蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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身バレ、或いは咎エルフ

約束を果たすようにと銀龍と指切りを交わし、ひょいと気楽に大きすぎる尻尾を犬のように振って出ていくシュリを見送ってからおれも部屋を出る

 神妙な顔で待っていたディオ団長が困惑したように鍵を閉めてくれるのを見て、悪いとおれは軽く頭を下げた

 

 「い、いえ交友が広いのは別に良いのですが、あの銀色龍人は一体何者なので……?」

 「おれの味方でおれ達の敵だ」 

 「矛盾してませんかそれは、というか敵なのですか」

 「敵だよ。相応の希望を見せなければ、絶望のままに敵対してくるだろう独りぼっちの銀龍

 だからディオ団長、彼女に対しては毅然と対応して欲しい。希望だと懐いてくれたら割と安心なんだが、そうじゃない以上貴方には何してくるか分かったものじゃないから」

 「何でそんな化け物に懐かれて……

 いえ、狂っていなければアステール様の境遇を変える存在になどなれなかったでしょうが……」

 兜の上から額を抑えてみせる青年にだなと苦笑して、おれは彼の先導を受けて歩みを進める

 

 「……彼を、救いに行きますか?」

 途中、二階の廊下から下の喧騒を見て青年はぽつりと告げた

 おれに似た服を着て、おれと同じように顔の左側に大火傷を負った銀髪の青年が魔法でがんじがらめにされている

 おれはそれを食い入るように見詰めつつ、首を横に振った

 

 「アステールの為にも、シュリの為にもおれは行動まで時間を稼がなきゃいけなくなった」

 すまない、と聖都の発展と比較すれば粗末な作りの騎士服のポケットに突っ込んだ拳を握り込む

 すまない、本当は助けたい。そんな無茶するな、あと少ししか生きられないならば、それこそ最期の時間を大事に好きに生きてくれ!と叫びたい。だが……

 覚悟を無駄には出来ない、おれにはまだ稼げる時間が足りていない。だから、せめて心に刻む。光の鎖に囚われて、そのうちユーゴに処刑される事で時を稼いでくれた彼の事を、忘れるものか

 

 目に焼き付けながら、嘲るように青年を蹴り飛ばすユーゴへの怒りを今は振り切るように、おれは何度も首を横に振り続けた

 

 と、不安になって水筒を取り出せばやはり水面が揺れている

 『「あの、皇子さ……あれ?」』

 「騒ぎは替え玉だよ」

 外での騒ぎを聞いたのか焦った顔の少女に笑いかけ、水を一口。噛みきった唇から垂れる苦い味だけが舌に残る

 

 そうして、ちょっとしたあれこれを経ておれはエルフの青年が待つという別の貴賓室にまで辿り着いていた

 

 「ディオ団長、此方なのでしょうか」

 と、兜を被りつつ礼儀正しい感じで声をかけるおれ。ボイチェン……ではないがプロの女性声優のまんまの少年声が声帯から出てただけあって、声真似は案外得意技である。ぱっと聞いただけでは到底おれの声とは思えないだろう

 

 いや、ゲームのおれと同一声優な別作品の○○の声だ、でバレるかもしれないが、それが出来るのは真性異言(ゼノグラシア)だけだ

 そう考えるとおれの声なかなかのチートだな?と思うが他人に成り済ませれば今は良いのだ

 

 「ああ、アルデ」

 そう、アルデ。それがあの青年の名であり、今はおれの名である

 「……ディオ団長、何用だ」

 貴賓室、女神の間の前で槍を交差させ護衛していた此方より立派な支給品の騎士達が怪訝そうにおれたちを見る。が、そこは既に決めてある

 

 「いや、アルデがエルフ種については騎士団の中では詳しくてね。少々彼……いや彼で良かったかな?」

 「男性のエルフだ」

 「そう、彼の目的とか、色々と話を聞きやすいと思って連れてきたんだ」

 どん、と背を強く叩かれる。幾らでも耐えられるがわざとおれはそれを受けて体をぐらりと揺らした

 

 「アルデ、勿論無礼の無いように」

 「は、はい!」

 そんなおれ達を少し疑わしげに見詰める彼等。良く良く見れば竜騎士達だなあれ。となると……と思ったが、案外あっさりと彼等は槍の交差を解いた

 

 「良いか、無礼の無いように。ユガート様がお怒りになられる。あと兜は取れ」

 「御意に」

 そうおれは小さく告げて兜を外しつつ開かれた扉を潜る。その最中、「お願いします」と小さな声が聞こえた

 

 ……これおれの正体バレてないか?とは思うが、何も今は起きないのでそのまま扉を抜けて部屋へと入った

 

 果たして、優雅にお茶を淹れながら彼はおれを待っていた。サルース・ミュルクヴィズ、ノア姫の兄であり父シグルドの友人であった咎に落ちたエルフの青年が、優しく微笑む

 

 「やぁ、待っていたよ。久し振りだね、アルデ君」

 ……うん、正体バレバレだな。久し振りと言える時点で、おれが誰かは分かってるという事だろう

 

 ちらちらと見れば、扉を警護していた騎士の片割れが入ってきていた。まあ、流石に貴賓室を守る彼等が中に入った人間をスルーするわけにはいかないだろうが……これでは何と返して良いのか分かりにくい

 

 「……お知り合いでしたか、忌み子皇子」

 ……あ、完全にバレてた

 「いや何故」

 「愛竜の薫りが残っている以上、騎士アルデでは有り得ない」

 ……ああ、匂いか……とがっくりくる。嗅覚が鋭いアルヴィナが居てくれたら気が付いてくれたろうか?彼等竜騎士の騎竜に襲撃された時、ほぼほぼ素手で追い払うに留めていたせいで匂いが着いてしまったのか。遠距離から月花迅雷で近寄らせないべきだったのか……?と悩むが、そんなおれを見て彼は肩を竦めた

 

 「忌み子よ。貴方は忌み子だが、決して我等の相棒を殺そうとはしなかった」

 まあ、割と酷い怪我は負わせたというか尻尾を掴んで振り回したりとやりすぎた相手も居るが……逃げ出す時のあの竜の尾、関節思い切り外れてぷらぷらしてたしな

 

 「しかし、教王は違う。我等は救世主に伴われた貴方が何を言おうが聞かなかったことにする」

 その言葉に安堵し……

 「ん、救世主?」

 聞きなれない言葉に首をかしげた

 

 「あ、すみませんサルースさん」

 「良いよ。より良い結末がそれで訪れるのならば、暫く大人しく聞いておくよ。此方の話はその後でも問題ないさ」

 「すみません本当に。折角来てくれたのに待たせに待たせて

 で、救世主とは?」

 「御存知、無いのですか?」

 驚愕したように目を見開く竜騎士without騎竜に、思わずいや知らないがと半眼になるおれ

 

 「かの救世主エッケハルト様に付き従って来たというのに」

 「ってあいつかよ!?」

 何なんだ救世主エッケハルトって。あいつそこまで言われるような事……

 

 枢機卿の娘と仲が良くて、国境の領土を任されてる辺境伯の嫡男で、七天御物の所有者。うん、おれより余程救世主と呼ばれる素質があるな!

 

 「救世主を襲えなどと、教王はやはり彼を恐れている……」

 うん、恐れてないと思う。寧ろそれがあいつのアホさを裏付けるというか、まともにエッケハルトが動いてくれたらアイムール絡みで一撃叩き込めそうな隙になるが、あいつ動いてくれるか?

 

 そのうち会いにいかなければならないだろう。が、まあ、竜騎士達が敵という訳ではないのは確認できた。これで十分か

 

 「……お久し振りです、サルースさん」

 だからおれは、エルフの青年に向き直って開き直りながらそう告げたのだった

 「うん、久し振りだね。より良い結末の為に、ノアに請われて助けに来たよ」


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