蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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夢、或いは覚悟

「あーしゅ、ちゃん?それはしゅりんがーらちゃんとは別の子なんですか?」

 気持ち苦しさが寝顔から薄れた少年の頭をソファーの上に置かれたクッションに乗せて撫でてやりながら、銀髪聖女様がそう問い掛けてくる

 

 それに対しておれは、シュリとのキスの後、夜に見たあの夢を思い出して言葉を探る

 が、何というか……良く分からない、が本音だ

 

 「いや、どうなんだろうなあれは」

 「あれ、分からないんですか?」

 「ああ、今のおれってアルヴィナがずっと見てるように、シュリともリンクがある状況なんだけど」

 びくり、と少女の肩が震え、ルー姐が呆れたような目線を向けてくる

 

 「ゼノちゃんは本当に、さぁ……一回ルー姐の女の子の大事に仕方講座でも受けた方が良いよ?泣かせることばっかり得意になって、ルー姐悲しい」

 「泣かせるって」

 「だ、大丈夫ですから。わたしは気にしてませんから!」

 ぱたぱたとアナが手を振り、それを見たルー姐はほらね?とおれを責める

 

 「こうやって、我慢させて心のなかでは泣いてる子を作ってるんだよ。気にしないと駄目だよーゼノちゃん

 少しずつ泣くけれどちゃんと晴れ晴れとした気持ちになれるようずっと皆の面倒を見るでも、誰かに決めて一旦大泣きさせて気持ちを整理して貰うのでも良いけどさ?もっと大事にしないと」

 怒ったような言い回しだが軽く、少女(せいねん)はおれの肩をぽんぽんと叩く

 

 「特にゼノちゃんみたいなのはさ、女の子を泣かせやすいからね。早めにどっちかに覚悟決めるんだよ?

 泣き腫らしたままの女の子を沢山産んだら、ルー姐本気で怒るから。それこそ魂の逝く所にだって向かってゼノちゃん殴るよ」

 ……いや、そこまで言われなくても死ぬ気はもう無い。最期まで足掻ききる

 代わりに死ねたら、って想いはまだ燻ってはいる。いるけれど……

 

 ぐっと腹の前で右手を握る。其処にガントレット状にパーツが結集し、何処か龍爪のように結晶が伸びる

 

 「大丈夫だよルー姐。この手でなければ伸ばせないものがある。こんな命でも、捨てたら届かなくなるものが多すぎる」

 シュリにも、そして……母狼や下門にアドラー達から託された想いの果てにも。この手しか届かない

 

 あの時おれは桜理に手を伸ばした。そして届かせられなかった。桜理はそれでも伸ばした事に意味を見出だしてくれたが、結局届いてないのは変わりが無い

 おれは他の真性異言と違って、前世の記憶の有無で性格なんて変わらない。だから……この手を『今度こそ』とより強く伸ばせるように、獅童三千矢としての記憶の火を継いだ。今ならそう思える

 

 夢を見ていた。死んでいった妹達に責められる、おれの妄想が産んだ夢だった

 夢を見た。かつての世界の人々に穢さる、今も妄想に囚われているおれみたいな少女の見続ける夢だった

 

 現実に、恐らくはシュリの中に見付けたあの銀龍を見て心の中が整理できた。故に今、ちょっと場違いだけど言えるだろう

 ごめん、ずっと願いを無視した上におれの呪いの言い訳に使っていて。でも、君の思いも背負っていくから。だから……

  

 「いってきます、万四路(ましろ)

 ぽつりと、そう呟く

 

 「皇子さま?」

 「ごめん、独り言だよ、アナ。君がずっと信じてくれていたから、ちょっと言いたくなったんだ」

 「……はい!」

 何だか嬉しそうに満面の笑みで返されて目をぱちくりさせる。いや、おれには筋が通ってもアナからしたら誰ですかそれで終わりそうなんだが……寝言で万四路の事でも言ってたのだろうか?

 

 「えへへ、皇子さま、自分を呪うのはもう良いんですか?」

 「呪ってる暇なんて無いよ。それに、呪っていたら伸ばせる手も伸ばせやしない」

 「はい!じゃ、今ならわたしの好きも」

 「いやそれは無理だ。それはそれとして、おれは忌み子だ。おれがどうとかそんなものは無関係に、単純明快な事実として呪い子で周囲から疎まれる奴は駄目だろ」

 だというのに、フラれた筈の聖女様は嬉しそうににっこりと笑みを浮かべ、くるくるとサイドテールを指に絡めた

 

 「えっへへ……」

 「嬉しそうだね、聖女様」

 「はい!だって皇子さま、今回は自分が悪いって言わなかったんですよ?

 わたしがどれだけ皇子さまを想っても、皇子さま自身の心の問題は解決してあげられません。でも……そうじゃなかったんです

 忌み子だから。周囲からそう扱われていて、実際に呪われているから。だから駄目だって。そんな風に貴方を縛る……大事な人を傷付ける外部要因とだったら、女の子は幾らでも戦えちゃいますから」

 きゅっと豊かな胸の前で少女が手を握り、腕の神から与えられた腕輪が煌めく。正に聖女という絵面だが……

 言ってるのおれへの告白に近いんだよなぁ……それで良いのか乙女ゲーヒロイン

 

 それが普通じゃん!?自分を攻略対象外だとでも思ってたのゼノ君!?と脳内でリリーナ嬢に突っ込まれた気がして、まあそれもそうかもしれないと諦める

 

 「うんうん」

 「いやルー姐まで」

 「いやいや、同じ気持ちだからねー

 もう流石に目の前のほんの少しの何かの為に全部投げ捨てそうな危うさは無い。良い目になったねゼノちゃん、ルー姐嬉しいよ」

 「そんな風に思われてたのか……」

 「ゼノちゃんがあの四天王の影と戦う時とか、心配すぎてこっそり見てようかと思ったくらい」 

 いや心配され過ぎだろおれ!?どれだけ信用無いんだと言いたいが、まあ仕方ない気もするので黙っておく

 

 「それで、話は戻りますけど、そのあーしゅちゃん?はどんな子なんですか?」

 言われて言葉を探る。いや、夢で会ったけど、何というべきか……

 「おれみたいな奴だよ」

 結果、出たのはそんなどうなんだこれという言葉 

 「つまり、皆想いですっごく優しい女の子なんですね?」

 「いや違うが!?」

 違わない気がするがつい否定してしまう

 

 「アーシュは割とそんな感じだが、どうしておれみたいという単語からそんな性格が連想されるんだ!?」

 「え、皇子さまと言えば誰彼構わずにとりあえず手を伸ばす、愚直で優しすぎて簡単に騙せる、助けたくなっちゃって仕方ないお馬鹿さん……ですよね?」

 「いや割と口が悪いし屑だぞおれ」

 「悪い人は自分を屑と呼びませんよ皇子さま?」 

 うん、何か言うと変なカウンター飛んできて少し怖いんだが。これが敵からのカウンターなら死んでるな、反撃しにくい

 

 「それで、その子は……夢で会ったんですか?

 どんな夢で」

 「多分昔、シュリの故郷の世界で……自分の分身が首を絞められながら言葉に出来ないおぞましいものを舐めさせられているのを怯えながら見ていたよ」

 その気になれば瞬殺出来たろう力の差を必死に抑え込んで、傷付けないために傷つけられるに任せていた

 

 「やっぱり皇子さまみたいな子なんですね……

 それで、その子としゅりんがーらちゃんは」

 「多分アーシュの未来の姿、流石に人類に絶望しきったのがアージュ=ドゥーハ=アーカヌム、つまりシュリだとおれは思うんだが……」

 言いつつおれは肩を竦めた

 「その割にはじゃあ今のシュリの姿がアーシュ時代に戻ってるのは何でなんだ?って事は分からない」

 いや本気で何故なんだ?考えても答えは出ない

 

 というか、夢の中で見ただけでも、あのアーシュってシュリより遥かに強いんだよな。ぱっと見だけど、三人に分裂してる今の力と同じなのか違うのか分からない何かで分身を産み出して素のユーゴくらいの男に弄ばれていたけど……少しでも本気で拒絶して強く頭を振ってしまえばあの男は血煙になっていたろう。腰周辺とかミンチすら残らなかったに違いない

 その頃のスペックに戻った……のだろうか?いやそうなると寧ろ怖すぎるんだがな

 

 「皇子さまにも分からないんですか?」

 「ああ。今分かるのは少なくとも今回は敵に回る気は無いって事くらいだよ」

 言いつつ、おれはもう良いかと立ち上がる

 

 正直、あまり留まりすぎるのも良くないだろう 

 「そうなんですか?」

 「さっき言ったリンクで全部おれの思考は筒抜けだからな。敵ならとっくにこの部屋に居るとバレて踏み込まれてるよ」

 「あ……」

 が、長居し過ぎればシュリ関係なくバレる

 

 「じゃあ、アナ、ルー姐

 休ませてくれて助かった。行ってくる!」

 新調した服のポケットで鍵を握りしめて、おれはそう叫んだ


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