蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……第七皇子殿下」
アナ達と共に大教会へと向かう最中、ふと青年騎士団長がおれへと小声で話し掛けてくる
「貴方は……」
「約束通り、アステールに会いに来ただけだよ。この先、あまり時間は取れないから」
あまり、あって欲しくはなかったけれどとおれは肩を竦めて返す
「…やはり、貴方は聖女様と共に、亜人の希望の火になる人だ」
小さく彼は指先で円を描いてから一筆で十字を描き、神(ティアミシュタルを示すマークだ)への祈りを切った
……これ、分かってて言ってるな?
おれはアステールに会いに来たとしか言っていない。だが、彼はその言葉からすれば変な返しをしてきた
それはもう、アステール相手の『ユーゴ達がまた君に手出しをした時』の約束を果たしに来たって事まで理解した反応だろう
これで実はユーゴ側だったらもう詰みだ、諦め……はしないがユーゴを称賛しよう
「……龍姫様の印なんだな」
「意外でしょうか」
「いや、君みたいな亜人と言えば王狼信仰の印象が強くてさ、龍姫ってのが不思議だなと」
「……アステール様から戴いた兜や、あの方の笑顔を繋いでくださった方も龍姫様のものでしたので
いえ、不満ではなく新たな信仰の目を開かせて貰ったと感謝しております」
ちらりとアナに視線を向けてか、青年騎士は慌てて取り繕った。龍姫信仰はアナ達の影響があるのか、なら納得だな
うんそこの龍姫、自慢げに……してて良いや別に。神様の信仰とかおれがとやかく言うことではない
『まあ私は兄さんの信仰にとやかく言いますが』
信じてるよ
『正解ですよ兄さん。私が欲しいのは信仰ではありませんので』
……あ、満足したのか切れた。最近寂しいのだろうあの神様幼馴染。良くあまり重要でない事でも話し掛けてくる
そうしながら、そろそろ大教会へと辿り着こうかという時……
「……殿下、他の皆はどんな存在なのでしょう」
ふと、おれの周囲の皆を警戒するように、青年が尋ねた
「まずおれとアナ……は分かるか」
「流石に」
「おれと……いやアナと似た髪色の女性はルー姐。おれの姉のルヴィ皇女殿下。こっちにも帝国から来てる皇子が居るだろ?たまには会いたいって言うから同行してる。すぐに帰るよ」
その言葉にふむふむと頷く青年。あまり疑っていないな?
ルヴィ皇女なんて居ないんだが、まあ他国の皇族なんて全員覚えてないのが普通だ。基本余程の地位でないと関わりなんて無いしな
その点で見れば彼がそうなのは可笑しくはない。だが元々帝国の公爵家に産まれた上に今は教王とか名乗って国家一つを好きにしてるユーゴの奴が同じく騙されそうという判断なのは……その方が助かる
「で、黒髪で晶魔様の加護を多少受けてるのがアナの友人のオーウェン」
言いながら、そういやサクラ色の一房って始水やノア姫によれば七大天の力の形象らしいし、桜理も特別枠に捩じ込めたのでは?と思い出す
が、兜飾りを揺らし小首を傾げる青年を見て、駄目だったかとおれは一つ息を吐いた
まあ、聖教国の上の方の人間ならある程度までは顔(まあ魔法で作られた似顔絵での話だが)と名前が一致するものの、おれも桜理とロダ兄以外にそんな特徴的な髪見たこと無いしな。あまり有名ではないのだろう
「アステールが証言してくれれば……無理だな」
こくりと頷かれると、何も言えない。始水も黙ってるし、出発時に思い付かなくて良かった。危うくポンコツ晒すことになってたな
「で、エッケハルト……は正直知ってるだろ。ヴィルジニー様のお気に入りだ」
「ええ、彼の事は」
「……で、おれ達については以上だ」
『ヴァゥ!』
と、抗議の声に悪い悪いとおれは吠えた狼の頭を軽く撫で、続ける
「そういえばアウィルを忘れちゃ駄目だな。天狼のアウィルだ。おれ達に手を貸してくれていて、腕輪の聖女様を護るために今こうして着いてきてくれた」
『ルルゥ!』
「以上、ですか」
おや、何処か気になる点でもあるのか、青年は少しだけ気落ちしたような声音でおれに問い掛ける
「以上だ。それとも、竪神達を連れてきた方が良かったのか?」
「竪神、様……」
ぽつりと溢される言葉
掛かった、と言いたいが……何か違和感があるな。こっちの最強戦力とも言える竪神が来てないと確認しておきたかったというには、何だか不思議と心が籠った呼び方だった
『さて、どう思います兄さん?』
有り得る答えは二つあるかな、始水。まず一つは、彼が真性異言だから
と、おれは自分の思考を幼馴染の手を借りつつ纏める
そう、リリーナ嬢とか、知り合った瞬間に頼勇の名を出せば即座に食い付くだろう。似たように、ゲームで知ってるから名前に反応したというのがまず一つの可能性
そしてもう一個は……
『この世界の中で、彼と知り合いである可能性、ですね?』
その通り。こっちなら倭克、それも竪神貞蔵が治めていた領の出という話になり……これも可能性としてはあるだろう。頼勇によればナラシンハにより崩壊したらしいが、そこで七天教を頼ったという状況ならば、この状況は決して変ではない
「君の名は?教えてくれないか」
だからおれはそう問い掛ける。ここで名前から推測できるか?という判断だ
倭克の出ならば、頼勇のように日本っぽい名前になるだろうが……
「ああ、そうでした。ディオと御呼びください。アステール様からいただいた此処での……教徒としての名です」
ビンゴ……にはならなかったか、と溜め息を隠れて吐く
だが……アステール由来の名か。これだとどっちだ?所謂洗礼名って奴で、ユーゴのユガートとやらと同じようなものだろう。本名ではないから判断がつかない
「……第七皇子殿下。これから我等は、教王の元で動くこととなります」
が、更に問い質す前におれ達の歩みは終着点へと辿り着く事となり、彼は話を切り上げてしまう
「貴方方には不快ともなりかねませんが、御容赦を」
「……ああ、了解したディオ聖騎士団長」
言いつつ、とりあえず頷いていく
うーん、味方っぽいがこれは……本当にどっちだ?
なんて思っている暇など、そこまで無く
「いよう、良く来たな。本当に、良くもまあ我の前に顔を出せたもんだ大罪人」
おれを蔑むような声が聞こえてくる
「そーだよねー、ステラ感心しちゃうなー」
空虚にも思える、可愛らしい声音もまた
それはこっちの台詞だという返しを呑み込んで、おれは軽く彼へと頭を下げた
「申し訳ない、教王殿下」
睨下、と本来は呼ぶべきなのだろう。だがユーゴ相手にそんな呼び方真っ平ごめんということでそれはガン無視でおれは正式な礼儀よりかなり軽めに頭を下げる
不届きもの、無礼千万、最低限学んでいた礼儀作法(ちなみに本気で最低限だ。ある程度以降の礼儀はノア姫に習ったが……そもそもノア姫自体がおれより格上なので、彼女なりの礼儀作法をおれが真似たら問題視確定なんだよな)でも分かるが気にもとめずに
横ではアナがしっかりとした礼をしていて、ルー姐はおれと同じく何処か嘗めた礼、エッケハルトは……いやお前は礼をしろよ?突っ立ってるんじゃねぇよエッケハルト!礼儀作法は習ったろ!
そんなおれ達を、漸く生身で再会した白銀の巨神の使い手は冷たく見下ろしていた