさせたら軒並み落第点取るだろうなあいつら。一応貴族に産まれてこんな点数恥ずかしくないのかとどやされるレベルで何も学ぶ気が無かったろう。力に溺れて学が無さすぎる
「だから」
と言いつつ、おれはルー姐のツインテールに触れる
「あいつはルディウス皇子がどんな人間かを知らない。第三皇女がアイリスな事は知っていても、他にどんな皇女が居るかもロクロク知らない
だからこそ、アイリスの姉だと言い張って、ルー姐自身も完全にお兄さんに会いに来たか弱い皇女を演じてくれさえすれば、ユーゴは騙せる」
「そうやって騙していかないと、勝ち目はないんだね?」
「はい。正面から戦ってアステールを救えるなら、当の昔におれ達は戦ってますから」
言いつつ、おれは愛刀を見る
湖・月花迅雷。アロンダイトの名を加えたくてそう名付けた進化した姿。最期まで子を護るよりもおれ達を護って戦い続けた母天狼と、死ぬと分かっていながらおれ達の為に円卓に反旗を翻した下門陸の想いが産み出した海色の刃
こいつならば、ある程度戦える。立ち向かえはする。だが……
「決め手に欠けるから、姑息な手を使うってことだねゼノちゃん?」
「そういう事です。ルー姐には……」
「事情なら聞いてるよ。『ステラがどーなっちゃっても、変なこと言い出しても、おーじさまを助けてねぇ……』って手紙に書いてあったからね」
いや、アステールがそんな手紙を出してたなんて初耳なんだが
「そもそもゼノちゃん、アステール様が何かと王都に来れてたの、誰か皇族が手引きしてたとか思わなかったかな?」
くすくすと笑うルー姐に、おれはそれもそうだと頷くしかなかった。他国のお偉いさんがそんなほいほいうちの首都で活動できる筈もない。出来るとしたら誰かが許可してる訳だし……
「父さんだと思ってた」
「残念、ルー姐なんだよね、手引きしていたの」
笑いながら、すっと兄の表情が固くなる
「でも、切り札がないと」
「……ある」
ひょこりと姿を見せたのは、引きこもっていったアイリス(のゴーレム)だった
「アイリス?」
「切り札なら、あります」
「いや、何が」
「ジェネシック・ライオレックス」
「いや待てそいつはまだ暴走するだろう」
が、降り立った猫ゴーレムはおれの頭の上で首を恐らく横に振った
「大丈夫、です。お兄ちゃんと一つになった時、漸く分かった」
「ひ、一つに……」
「兄妹だよね……」
何だか横で二人ほど顔を赤らめてるが、何なのだろう。アナもあれ?と首を傾げているが……
「あー、ごめん。アーニャちゃんはそんな純真なアーニャちゃんで居てね」
「物理的にアイリスのゴーレムを纏ったって話だぞリリーナ嬢」
「うん、そんな事だろうなぁって後で思ったけど、言い方が悪い」
と、余計な話とばかりに頭に爪が立てられた
「今まで、相手を倒すために調整してた。だから暴走する
違い、ました……。あの翼は、護るべき者の、元へ。辿り着く為に……護るためにある、機体
それを、戦うため、に……調整したら、暴走するのは……仕方ない、です」
「つまりあれか。おれとアイリスの合体形態みたいに、防御特化にすべきなのか」
うーん、設計図から読み取れって中々に難しいぞユートピア、もう少し分かりやすく書いてくれ
そんなおれの苦笑にアイリスは軽く頷いて去っていった
「って言っても、竪神に来て貰うのは本当に最後の手段なんだよなぁ……
アルヴィナに暴れてもらって、魔神族の襲来がと理屈を捏ねてって散々にヤバい橋を渡るから、あまりやりたくはない」
さてどうするべきかと悩んでも答えは出ない
あまり長々とやってても意味がないので、おれはもう諦めて発つ事にした