蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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クリスマス外伝です。本編の時間軸より少し遡りますがご容赦ください


外伝 第七皇子と聖夜の鈴(Ⅰ)

虹の月、6の週、火の日

 その日の始まりのその時に、おれはゆっくりと吊るしたハンモックに横たえた身を起こす

 ここは初等部の塔の上、所謂寮の一室……の前の空間

 さすがに女の子と同じ部屋は不味いだろうと、結局おれは此処にハンモックを吊って寝ることにしたのだ。アナには皇子さまに悪いです!と言われたが、身分だなんだ以前に、あの部屋には大きなベッドが一つしかない。女の子同士ならまだしも、おれが寝るわけにもいかないだろう。自分の方が身分が上だからと女の子をソファーだの床だので寝させる皇子とか笑えない冗談だ

 そしてだ。ソファーで寝るのも結局異性が居るということには変わりがないから気になるだろうし、いっそ寝床は部屋の外にした訳だ

 まあ、その関係でおれは野宿皇子のあだ名を得たが、そこは良い。野宿で何が悪い、師匠にサバイバルしろと放り込まれた時は何時も野宿だぞおれ

 

 「……よっ、と」

 そうして、良いだろ、大きな枕だと言っておいた枕に仕込んだもの……大きなプレゼントを取り出す

 そう。日本ではないが、この世界にも新年の一週間前には聖夜というものはある。それが、今から始まる今日この日という訳だ

 パーティ?そんなものは無い。この世界の聖なる夜とはクリスマスという名前ではないし、サンタクロースの逸話とかも特に無いのだ

 

 では、何故今日が降臨節、聖夜と呼ばれているかというと……。これはゲーム設定にも関わってくる話なのだが、この世界には聖女の伝説がある

 そう、恐らくはピンク髪のリリーナが何れそう呼ばれる事になるアレだ。七大天に選ばれた奇跡の少女、それが聖女であり……神話の時代に聖女が降臨したとされるのが降臨節

 では、サンタクロースみたいに枕元にプレゼントを置く習慣などないだろって?初代ゲームタイトルにもある封光の杖を枕元に置く事で神々が聖女を選んだとされ、ついでに神話の時代から伝わる古い神器と呼ばれるぶっ壊れ武器にはその日七大天から聖女を護れと枕元に置かれたとされる武器も何本かある

 つまり、神が選ばれし者の枕元にその証を置くって伝説が広く信じられている訳だ

 それが子供にプレゼントを置く話になるのかと言われると……そもそも、サンタクロース……聖ニコラウスだって元々は子供にプレゼント贈る逸話なんて無かったらしい。大人びたクラスメイトが自慢げにまだサンタ信じてるのかよ、そんな話無いんだぜと大人しい子に絡むのを見たような曖昧な記憶がある

 信じるのは勝手だろと間に入ったら、以降おれに絡んできた事は微妙に覚えている

 

 因にだが、余談にはなるが、神器は3種類に大別される

 1つは、第一世代(オリジナル)神時代(しんじだい)の神器とされるもの。枕元に置かれてたというアレだ。これは、選ばれし者でなければ使えないどころか、ただ一人の選ばれし者以外触れることすら出来ない、文字通り神々の武器だ。素材すら良く分からない

 父が持つ大剣や、リリーナが選ばれることになる封光の杖等がこれに当たるな。ゲーム的に言えば、常に特定キャラの持ち物に勝手に入っている誰にも渡せないぶっ壊れだ

 1つは、第二世代(ネオ)新時代(しんじだい)の神器とされるもの。オリジナルとされる第一世代は神が造りたもうたとされるが、第二世代は違う。誰かの為に、神から与えられたとされる素材を用いて神話の時代の人が作った神器だ。一応素材は分かっている。といっても、特定の英雄のために造られただけあってやはり使い手を選ぶ魔法武器なことには変わりがない。資格無き者には所持すら許されないのが神時代とすれば、所持は出来るし資質を持つものは複数いる事もあるが選ばれなければ真の力が発揮できないのが新時代だ

 シルヴェール兄さんが持ってる弓の神器なんかがこの世代。ゲーム的に言えば、一応誰でも持てるが、資質がある者以外だと安物の武器にすら負けるステータスになる使えればぶっ壊れだ

 そして最後に、第三世代(ゼノ)。おれの名前と同じ未知のという意味を持つ……というか、世代名がおれから取られる最も新しき神器。現代(ゲーム内情報では今から約2年後)に造られる神器、月花迅雷のみが此処に属する。外伝作品には別の第三世代も出てくるらしいんだが、その作品は知らないので何とも言えない

 その特徴は何といっても、前二つの神器にあった所有者を選ぶ要素が無い事。おれの神器だが、別におれ専用武器ではなくある程度刀が扱えれば誰でも使える。だからその分弱いとまではいかないくらいの性能をしており、現代で造れるならこれを量産しろよと言いたくもなるが……。残念ながら、素材の観点から言って量産不可

 ゲーム的に言えば、刀レベル:C(要はそれなりに刀の扱いに習熟している扱い)さえあれば誰でも100%の力が出せるぶっ壊れ。刀自体が不遇武器の中で、これだけで刀使う価値があるとされるバケモノだ

 いや、封光の杖(能力解放)やら轟火の剣デュランダルやらと比べればちょっと弱いが……。月花迅雷はぶっ壊れ専用神器が無いキャラに、ほぼ同等の武器を『キャラ制限無し』に、『ゼノ(おれ)の初期武器故に序盤、それこそ通常聖女編でなければチュートリアルマップから』持たせられるというのだ。その強さはもう語るまでもないだろう

 というか、今さらながら思うのだが、おれが生き残る事だけを考えるならば月花迅雷は必須事項だが、本来あの神器が刀である必然性って無いのではなかろうか

 材料は刀身がドラゴニッククォーツ、芯にヒヒイロカネ、コアに天狼の雲角。コアの雲角が無限に雷を蓄え、その魔力を纏うことで普段は暗い色をしたヒヒイロカネが明るく輝く。結果、薄く走る雷鳴によって幾つか遮られたヒヒイロカネの輝きが、青く透き通った三日月の刀身に花吹雪のような紋様の桜光を散らす。その姿をもって、芸術とも呼ばれる神器の名を"月花迅雷"

 だが、だ。そもそも、こんな希少な材質を使っておいて、出来上がりが刀という西方の一部人間とおれとしかまともな使い手が居ない武器というオチがまず可笑しい。ドラゴニッククォーツの量や、そもそも手が触れる辺りに雲角を埋め込む必要があることから長物である槍……は難しいだろうが、素直に剣ではいけなかったのだろうか。というか、剣の方がより誰でも使えて便利だろう。さっきのゲームの話だが、月花迅雷はあれでもそもそも刀が使えないといけないから職業が刀を持てるものに限定されるってのがバランス調整と言われてたしな……現実な今、ゲーム的なバランスなんて捨てて刀より剣の方が良いだろう

 ……まあ、剣だと、おれがあの神器を持っている意味が本当になくなってしまうが。そこが悩みどころだな……。折角使用者を選ばない神器をなんで忌み子が持ってるんだよって話を、いや刀使えるのおれくらいだろと返せなくなる

 誰か月花迅雷を使えるキャラが他に居る等の条件を満たすととおれが持ってる必然性はないと皇族追放の際に正式に返還するしなゲーム内でも

 いや寧ろ、本当に何故王位(おおい)なる天狼から世界を覆う混沌を払う手助けとして雲角を渡されたのがたまたま近くにいた皇族であるおれだったからって、国宝であるドラゴニッククォーツ等を使って造られたのが刀だったんだ……。誰か流石に汎用性が無さすぎて可笑しいと反対しなかったのか……

 いや、ゲーム内CGでも花吹雪のように桜光を散らす空色の刀って格好よかったけどさぁ!?最初の方で表示される剣撃絵とか子供心にかっけぇ……した覚えがあるけどさぁ!?刀ってのもカッコよかったけどさぁ!?

 ゼノのフィギュアとかあったらしいんだけど、月花迅雷を抜き身で持ってないと落胆されるレベルで象徴的なものだったとか

 あとは、子供向けだと半透明なドラゴニッククォーツの再現の予算とか足りなくてクリアパーツがちゃっちいし短くなるからと、DXではなく大人のお姉さん(と一部男の人)向けに2万5千円くらいのBSMって色んな作品の有名な剣を出すシリーズで月花迅雷(刃渡り77.7cmの劇中と同じ長さ。スマートさを維持するためにボイス再生機能などは鞘に搭載し、刀身は発光とモーションセンサーによる剣撃音のみ。必殺技が抜刀技故に鞘にボイス機能があっても引き抜くことで鞘のスイッチが押されズレなく再現できるからこそ成り立った形式だと、優しいお姉さんが興奮気味に語っていた)も発売されてたらしい。いや、子供に人気とかじゃなかったんでDX出る訳がないというのは置いておいてだ。まあ、当時のおれに万とか出せないんで縁はなかったけどさ

 光る!鳴る!喋る!BS(ブレイブソード)M(モディフィケーション)月花迅雷!

 うん、欲しい。でもだからって刀作ることはないだろう!?ほぼ同性能なら剣の方が何倍も皆が助かるはずだ

 

 閑話休題

 結果、プレゼントを枕元に置く文化がそこそこには浸透しているんだ。神々が聖女やその周囲の者達を特別な存在として選んだ事になぞらえて、七大天様ならぬ両親様が子供に贈り物をする。我が子が特別であるようにという願いを込めて

 が……子供が望むものというよりは、もうちょっとお堅くなりがちなのが差だろうか

 たとえば、おれが今回用意したプレゼントのように、教育的なものが割と定番だったりする

 

 といっても日本人だったおれの記憶を漁ってもクリスマスを楽しんだのなんて両親が生きていた……7歳くらい?が最後で、良く覚えてないんだが

 それでも、今回おれの用意したものよりは玩具とかそういったものが主流……だったんじゃないか?おれもBSM月花迅雷とか貰えるなら欲しかった

 

 「……さて」

 一息つき、おれの部屋……正確には、半分はアルヴィナが借りている寮で、もう半分は妹のアイリスの使用人(おれとアナのことを指す)の為の使用人部屋への扉を開く。そもそも塔の入口からしてしっかりとしたセキュリティであるが故に逆に単なる鍵式の扉は、ゆっくりと開き……

 じっと、暗闇の中で満月のような金の瞳が此方を見ていた

 

 「……アルヴィナ」

 「待ってた」

 「待ってないでくれ」

 思わず脱力する

 基本的に、聖なる夜に子供は早く寝るものだ。だって聖なる夜なのだから

 七大天は眠るものに祝福を為す。だから皆早く寝ようなというのが(枕元にプレゼントを置く側に立った親達が子供に広めた)通例である

 

 「……大丈夫」

 「……アルヴィナの横にも、こっそり置こうと思ったんだけどな」

 苦笑しながら、大きな枕と偽っておいた中に詰め込んでいたソレを広げて黒髪の少女に近付き、ゆっくりと巻き付ける

 

 「……これ、は?」

 「マフラーって言うんだ。あと、これ」

 ひょいっとこんな夜中だというのに頭に被った帽子を取り上げ、同じデザインの帽子を被せる

 「もっと似合う帽子あるとは思うけど、気に入っているみたいだから

 予備とか欲しいんじゃないかって」

 「……マフラーって、なに?」

 首をかしげるアルヴィナ

 その前髪が揺れ、隠れた片目がちらりと覗く

 

 「マフラーっていうのは、寒い地方で良く使われるもので、首に巻くと暖かいんだ

 まあ、皇都では基本的にはあまり使わないかもしれないけど、だからこそ珍しくて良いかなと」

 こくり、と少女は頷いた

 

 これで良いのだろうか

 いや、良いのだろうきっと

 満足げにマフラーの端を指にくるくると巻き付ける姿を見ておれは一つ頷き、そのままじっと見てくる月のような目の少女は一旦無視

 そのまま、音をたてずに……ってしても正直無駄だが、音は立てずにベッドへと向かった

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