蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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聖都、或いは咎エルフの仕事

「で、どうするんだい?」

 おれを座ったまま穏和な表情で見つめるエルフに対して、おれは手を差し出した

 

 「おや?」

 「まあ、救世主についてはああ言いましたけど、結局のところ……警戒されるのはサルースさんも同じです。流石にノア姫ほどは」

 と、いや円卓って女の子には大概甘いところがあるしどうなんだろうなとちょっと言い澱む

 「……ってそれは微妙か。ただ少なくとも、エルフという幻獣が来ていることは一つ警戒対象な事は間違いないです」

 「……成程、確かにそうだね。僕は咎だから影響は少ないとはいえ、無視できない訳だ」

 くすり、という微笑みに頷く

 

 「まあ、アナもそれは同じですが、彼女には簡単には手出しできない」

 「ん、守る人が居るのかい?」

 「エッケハルトを恐らくヴィルジニーが居ることで守られてるように、下手に殺したくない相手っていうのはそれだけで守りですよ

 でも、おれやサルースさんはそうじゃない」

 あまり言いたくないと頬を掻いて言葉を続ける

 

 「咎、ですからね。やろうと思えば難癖を付けられる」

 その点ノア姫とかは難癖付けにくいんだが、一長一短でもあるだろう。サルースだからこそって点もあるはずだ……うん、厄介な点以外にも、あって欲しい

 「うん、そうだね。だから僕は人と、皆と距離を置くしかなかった。全く、恐ろしいものだよ咎の呪いは

 より良い結末を探すのも一苦労だよ」

 そう苦笑しながら、おれの手を取るサルース。すらりとしたノア姫にも似た細身の指がアザと豆と傷で彩られたおれの掌に被さった

 

 「はい、より良い未来(あした)のために」

 「エンドレスより、ハッピーエンドが個人的には望ましいけれどもね」

 「物語は終わっても、人生は続きます」

 そう言葉を交わしながら、ふと幼馴染が何も言わないことに寂しさを覚える

 気にしないでいたが……案外おれも寂しいのか?獅童三千矢としての自分を完全に思い出して、その全てを、万四路達からとっくに託されてた想いを背負って。終わった筈の物語を紡ぎ直す中で……あのおれを知るのは桜理と始水だけだ。それに桜理との縁はあるようで繋げてなかったしな

 

 ……うん、返事がない。そろそろまた語りかける力が戻ってきてくれると嬉しいが、まあ無い物ねだりも良くないな

 

 「そうだと、良いけれどもね」

 「ええ、終わらせない。おれが、おれ達が、絶対に」

 此処にアナが居たら確実におれの言葉に強く頷くだろう、あの子はそういう子だ。だからこそ、乙女ゲーの主人公(ヒロイン)足り得る。その想いを受けてわざと複数系にしておれは語る

 

 そうして……

 「アルデ、これは本当に僕たちがやるべき事なのかな?」

 なんて言われながら、おれはサルースと騎士二人と共に聖都の外周部へと足を運んでいた

 

 ちなみにだが、騎士二人というが流石に片方は(せい)……ディオなんだが、もう片方はサルースを護衛していた竜騎士ではない

 

 「何故私がこんなことを……ユーゴ様……面倒ごとなど貴方の女にさせずとも……」

 そう、このぼやきからも分かる通り完全なユーゴ側の存在。その名もクリス・オードラン元男爵である。うん、かつてヴィルジニー絡みの婚約騒動で彼に荷担した二人の女性のうち騎士の方だな

 あの当時でも20代、今は三十路に差し掛かっているだろうが、成熟した女性の体にあまりとやかく言うつもりもないので無視。敢えて言えば、身長はアナより大分高いのに胸はあんまり無い。うん、どうでも良いな

 

 で、だ。おれ達がこんな女性とわざわざ行動を共にしているのには当然ながら理由がある

 「分かっているなエルフ。ユーゴ様は神そのものだ。七大天の上に立つ真の神」

 なんて、女性は後ろ楯をかさにイキってくる。おれはさらっと流すように頷きだけ返しておいた

 

 うん、ユーゴより始水の方が良いぞおれ。いや知り合いでなくてもユーゴが神とか御免被る、始水ならまあ良いが

 他人への優しさに差がありすぎだろあの二人、ユーゴが神とか滅ぶわ世界

 

 「も、申し訳ありません」

 「まあ良いがちゃんと名前まで呼ぶべきだろう、騎士として習わなかったか?」

 騎士クリスに言われて、おれは必要だろうと頭を下げる。本来あまり誉められないが、今は別だ

 

 「も、申し訳ありません!ディオ団長からは新米はあまり他の騎士とは関わらないからと名前を教えてもらってはいないのです

 何分新米なもので……」

 ペコペコと頭を下げるおれ。まあ、本名なら知ってるし経歴も分かるが、それをうっかり答えたらアウトだ。おれの身代わりになった彼が昔の騎士クリスを知ってる筈がない。だからわざと知らないフリで頭を下げる

 

 屈辱……はあまり感じなかった。いや頭下げ慣れすぎだろおれ

 なんて苦笑しながら、着いてきた……いや同行させたユーゴ側の存在を見る

 

 「騎士アルデ」

 「ですが教王騎士様、折角咎でもエルフが来てくださったのです。それもまた、教王様の威光の結晶ではありませんか?ですので、皆にそれを知らしめるのは、この地に相応の想いがあるであろう腕輪の聖女様についてより、余程人々に安心と教王様への信頼を与えるものかと」

 いけしゃあしゃあと告げるおれ

 

 いや、サルースを連れて人々にエルフがどうこう言ってもほぼ意味ないだろうけどな?何で騙されるのか良く分からない

 ユーゴが呼んだと信じるものもないしな……特に本当に伝承の魔神復活を信じてるのかってくらいに今の聖教国って謎の沈黙を貫いている

 

 まあ、ユーゴ的にはアガートラームがあって負けるわけ無いってタカを括ってるんだろうが、一般人にはそんなの分からないからな。そんな不安の中だからこそ、救世主エッケハルトとか期待されてるんだろう

 「ま、まあ教王様だからな」

 あ、釣れた。チョロいなこの女騎士……とおれはうんうんご機嫌に頷く騎士を見て思った

 

 いやチョロくなければユーゴに惚れ込まないか

 閑話休題、そんなことを思いつつ、サルースを前に進めば……

 

 『ルゥ!』

 という遠吠えが聞こえた。あ、忘れてたアウィルが外に居るんだっけか

 サルース絡みであまり派手に動かずユーゴを油断させつつ人々の中に希望をと思って行動していたが……アウィル何も知らないじゃないかこれ

 

 そう思って背筋が凍るが、興味深げに此方を見た白狼は暫くおれをじっと見つめ……そしてそのまま顔を逸らすと人々の輪をその脚力で飛び越えてしなやかで強靭な尻尾を軽くおれへ向けて振ると走り去っていった

 

 分かってくれたか、アウィル……とほっこりしたところで、皆が此方を見ていることに気が付き、おれは横の褐色エルフの肩をとんと叩いた

 

 「とりあえず、貴方が此処に来た意味を果たすようお願いします、サルース・ミュルクヴィズ」

 「良いよ、分かった。僕としても、引きこもっていては悪い結末に行ってしまいそうで不安だったからね」


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