蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……む?成程の」
眼前でふむふむと突如頷いた紫混じりの銀の髪をした少女に向けて、我は冷たい視線を向けた
「あ?突然何を言い出してんだお前?ってか突然来やがって何の用だてめぇ」
我はステラとの蜜月があるんだが?と凄んでみせても、我関せずといったように前回は見覚えがない銀の翼を軽く畳むのみ
だが……眼前に居る相手について我は円卓の長から強く言われた。変に気に入られたようだが、あれは世界を滅ぼす邪毒の龍神。心を赦せば腐り殺される邪悪と
だから騙されたりしない。本当の愛に気がついてくれたステラと違って、ゲームじゃ居なかったこいつを信じるなんて馬鹿のやることだ
今も左右で色の違う瞳の奥で一体何を考えていることか、分かったもんじゃない。そう考えながら、我は奪い取った黒鉄の腕時計を白く豪奢なケープ付きのマントのポケットの中で握り込んだ
「む、儂かの?儂は単にの、同じ宗教集団の上に立つ神話超越の誓約として、少しお話と手助けをしに来ただけじゃよ?」
こてん、と小首を傾げる姿は邪気をあまり感じさせず愛らしい。ロリコン野郎共なら惚れるかもしれない
だが、我には効かない。手に入らぬ相手を追い求めてる円卓の馬鹿共とはそこが違う。真にステラ達との運命により結ばれてる我こそが正しい。原作を変えなきゃいけないあいつらはカスだ
「我にそんなもの必要と思ったかシュリンガーラ」
「そーだよねー?ユーゴさまはすごいもんねぇ……」
横でうんうんと頷くステラ。しょーがないなぁというように酒……ではなくジュースを少女の前の器に注ぎ、我には高い林檎酒を振る舞う。黄金に近い琥珀色に悦に入って、我はグラスを軽く回転させた。ちゃぷちゃぷという揺れすら心地良い
元の世界ではどれだけ苦労しても味わえなかった幸福だ。そうだ、努力は報われるべきで、だから我はこうして報われるべきだったのだ
「……その名はやめてくれぬかの?儂は堕落と享楽の亡毒、シュリンガーラとは儂が司る心毒の事にすぎぬよ。お主とて、あまり好かぬのは分かるのではないかの?」
「は?知るかよ」
「ならば言い直そう。儂はアージュ・ドゥーハ・アーカヌム。混合されし奇跡の切り札の長として此処に立っている者。其故に、半端な名で儂を呼ばんでくれんかの?」
その言葉に、我ははぁ?と馬鹿にしたように息を返した
いや、何いってんだこいつ?知るかそんなもんって話だ。亡毒だか何だかしらないが、偉そうすぎるってか馬鹿かこいつは?
「……えー、ユーゴ様に逆らうのは良くないよねぇ……?」
「ま、そこまでどうしようもなく不快ではないから別に良いがの」
翼を収め、紫に近い尻尾を垂らして銀龍は告げた
その手にはきらりと銀色のナイフが見える
「毒龍が銀ナイフか」
「すまんの、毒で」
手にした食器とそれに貫かれた肉を視界に入れて目を細める銀龍少女。儚げだが、それに騙されるのは馬鹿のみだ
「ってか、その肉は我の晩飯の筈だが?勝手に食うな」
「いや、供されたのでつい、の。すまぬが、これも赦してくれんかの?」
「いやそもそもお前何しに来た」
改めて吐き捨てる我。それを受けて、肩を竦めながら銀毒はまた息を吐いた
「さっき言ったじゃろ?」
「いやー、ステラには訳が分からないねぇ……」
冷たい視線がステラから放たれる
「しょーがないからもてなしてるけど、ステラ的にはこまっちゃってるしー、まともにやって欲しいかなー?」
「では聞くがの?お主は儂の
その言葉に、我は少女が興味津々というように目線を向けていた我が手にした雷刀を静かに見下ろす
「はっ!やけに大人しかったのはアルトアイネスをアテにしてたからだろ?そいつならさっき潰した。アルビオンみたいに持ち主を殺したら変に奴らの手助けをする謎機能があったとして自殺しないと発動しない
あんなナヨナヨした野郎に自殺の勇気なんてあるかよ。だから無力化なんて終わってんだっての」
その言葉に、馬鹿に……はしてないが溜め息を吐かれる
「ぁ?」
「いやの。あやつ、ついさっき脱獄に成功したんじゃが、本当に無効化はできておったのかの……?」
「いや待てよ、脱獄だと?何で分かるんだ?」
「いや、あやつは儂の勇猛じゃからの?大抵の心境も行動も筒抜けじゃよ?儂に勝手に伝わってくる程じゃ」
ふふん、と尻尾とツーサイドの髪を揺らし自慢げに告げてくる銀毒。我は調子乗るなてめぇと上下を分からせるようにその纏められた右髪を引っ張った
同時、掌に走る結晶の輝き。全身毒物は伊達ではないというか、油断も隙もない
こうして好意的に接してきてきてもこいつは敵だ。何が同じ宗教集団の上に立つ神話超越の誓約だ、我に嫉妬してるのだろう。こいつも原作におらず、無駄に努力を重ねる必要がある負け組なのだからな
ってか、我を本当に好いてるなら良いんだが、そんな気配が薄い。自分の体液は毒だからとヤろうとしても逃げるし……
ステラにもコフィンに入れざるを得なかったせいでしっかりとは触れられないし……考えるだけでイライラする!それもこれも大体は襲撃してきた魔神王テネーブルとあのゴミカス皇子のせいだ!
「あぁ?そもそもてめぇの何かなら止めろよ!」
「眷属にしたから全部筒抜けで、不意など最早打てんしの。半ば無力化はしておるのじゃが……」
ふふん、と何故か自慢げに銀龍はその縦に瞳孔の裂けた金の瞳を細めた
「それ以外はあまり止められんの」
「つっかえ!」
「ま、それはそれとして……儂の言葉に答えてくれんかの?」
静かに告げられて、知るかよと酒を喉に流し込みながらそれでも横で追ってきてくれたユーリがわたわたしているのを見て、しゃーないかと口を開く
「だから、本気で何があいつに残ってんだよ」
まず、我は龍少女がじっと見ていたから仕方なく貸してやったオリハルコンの鞘に収められた蒼刀を見る
「そいつは第三世代、此方が持ってりゃ我の力だ。何だか
こくこく頷くステラ。流石ですとキラキラした目のユーリ
「次、一回だけ軽く面倒な状況にさせられた轟火の剣はもう使わせねぇ。あいつに渡した服は良く燃える」
「脱がれたら終わりじゃろ?」
「べっとりと既に体に塗られて染みてるんだ。余程のんびり風呂にでも入らないと取れやしないし、脱げば魔法で探知する。楽勝だっての」
「……ま、それもそうかの。脱いではおらぬようだしの」
「分かってんならまず位置を教えろてめぇ!」
が、我関せずとばかりに龍少女は翼をぱたぱたするのみ
「儂、知っておるのは流れてくる思考ばかりじゃからの。通気孔まで素手で掘り抜いて、そこから何処かへ抜け出しておるという思考は伝わっておるから脱獄したとは分かるが、位置は知らんよ?」
「つっかえねぇーっ!」
「そう言うなお主よ、内心の裏切りも何もかも知れるから筒抜けなのは便利じゃよ?」
「てか何が言いたいんだよ!あともう肉食ってんじゃねぇよ!ユーリも出すな!」
「す、すみませんユーゴ様」
「今はユガートだっての!お仕置きな!」
「は、はい!」
どこか頬を赤らめ頷くユーリ。それを興味無さげな顔で眺めている銀龍
いや、マジで我に惚れてるなら目の前で他の女を抱くと言ってて嫉妬の一つも浮かべるだろ?何だお前と溜め息を吐く
「んで?結局何が言いたいんだよ本当に」
「いやの。そもそもじゃがの、その刀は実はその気になれば呼べるようになっておるよ?」
「は?」
「ついでに言えばの、他人が振るえば雷撃が迸ってしまうようにもなっておるの」
「何じゃそりゃ!?」
「それが湖・月花迅雷への変化、つまりはあれは罠という訳じゃよ」
「そんなのゲームに無いだろいい加減にしろよあのチート野郎」
「ま、じゃからわざわざ儂が来た甲斐がある。総ては心毒で歪み、意味を為さなくなるからの」
つぅ、と抜いた刃に右手の指を押し付け、血を刃に流しながら少女は無表情な瞳で微笑んだ
ちなみにですが、あれ?と思うかもしれませんが仕様です。思考読みは本来は言ったとおりのメリットがある効果なのですが……うんまぁ、ゼノ君って対シュリンガーラ最終兵器ですのでこうなります。