蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「大丈夫です。確かに魔神族は復活します。わたしはそれを知っていますし、実際に戦わなきゃいけなかった事だってありました」
きゅっと手を胸の前で握り、腕輪を輝かせるアナ
「でも、でもです。だからこそ戦う人達だって居ます。皆を護ろうと、今も自分達は傷付きながら、貴方達を護れるならそれで良いって剣を取る、勇気を振り絞った人達が居るんです」
『ワゥ!』
相槌のようにアウィルが軽く天を剥いて吠えた。共鳴するように腰の愛刀は小さく鳴るが、流石にこの場で出ていくことはしない
何たって、正直忌み子なおれって避けられる側だからな。おれが出ていくと寧ろがっかりされる
だからほい、カッコつけろお前と横でアナちゃーん!と黄色い歓声を挙げていた男の背を強めにどついて人の輪から追い出した
「おわっ!?何するんだよゼノ野郎!」
「エッケハルト、斧を取れ」
「何を言って」
ぼやきつつ焔髪の青年が手を大地に向けると、舗装された地面からぼこりと小振りな斧が飛び出してきた。豊撃の斧アイムール、七天御物と呼ばれる伝説の武器の一つが
「あ、アイムール!?」
「アイムールだ!」
「……彼はエッケハルト。そう、彼のように立ち向かう者達が、確かに居るんだ」
ちなみに嘘だ。アイムール持ってるのは確かだけど、魔神との戦いにもロクロク顔を出さないんだよな……
まあ、死にたくないのは分かる。おれだって無理強いする気はないが、せめて希望として持ち上げられる役目くらいは果たしてくれという暗い気持ちもある
だから無理矢理ここで表舞台に引きずり出す。それが分かってるのか、青い瞳がおれを恨めしそうに見るが……
涼しい顔で無視
「そ、そうです。このエッケハルトさんのアイムールみたいに、七大天様の武器だって立ち向かう意志に力を貸してくれているんです」
と、アナまでもおれの嘘に乗っかって持ち上げはじめると、まあ……と青年はデレっとして頬を掻く
でも良く考えるとこれエッケハルトの事はまともに誉めてなくないか?
「それに……」
と、おれを見るアナは一瞬だけ何か言いたげにして、けれどもおれの意志を汲んだのか口を閉ざしてくれた
「そう、知ってますか?わたし、帝国に居る時はライオさんっていう、鋼の獅子を駆るすっごい人に護って貰ってたんですよ?」
えへへ、とはにかみながら誤魔化すアナ
「確かに大変な時代ですけど、わたしたちが、七大天様が見守ってくれる勇気ある人達が、きっと平穏を取り戻しますから」
そう締め括る聖女の周囲で、うぉぉぉぉーっ!と歓声があがる
「聖女様ぁー!」
「エッケハルト様ぁーっ!」
きゃーきゃー中々に煩いが、辛気臭い状況よりは余程良い。調子を合わせるようにおれもとりあえず拍手で参加しておけば、横で曖昧に笑いながら桜理も続く。更にルー姐も合わせてくれて……
というところで、ガチャガチャという金属音におれは遠くへと右目を凝らした。慣れはしたが、今でもどうも遠近感が掴みにくい。隻眼の弊害って奴だろう
そのせいで少し距離の把握がしにくいが、大体数百m先から真っ白い鎧の集団が此方へ向かってくるのが見えた
聖教国の所謂聖騎士団だな、何処までがユーゴの手の側なのかは分からないが、少なくとも即座に敵対して良いことはない。向かってくる集団の戦闘に居るのは龍兜で青い色を加えた騎士、体格的に男性だろう彼が恐らく聖騎士の長だろう。その周囲にユーゴらしき人物は見えない
居たらあいつ絶対真ん中でドヤってるだろうしな
だからおれは周囲の喧騒の中普通に彼らの到着を待った
「静まりたまえ君達!」
果たして、到着した聖騎士団の長だろう龍兜から聞こえたのはやはり若い男の声
「聖騎士団」
びくり、とエッケハルトが震えるが……
アナの前に膝を折り、剣を捧げるように騎士の礼を取る彼にあれ?といったように固まる
団長らしき若き騎士の礼に倣い、さっと波が波及するように現れた騎士達15名も一気に膝を折った
「お待ちしておりました、腕輪の聖女様。よくぞお戻りで」
「あの蛮族国家へ行く等気が気でありませんでした。よくぞよくぞ……」
あ、団長の横で感極まったように泣き出した騎士が団長に肘鉄を食らわされてる
「どうも、蛮族の一員ですが引き継ぎをしても宜しいか?」
「い、いえ第七皇子殿下。忌み子と呼ばれ恐ろしき存在とはいえ、今の貴方をあまり蛮族と呼ぶことは我等としても好ましくはありません」
静かに冷静に告げられる言葉に、へぇとおれは彼らにばれないように驚きを噛み殺した
いや、もっと嫌われてるものかと思ったが……
「ぐっ、事実を……」
あ、人によるかその辺りは、なんて団長に押さえ付けられて強制的に頭を下げさせられる口の悪い騎士を見ながらおれは思う
「……聖女様?」
「いえ、皇子さまは必死にわたし達の為に頑張ってくれてるので、それを悪く言われるのはあまり好きじゃないんです
だから、咎められてるのを止めたくないなって。勿論酷い事をされそうならやりすぎですよって止めるんですけど」
「存じております。アステール様とお二人の時も、貴女様は何時もそうでいらっしゃった」
深々と頭を下げる団長、それに合わせておれに暴言を吐いた騎士の頭が舗装された大地に擦り付けられた
「おれは気にならない。寧ろ、忌み子であるのは当然、歓迎されないのも必然だ。言いたいものは言わせて欲しい」
団長の手をおれは軽く掴み、力の抜けたその手を兜から離させる
「ただ、結果だけがそれを覆せる。そうだろう?」
そうしておれは地面に這いつくばらされた騎士へと手を差し伸べて……当然のように払われた
うん、知ってたがまあこれで懐柔できる訳もない
ただ、彼等はそこまでユーゴ派って感じはないな、と態度を見ながら思う
「皇子さまが言うなら、今回は此処までですよ」
「……聖女様と皇子殿下がそう仰るのであれば」
と、礼を終えて騎士は立ち上がる
「巡礼者の者達よ、すまないが道を開けていただこう。もう聖女様からの暖かなお言葉は十二分の筈。これ以上は寧ろ害となる
何時までも聖女様方を寒空の下に居させるわけにはいかないため、お迎えにあがりました」
もう一度軽く礼を取る騎士。その兜がすぽっと脱げて転がった
「あっ……」
「おっと」
ぐらっとした瞬間に何となく気がついていたおれは地面に落ちる前に兜を回収して被せたが……そのほんの少しの間に、彼の正体は分かってしまった
自棄に兜がデカイと思ったが、亜人だったのか。耳を収納するスペースのせいで大きな兜になり、結果少しブカブカになったと、とちらりと見えた獣耳にそう察する
あの丸めの耳は……多分虎系か?
「聖騎士殿、兜の緒はしっかりと締めないとな」
「……申し訳ない。アステール様から戴いたこの兜、少し合わないのは自覚していたのだが、折角戴いたものをサイズを合わせるための改造などしたくなく……」
「あ、アステールちゃんの選んだ方なんですか?」
ぱっと目を輝かせるアナ
「はい、聖女様」
が、何処か微妙な空気が漂い始める。アナは気にしてないって事を周囲にアピールしてるが、やはり亜人蔑視は消えきらないのだろう
だからか、おれへの態度があまりキツくないのは、とも思う。自分も蔑まれる側だから、少しのトゲはあってもそこまで……って話なのだろう。そして、そんな亜人にとっては希望とも言えるアステールを信奉しているアステール派、と
「ルー姐、どう思う?」
「アステール様の味方というのが、何処までかは分からないね。ゼノちゃん、もう少し様子を見てよっか」
その言葉に頷き、おれは彼が調子を取り戻して先導を始めるのを待った