蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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エルフ、或いは救世主

目の前でニコニコする浅黒い肌の青年エルフ。どちらかといえば、その纏う空気はノア姫よりもウィズに近い。まあ、パッと見では凛として冷たいってのがノア姫だし、それより人当たりが良いのは悪いことではない

 

 ちゃんと知れば、ノア姫ってかなり親身になってくれるというか義理堅くて優しいってなるんだが、まあそれはそれか

 

 「はい、来てくださり有り難う御座います、サルースさん。助かります」

 実はあんまり助からないというか、来て欲しくないまであったがそれはそれとしておれは深々と頭を下げる

 ノア姫なら出来ることは良く知っている。魅了魔法も転移の魔法もあり、色々と知識も深い彼女ならば深入りしすぎることも暴走することも無く、危機だって思えば即座に逃げ帰ることくらいはまず可能だと思える

 流石にアガートラームの本気で来られたら厳しいだろうが、ユーゴはハーレム野郎だ。魅了してくるようなエルフの美少女を跡形もなく消し飛ばす判断は即座には取れず、結果的に逃げおおせるというのは想像に難くない。アステールにも執着していたし、リリーナ嬢も積極的に狙おうとはしなかったしな

 

 が、サルースってそんな安心感も無いし、何なら……だしな。居ない方が本当に助かる

 とはいえ、来てくれてしまった以上文句は言えない。存分におれ達の味方として活躍してもらうしかない

 

 「うん。ノアが来れたら良かったかもしれないけれどもね。久し振りの帰郷だ、あまりね、即座に発つのは良くはないと僕は思うんだ」

 「だから、ノア姫の代わりに……すみません、本来はおれ達だけで片を着けなければと思うのに」

 「良いよ良いよ。僕だって、一応君の父とは昔仲良くしていたからね」

 ……その言い回しにちくりと胸が痛む。まるで今は……

 

 「はい、そうですね。その縁での協力、感謝します」

 「いやいや、ノアの事もあるしね。本当にそれだけじゃないさ」

 「でも、どうして来てくれたんですか?」

 本音は出さず、おれは穏和になるように微笑みながらそう問いかけた

 

 「うん。さっきも言ったかな。僕はより良い結末を求めている。だからね、昔……かのATLUSが襲来した時に僕はほとんど何も出来なかった、その事をずっと悔いていたんだ

 もっと何かすべきだったんじゃないかって」

 その言葉におれは同調すべきなのか否か刹那の間悩み、大丈夫かと思って首を横に振る

 

 「いえ、貴方がノア姫を……星壊紋に倒れた彼女を追い出さずにあの場に匿っていたから、出来たことがあります

 貴方が居なかったらおれ達はきっと、誰も救えなかった」

 だから、とおれは青年姿で、ノア姫の年齢からして恐らく200歳は越えてるだろうエルフへと包帯の巻かれた右手を差し出した

 

 「だから、そう思い悩まなくても良かったのに

 でも、その想いはノア姫も恐らく同じこと。共に誰かが泣かない明日を切り開く。その想いに感謝します、サルースさん」

 「誰かが泣かない、か。ノアが聞いたら怒るだろうね

 敵すら泣かないなら困るわ、と」

 言うだろうか?いや多分言うなノア姫

 

 ……ただ、冗談めかして「心配であの子が泣くわよ。それともワタシにも泣いて欲しいの?」とかそんな方向で、だが

 「サルースさん、変わりました?ノア姫は敵より友の名前を出すと思いますが」

 「おや、僕が引きこもるしか無かった間に変わったんだね。あまり話せていないのが残念でならないよ」

 至極残念そうに微笑む兄エルフに、そういう考えかとおれは頷いた

 

 「だから、今のノア姫なら解決してからまた戻ってくれば良いのではないかしら?と言いそうではありますが……

 流石に遠いかなぁ……」

 西方とを隔てる天空山に程近いエルフの森と、寧ろ北東方面の聖教国。寧ろサルースが速すぎるレベルだ。駆け付けてくるにしても、もっと時間が掛かる気がする

 

 「いや、遠すぎませんか?」

 「ああ、それね。ノアも転移が出来るだろう?この地は指定できないけれども、さ

 それと同じだよ。ノアとは違う形だけど転移が僕にも出来る」

 「それこそ重力球に呑み込まれて?」

 「ははっ。それはATLUS達のやり方じゃないのかな?僕には無理だよ」

 「……申し訳ない、下らない冗談で」

 これでうっかり頷いた日には円卓側の真性異言(ゼノグラシア)だからな。流石にサルースに限ってそんな事はない

 

 「冗談はまあ、もうちょっと面白くなるように鍛練して貰うとして、ね

 どうするんだい、君は?」

 「サルースさん、貴方は今の状況をどう思いますか?」

 まずはおれはそれを確認する

 うーん、とソファーに腰かけたまま右手を顎に当てる姿が絵になるエルフを見ながら、暫く返事を待つ

 

 「随分凄い危険な状態だと思うよ。君はどうしたいんだい?」

 「知ってるでしょうサルースさん。このとんでもないアンバランスな現状を解決したい、それがおれの望みです。だから、貴方にもそれを手伝って欲しい」

 「うん、それは分かってるさ、ゼノ君」

 おれの言葉に、エルフは簡単に頷きを返す。それを受けて、おれは同じように頷きを返した

 

 「はい、分かってますサルースさん。お願いします」

 いや、本当にこの人を信じて良いのかとかいうのは今は無視。とりあえず彼からの信頼を得るべく友好的に語り掛ける

 

 「それで、僕なりに考えていることはあるけれど、君なりの解決法はあるのかな?」

 静かな声と共に鋭い視線がおれを射抜く。が、特に気にはならない。ノア姫だって良く同じ目をしているし、それなりに心配して勝算を聞いてくるのだ。妹みたいに駄目そうなら逃げなさいと言う気で、おれを試しているのだと信じよう

 

 「時間さえ掛ければ希望はある、程度です。それでも、おれとしては唯一の希望、とある女の子に背負わせてしまうのは心苦しいものでこそあれ、信じるしかない」

 シュリの名は出さない。一応敵対してるって事になってるからな

 

 「さて、それは本当に信じて良いものなのかな?」

 「裏切られたら勝ち目そのものが無い、おれ達だけじゃそう言うしかない

 だから信じるんだよ」

 だからシュリがこれを聞いていたら、まともに動いてくれると嬉しい

 

 「サルースさんなりに、何か手は?」

 だからおれは他人の意見を求めてそう告げる。目の前のエルフの人にそこまでの意見が出せるかは兎も角として……

 

 「僕がこの地に聞いて思ったのは一つだよ。本来それは時間が掛かるもので、かつ僕だけじゃどうしようもなかった話なんだけれども

 時があって、君たちが居ればきっとと思えるものがあるよ」

 「それは何ですか?」

 「君も聞かなかったかな、救世主を待望する人々の声を

 彼らは一様にこう言っていたよ、救世主エッケハルト様が来てくだされば、と」

 そして、青年はふわりとおれへと微笑み、手を差し伸べた

 

 「そして、ノアから聞いたよ。君達の中に……居るんだろう?救世主エッケハルトが

 彼等を味方に付ければ、相応に対処しようがあるとは思わないかな?」


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