蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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襲撃、或いは証拠

「……アステール様、横の方はどなたでしょう?」

 そんな沈黙を破り、最初に言葉を切り出したのはやはり、この場では唯一彼等に対して対等に言葉を紡いでも咎めることは出来ない少女であった

 

 「ん?我は」

 「えっとねー、聖女様なんだから分からないかなーアナスタシアちゃん?」

 耳をぴこぴこ、ヴェールに上手く隠された付け根の白毛から軽く逆立たせながら、狐少女はこてんと小首を傾げる

 

 「おっかしーねー、昔々良くおしゃべりしたのに変だよねー?

 どーして、ステラのおーじさまの事をわすれちゃってるのかなー?」

 心底不思議そうなその言葉に奥歯を噛む

 アガートラームがアステールの絆を、記憶を燃やして力に変えている事は分かっていた。だからこそ、ユーゴはあまり彼女が空虚にならぬようまともに戦いに来ない筈というのが此方の皮算用だった

 だが、前に出会った時よりも更に記憶の欠落と、それに合わせた勝手な補完が進んでいる気がする

 

 ステラのおーじさま。アステールがおれに向けて言っていた言葉が、ユーゴを示すようになったのは分かっていたが……ほぼ完全にユーゴに擦り変わっている

 

 「ごめんなさいアステール様。でも、わたしは全然会ったことがありませんから……」

 「そーだっけー?」

 不思議そうに目をしばたかせるアステール。その左右で色の違う瞳の奥に見える星はかなり薄い。ともすれば見落として普通の瞳にも見えてしまうだろう

 おれは静かにアナを制しようとする。そう、この明らかな異常事態でも彼等はユーゴを敬わされている。つまり、支配されているのだ

 あまり藪をつついても魔神を呼ぶだけ。此処でやるべき事は喧嘩を売ることではない

 

 いやまあ、おれ自身はユーゴに喧嘩売りに来たんだけどな?でも、だからこそ

 

 「申し訳ありません、アステール様」

 「ステラって呼んでよ」

 何時ものようにアステールと呼んだおれに対して返されるのは、そんなあまりにも冷たい言葉。絶対零度、嫌だという音色を含んだ拒絶の言葉

 「……申し訳ありませんが、貴女様はアステール様ですので、どうか御容赦をお願いします」

 「えー、ステラ、ほんみょー今更呼んで取り繕うの嫌いだなー」

 「てめぇ舐めてんの?うちのステラに対して……いやマジで何しに来たわけ?喧嘩売りに来てんの?」

 金髪の二人からの責める視線がおれを打つ。どちらからもおれに対しては嫌悪しか感じない。昔のアステールにあった『本当はステラと呼ばれるのが嫌だ』という期待なんて欠片も無く、心の底からかつて望んでいた呼び方への拒否だけが存在する

 

 「……今更ではありましょう。ですが、同じ忌まれてきた存在として」

 ぺしっと頭を打つ何か。たらりと垂れる生暖かいもの

 下位の魔法で狙撃されたのだと理解した。が、防御を無視した怪我を気にもとめずにおれは言葉を続ける。此処でキレたら敗けだ

 

 「えー?忌み子と違ってむかーしむかしの事だよー?

 ユーゴ様が居て、まぁほんのちょーっとだけはそこの七大天様にもステラのおーじさまにも逆らう化物に比べたらってステラ憤慨しちゃうよーな意見もあって、お陰で今ステラはこーしてちゃんとおとーさんの娘で次の教皇になったんだよー?

 むかーしの事を掘り返してどーじょーを引こうなんて……侮辱も良いところだよねー?」

 尻尾の毛を逆立てて威嚇してくるアステールの姿に、横でエッケハルトが噴き出すのが見えた

 いや酷いなエッケハルト、幾ら深く関わってなければ何処かシュールな光景ではあるといえ……

 

 「あの、アステール様」

 「……うんうん、多分七大天様にもユーゴ様にも逆らう魔神と同じ怪物の悪い力のえーきょーだよね?

 ステラが助けてあげるから、大人しくしててねー?」

 アナの声も届かない。そして……

 

 「そもそもよ?お前どの面で我の前に顔を出してる訳?」

 「この面です、ユーゴ教王殿下?」

 「ユガート・セーマ・ガラクシアースだっての!」

 飛んでくる重力波に少しだけ地面に押し付けられそうになるが無視。舐めるなとばかりにおれは微動だにしない

 その左腕に輝く緑の光を放つ黒鉄の腕時計、語るに落ちているぞユーゴ

 

 「おれは一時聖教国に帰還したいという腕輪の聖女様の護衛を担当していた機虹騎士団として、聖女様の護衛をしていただけですが

 それに、アステール様相手には借金もありましたので、それをお返しする約束も」

 孤児院の費用とか色々借りてたから、これは嘘ではない。まあおれの至らなさで潰されたんで、割と借りた意味が無くなってたんだが……

 

 「ふぅん?」

 嘲るように、ユーゴがふんぞり返る

 「マジでいってんのお前?」

 「大真面目ですが」

 「んじゃよ?」

 と、彼は一つの水晶を掲げる。魔法による記録水晶だな、おれは使えないが、下門がコラージュ素材として使ってたりで覚えがある

 

 「これ、どういう訳?」

 そして、輝き投影されたのは……おれの姿

 そう、野生に偽装されたワイバーンを蹴散らしていたあの時のおれだ

 

 が、殺す気はないから抜いていなかった月花迅雷を抜いているように加工されていたりと細工が目立つ。特に抜刀状態なのにアルビオンパーツが鞘飾りのまま残っていて、ついでにガントレットにもなってると増殖してるとか、もう少し考えて加工してくれないか?ぱっと見で矛盾指摘出来るぞ?

 あと、桜色と金雷を放ってるが、桜雷は纏うものであって周囲に向けて撃つことはないし、黄金の雷は奥義時だから赤雷と青雷であるべきだし……

 

 はぁ、と溜め息を吐く

 「それが何か?」

 「……あ、認めるんだな?」

 「何を?」

 「あぁ?聖教国が誇る竜騎士団が連絡を受けて聖女様を迎えに行ったってのに、それを聞き入れずに飛竜を襲ったって事実だよ」

 

 ……そう来たかぁ……とおれは内心で息を吐いた

 同時、理解できる事もある。少なくとも竜騎士団はユーゴの傘下に収めきられてるということだ。相棒にして生命線である飛竜をあんな使い方させられるなんて、反抗はもう出来ない状況なのだろう

 

 「それは可笑しいよ!」

 と、横で必死に黙っていたろう桜理が思わずといったように声を上げる

 「そうですよ?わたし、迎えなんて聞いてません」

 「じゃあよ、この必死に団員が撮った証拠はどういうことだよ?」

 ずい!と突きつけられる捏造記録。良く見れば、映っている飛竜は野生の偽装がされた状態ではなくそれ用の鎧を身に付けた装甲騎竜だ

 これを見たら騎士団の所属だと分かるだろう。目立つようにエンブレムがこれ見よがしに映されているしな。実際に出会った時は野生に見せ掛けられていたが……

 

 「……ゼノちゃん、どうする?」

 と、小さくおれに、そして一番噛みつきかねないアナにも聞こえるように、ルー姐がそう問い掛けてくる。それに対しておれは、考えがあるから任せてくれと小さく返した

 「……それは本当ですか?」

 問い掛けるおれに対して、ユーゴは小さくぱちりと指を……あ、スカってる

 が、音ではなくポーズが合図なのだろう。羽ばたきと共に見覚えのある爆鱗種が舞い降りる。撃退した時に首筋に着けた傷がまだ残っているので、今は装甲してるが間違いない。傷つけてない部分にも装甲の上から傷が入ってるのが凝った偽装だ。それが装甲していたのに傷つけられた感を醸し出している

 ……でもなユーゴ?月花迅雷で斬った傷周辺はそんな露骨に融解しないぞ?

 

 「……はぁ」

 息を吐く。散々脳裏で思い描いたように、幾らでも反論は出来るだろう

 「バレてしまったか」

 だが、わざと悪辣に、おれは肩を竦めて見せた

 

 『兄さん』

 「皇子さま?」

 「ああ、知らなかったろ聖女様?」

 わざと歯を剥き出しにして悪を演じる

 そうだろうユーゴ?お前はゲームで良く知ってる筈だ。月花迅雷は誰でも振るえるのが一番の強さ

 だからそう、おれから取り上げれば自分達の力に出来ると……下門の想いが折り重なる前までは確かに正しかった事実を未だに信じる

 

 良いよ、くれてやる。それでおれを無力化したと思い込ませてやる。反論はしない。すればするほどに、此方の手の内を明かして行くことになるのだから

 「あ、あの!」

 「ゼノ皇子」

 「おれが勝手にやったことだ。認めよう、教王殿下。理由は貴方が良く知ってる確執だ」

 軽く手で頭を掻く。うん血が付くがまあ良いや

 「誤魔化せると思ったが、甘くは……なかったか!」

 弾かれたように愛刀を腰から鞘ごと引き抜き、中段に抜刀の構え。更に深く構えてユーゴから鞘を隠したところで愛刀の鞘飾りを起動。普段はガントレットになるアルビオン由来のそれを袖から滑り込ませて肩に装着する

 この一連の動作を終えたところで……

 

 「ステラおこるよー?おーじさまはステラが護るから」

 ユーゴの前に壁になろうと立ちはだかる狐耳に、諦めたように軽く頭を振っておれは構えを解いた

 もとから承知の上だ。これは斬り付けるためでなく、捕まった後までパーツを持ち込む為の演技なのだから。さて、真実に気が付けるかなユーゴ?

 

 「アステール様が敵ならば仕方ない。少しは味方してくれると思ったんだがな」

 ぽい、と愛刀を地面に放り出して、お手上げとばかりにおれは手を上げる

 

 「連れていけ!」

 ……さぁ、本番はこっからだ。そそくさと月花迅雷を回収する彼を横目に、おれは内心でそう呟いた

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