蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
まずはサルースと合流したいということで、とりあえずディオ団長の用意した騎士服に袖を通す。まだあの囚人服の袖は着けておかなければならないが、アナが軽くピンで止めててくれていたお陰で割と移植は簡単、更に上から鎧兜なりたまに降る雪を考えてか装備されている前まで閉められる大きめのマントなりで不自然さは自然に隠せてしまう
そうして用意をして歩き出せば……
呼ばれた気がして、ディオ団長に横の部屋を開けて貰う
果たして、其処には当たり前のように銀色の龍少女が待っていた。何か豪奢なソファーの上にちょこんと正座してるのが不可思議で、少し笑えてしまう
「む、お前さんからしか伝わらんと思うたがの、案外儂の事とか分かるのかの?」
「ま、君の過去を夢に見るくらいだからね、アーシュ」
そう呼べば、嬉しいのか少女はしっかりと閉じた背の翼を軽く拡げた
ああ、ソファーに普通に座るとラウドラの持つ翼と同じ形状をした翼がクッションに引っ掛かってしまうから正座していたのか。背中に大きな翼があると大変だな。
いや、ロダ兄やシロノワールにも翼はあるが、あれは鳥のものだ。その点シュリの翼は甲殻が重なった巨大なブースターが皮膜で三つ連なったような形状をしている。つまり、しっかりと閉じた時に彼等の比じゃなく嵩張るのだ
「いや、儂はシュリ、シュリンガーラじゃよ。アーシュ=アルカヌムなど最早何処にも居はせぬ。お前さんの前に立ちはだかる儂も、所詮は
何処か寂しげに小首を倒して笑う毒龍。良く良く見れば、銀髪に昔のシュリの色を思わせるように紫メッシュが入っているんだが……その範囲が増えている。あれか、気分が落ち込むと髪の紫色が増えるのか
「そっか、シュリ」
「にしても、夢か。儂の夢とは不可思議じゃな。面白いものでもなかろ?」
「まあ、不快な夢ではあったよ」
言いつつ、夢の内容を思い出す
「毒を強めたら危険だからと泣き叫ぶ君に暴行する男が出てきた」
「……ふむ。お前さんはそれを見てどう思ったかの?自分も同じ事をしたくなったり」
「いや、願い下げだよ。あんな事はやりたくない」
話していても、シュリは割と潜入してきた時と変わらない。敵意も害意もろくに無い
そこまで確認して、おれは夢の話が出たことを期に言葉を紡ぐ
「それはそうとシュリ。君がこうしておれと話しもしてくれ、何なら行動の援助すらしてくれてるなら頼まれて欲しいことがある」
「む、あまり無理を言うでないよ?」
とは言うが、ふかふかソファーに正座したままの龍少女の大きな尻尾はご機嫌に揺れている。こうして見れば見るほどそっくりというか、あの夢で出会った龍神が絶望して世界に毒を撒き散らしてしまい、己に絶望した結果が今のシュリと言われても分かる
だとすればこそ、ラウドラ達の存在が良く分からないのだが……
「シュリ。イアン達を狂わせた強さじゃなく、昔のアマルガムって貰えないだろうか」
「昔のとは、どんな毒かの?」
「誰も痛いのは駄目って言ってた頃の、優しい毒。夢のために勇気と本気が出せるってくらいの強さをしていたという」
「無理じゃよ」
即答された
「そこを何とかならないか」
「じゃから、不可能じゃ。本当は強い毒を撒きたくなかった一人ぼっちの龍神なればともあれ、今の儂は邪毒の龍。毒を強めすぎたからの、そんな使い道の無い弱毒は残ってなどおらぬよ」
「そう、か」
分かっていた。あくまでも可能性でしかないことは。万全というか安全最善の手が消えたとしてもまだ他の道は
「じゃが、まあ毒も薬も使い手次第、じゃろ?
時をくれれば、可能な限り昔のように毒性を弱めたものを用意はしてやれん事は無い
無いがの。それは結局あの狐娘を救うためであろう?」
左右で違う色の瞳が、静かにおれを見つめた。翼は閉じ、尾は静かに背もたれを擦る
「では聞くがの儂の
部屋の温度が数度下がった気がした。光の薄まった瞳が責めるようにおれを射る
が、だ。おれは正面で膝を折った体勢のままぽんぽんとその頭を撫でる
「シュリ、どちらかしか救えない訳じゃないだろう?」
それにさ、と苦笑しながらおれは天井を見上げる
「正直、シュリ……どころかアージュ自身、そこまでアヴァロン=ユートピア等と相性良くないだろ?」
「ま、最終的には世界を腐らす儂等とあやつ等は雌雄を決するであろうよ。別に、同盟など結んでもおらんしの」
「その時の前に相手の戦力を減らせる。悪くない理由付けじゃないか?」
「次回、『EX 毒銀龍と語る凶敵考』。儂の
え?夢の話?……ちょ、ちょっとここでやるのは恥ずかしいからの……えっちな要素が入ってしまうし……」