蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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談義、或いは救世主

「我等が救世主エッケハルト様を」 

 とか竜騎士が呟いているのを聞いておれは思わず噴き出した

 

 いや、似合わないにも程があるというか……

 「救世主かぁ……」

 「うん、救世主。何でもこの地の偉い子がずっと言っていた、らしいよ。お陰で、皆彼を信じていたんだって」

 「それなら、おれについても相応に信じておいて欲しかったりしますが、ね」

 なんて愚痴りながら、おれは右手を軽く握った

 

 が、分かっていた。分かっていたから彼を巻き込んだ。否応なしに事態を動かす鍵としてエッケハルトは必要だった

 その最中で制御の効かないジェネシックを使えるようにして欲しいとか欲はあったが……っていうか、あいつがユートピアから託されたあの力があれば割と楽になるというか、あれって夜行曰く後期AGXと同じエンジン積んでるらしいしまともに立ち向かえる最良の術だ。流石にティプラーなんちゃらのタイムマシンは積んでないらしいが、心臓(レヴ)の名を冠するシステムはある

 

 いや、それを考えると本当にあいつ救世主足り得るな?

 が、それを考えたおれはうーん、とあえて渋る。サルースの考えを聞いておきたいからだ

 

 「おや、どうしたんだい?救世主エッケハルトは不満かな?」

 「いや彼が持ち上げられてるのは別に。存分にやってくれって話ではありますが……」

 と、おれは左腕をとんとんと二本指で叩いた

 「問題はユーゴの側。おれ達が多少見逃されているのは一重に焦って殺しにいくだけの価値を見出だしていない……つまり、まともに脅威だと思われていないから」

 あいつ何度も戦ってきてそれとかアホも良いところか?と思ったりもするが、結局のところアガートラームと正面から戦ったことは一度もない。切り札を切れば精霊障壁は突破できるようになってきた、元から斥力フィールドだののバリアは力技で貫ける、だが……それあくまでも此方が一方的に攻撃できたら、の話なんだよな

 まともに起動して動いてくるAGX相手には当てるのも至難の技。それを分かってるから基礎スペックの差と、何より今はそもそもおれが切れる切り札を封じたという偽りの安心から彼はまたまたおれを舐めきっている。何してこようが勝てねぇのに御苦労様って余裕ぶっている

 何なら、月花迅雷だの桜理の時計だのを貢いでくれたとかまで思ってるかもな?

 

 まあ、それが滅茶苦茶に助かってはいるんで文句を言う気はないが……

 「つまり、君はあの救世主を巻き込むべきではない、という意見なんだね?」

 「いやそれは無い。正直あいつ無しで勝てる気がしない」

 肩を竦め、拳を握り力説する。これは嘘ではない。正直な話散々あの銀腕のカミに対してダメージ通す手段については語ってきたがその逆……一撃耐える手段とか無いからな!

 アイリスと目覚めた防御特化派生形態、アルコバレーノアルビオンでも真っ向から耐えきれる筈がない。なので、それこそ精霊障壁には同じ障壁複数ぶつけんだよ!くらいのノリがなきゃ必殺の一撃を撃つまでもなく仏に……いやおれはそんな上等な死に方出来ないか

 「じゃあ」

 「逆ですよサルースさん。確かにエッケハルトは救世主足り得ます。寧ろ皆から信用されているエッケハルトやアナの手助けが無ければ、ユーゴの部下達を抑えてくれる人達を確保しなければ本気で勝負の土俵にも立てないし、彼個人の戦闘力も当てにしなければおれ達全員死ぬしかない」

 「それは困る」

 「そう、それはユーゴだって承知の上の筈です。だからこそ、下手に彼に接触するのは、根回しを終えずに早期に彼を引き込むのはユーゴの本気を招く。その先にあるのは壊滅だけです

 切り札だからこそ、最後に切る。その判断を、おれはしたい」

 静かに青年の瞳を見る

 

 「間違ってると思いますか?」

 「いや、僕は君達の友情とかその辺りには本当に疎いからね。判断を委ねるよ」

 「助かります、サルースさん」

 そんなおれの言葉に、優しげに目を細めて青年は軽く頷いた

 

 「さて、救世主にはあまり干渉しない、それは良いけれど……」

 「いや話くらいは通しますよ?」

 と、ぼやくおれ。というか、何も言わないとそれはそれでキレるからなあいつ。思いきり色々任せようとするとそれはそれで「お前ら狂人と違って普通の人間なの!」と激怒するが、何も知らされないのも嫌という点で面倒だ

 

 まあ、それでも貴重な得難い味方なのは間違いないんで良いが

 「おや、そうなのかい?」

 少しだけ意外そうにエルフは耳角をピン、と上げた

 

 「まあ、何一つ知らせずに動くわけにもいきませんし、何より彼はこの地において……教王と並ぶとはいかずともかなりの信頼を元から持ってますからね。変に意図を隠して疑われるのも困ります」

 「じゃあどうするんだい?」

 と、おれは横の騎士達を見る。おれに見られて元から背筋をピン!と立っていた騎士が怪訝そうに此方を見詰めた

 

 「竜騎士殿。おれ自身が行くのは難易度が高い。だが、相応に教王でもその動向を抑えきれない地位の者は居る」

 言いつつ、おれは遠くを見る

 

 「例えば、枢機卿猊下。教皇猊下。それに、腕輪の聖女様。保護の名目で軟禁していても、全てを抑えられるものではない筈だ」

 「つまり」

 「ああ、エッケハルト側もアナを拒むなんて無理も良いところ。聖女様から色々と伝えてもらうように、会えるようセッティングをお願いしたい」

 「いや、それは……」

 「頼む!」

 顔をさらけ出しておれは頭を下げる。基本的にあまりへりくだると怒られるが、今は良い。プライドも権威も知ったことか、下げなきゃいけない頭は下げろ

 

 「……分かった」

 「恩に着ます」

 認めてくれた騎士に向けて、おれは今度は軽く頭を下げた


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