蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「ほ、本当に良いんですの!?」
なんて、何処か能天気なようでいて、警戒は流石に怠っていないエッケハルトに食って掛かるのは毛先に書けて銀になっていく特徴的な髪色の少女ヴィルジニー・アングリクス
そんな少女にどうどう、しながら、炎髪の青年はあっけらかんと頷いた
「そもそも、ゼノのアホ頭可笑しいんだよ、考え無しでさ
良い薬だ」
と、その言葉に何となく理解する。ああこれ、処刑されて死ぬと思ってないな?と
最低限身を護るためにアイムールを顕示して、後はおれが死なないと思って任せてる感じだ
が、まあ信頼感を出していたら怪しまれるから突き放してる……と。いやそうだよな?諦めてないよなおまえ?
と、ちらりと人々の視線に合わせておれも彼等を見るが、何とも表情は読みにくい
諦めてそうにも、そうでないようにも……少なくともアナをチラチラ見てるのは分かるが、それはそれだ。いつもの事
「ふん、そうだな、良い薬だ」
「エッケハルトさん……」
「アナちゃん、何も考えず勝手にこの国に楯突いた奴なんて、処刑されて当然だろ」
「でも!」
「俺達の敵は、明日のために戦わなきゃって相手は!魔神族だろ!」
うん、正論だと静かに頷く
まあ、ユーゴ相手に食って掛かって良いことはないからな、とおれも彼に同調するように頷いた
更に、周囲もその言葉にはっ!としたようにざわめきの波が引いていく
ただの一喝で、それっぽい言葉で、起きかけたユーゴへの反抗心を抑えて見せた。やはり彼……この地では何か救世主扱いされてるだけあるな
が、これは悪いことじゃない。この場では収まるが……そもそもユーゴは『魔神族相手にまともに戦う素振りを見せていない』のだから。この場でノリに任せて蜂起する気は無くなっても、不平の火は燻り続けるだろう
穏便に爆弾を作って、この場は終わり
それはおれにとって希望の灯火。全く、意図してか分からないが良い仕事だよエッケハルト!
処刑に立ち会わない気なのか姿を見せないアウィル、ディオ団長に見守られているサルース。それらも確認して、完全にざわめきが収まった時、にぃと嗤うユーゴの顔があった
「見棄てられたな、お前
ま、アイムール持ってる変なのも正直我等側じゃね?って思うし当然当然。我が世界に、忌み子だ攻略対象だ要らねぇんだよ」
ビット兵器が再度閃き、青年の胸元から血が
「何か言えよてめぇ」
「……此処からの勝ち方を探している
あの日のように」
おれがアステールにあげたコンタクトと同じような血色のカラコン。それを嵌めたアルデの右目が、じぃと空を見上げた
「はっ、奇跡は二度起きないから奇跡って言うんだぜ?」
と、金髪の青年は意地悪げに横の狐娘の肩を叩く
「まあ良いや、治してやれ」
っ!と奥歯を噛む
やられた。当然ながらおれは呪われているから治癒の魔法が効かない。だが忌み子ではないアルデには効く。その矛盾をどうすべきかは考えていなかった
いや、対策を思い付かなかった
どうする、君はどうしようと思っていた?
もう、やるしかないのか?と愛刀へと手を伸ばすか迷う
というかこのやり口、前に傷を治してみて最初から偽物とバレているのか?と思いながらユーゴを見上げれば……怪訝そうな顔をしていた
いや、違和感は感じているが偽物と確信は無いな、だから試しに来たって事か。本物なら処刑で良し、偽物ならおれを煽って炙り出せると
「ふっふふー残念だったねー忌み子さん?
勝ち目はないよー。ユーゴ様は生きてるかみさまだからねぇ……」
「七大天様も生きておられるかと」
思わず突っ込むおれ
いや、始水とかかなり親身になりすぎてるくらいだからな?干渉し過ぎると危険というか、今既に二柱ほど現れてるゼロオメガがもっと来ても可笑しくないから神が干渉しにくくしてるだけだからな?
それこそ、アガートラームが挑んだというゼロオメガってアージュでもアヴァロン・ユートピアでも無いだろうし……他にも居るとか頭痛くなるのも分かる
本来のアステールならそれを知らない筈もないので、思わず声が出た
「おー、そうだけど、ユーゴさまはここに居るからねぇ……」
「ステラ、ユガートだ」
「あー、そうだったごめんねー?」
何だろう、変に気が抜ける。が、アステールに対しては何も出来ず、ユーゴへは今挑んでも届かない
っていうか良く考えたら今のおれ、始水とのリンクが上手く繋がってないから星刃界放が出来ないじゃないか。そんな状態で勝ち目とか端から無い
少なくとも、スカーレットゼノン・アルビオンへの変身無しでは無理だ
本当に、時間稼ぎするしかなくて。それを命を捨ててかって出てくれていた青年に疑いが向けられていて。全てが台無しにされそうなのに何も出来ずに奥歯を噛んで拳を握ることしか、出来ることはない
そうして、魂だけのアステールの指先から放たれた炎が、青年の胸元を癒していく。炎に炙られ、じゅくじゅくとした傷口が盛り上がって塞がっていく
そして……唐突に途中で再生が止まったかと思うと、どばっと血が治りかけた傷痕から噴き出した。見れば、より大きな傷口が開いている
っ!そうか!と内心で理解する
良く良く横目で周囲を探れば、ディオ団長等がこっそりと魔法を唱えている。一つは恐らく治癒の阻害、そしてもう一個は傷を開かせる魔法だ。これで、治りかけたが呪いでやはり傷は悪化したという嘘を演じた
そうだな、おれ達だけでは無理でも、元々アルデはあの騎士団の一員。騎士団ぐるみで嘘を突き通す気があれば、誤魔化しは効く!
だがそれは、バレたその瞬間に全員ユーゴの敵になるということ
あまりにも思い切りが良すぎる
そんな風にほんの少し狼狽えるおれの態度を呪いに怯えたとでも思ったのだろうか。満足そうに頷いたユーゴはどっかりと膝を立てて鋼の巨神の掌の上に座る
「ま、呪われてんな」
いや、おれの身の呪いって最初から治りかけないが……ユーゴがそれを見たことは無かったっけ?
だから、原作知識の回復魔法がダメージになるという点だけで、安易に納得してくれた、と
そう安堵したおれの前に、何かが降ってきた。それは……
「この、武器は?」
名前を知らないかのように惚けて首を傾げ、おれは見上げたユーゴへと尋ねた
が、本来は知らない筈はない。オリハルコンの鞘に納められた、一角を携えた天狼を模した蒼刃。銘を、湖・月花迅雷
相手を油断させるために回収させた愛刀が、鞘ごとおれの眼前に突き刺さっていた
可笑しい、おれは呼んでいない。だとすれば……今確保しているユーゴがおれに向けて投げたということ
「……自分の武器で死ねよ、忌み子皇子」
そういうことか、と投げ掛けられた言葉に理解する
つまりユーゴは、アルデをおれに殺させる際に愛刀で止めを刺させようというのだ
全く、悪趣味だと思いながら鞘ごと台に突き立った愛刀に手をかけて引き抜く
ぱしっと走る雷鳴と共に、見慣れた蒼き刃が白日の元に晒されるが……違和感がある
成程、本来はある程度暴走するように仕向けてあるようだ。それを月花迅雷の中に今も残る母天狼の意志が止めているから変なバチバチした空気を感じるのだろう
だからおれは、良いよと角をユーゴから見えないように撫でる
暴走しろ、月花迅雷。傷付けて構わない。そうでない方が、ユーゴに教えてはならないことを教えてしまうから
そうして……鍔の角からスパークする桜色の雷がおれの手を軽く傷付けるなか
「殺れ」
おれは、青年の胸に、わざと持ち方を普通の直剣のように少し変えて握りこんだ愛刀の切っ先を突き立てた