蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「クッソ……」
もやもやする気持ちを抑え、金髪の青年……ユガート・ガラクシアース、いやユーゴ・シュヴァリエは豪奢な部屋で一人言葉を溢す
「おいユーリ!とっとと飯を持ってこい!」
なんて叫んでおけば、少しして公爵令息時代からずっと着いてきているメイドの少女がそそくさと焼き上げた高価な肉を持って現れた
公爵家で育ったとは思えぬ粗野な切り方、置かれたナイフが柔らかすぎて崩れるように切れる肉を通り越し、皿を引っ掻いて音を立てる。それを無視してユーゴは肉汁滴るミディアムレアに焼き上げられたそれにかぶり付き、勿体無いほどに豪快に呑み込んだ
「……ちっ、うっせぇよ」
「ユーゴ様。どうぞ」
そのまま同じく少女から差し出されるワインをグラスを引っ掴んで一気飲み。ガン!と白いレースが敷かれた机に空になったそれを叩きつけ、青年は頭をかきむしった
「ユーゴ様、何が」
「何でもねぇ、何でもねぇ筈なんだ。何一つ食らう筈がねぇ」
「ですが、お顔色が……」
「黙ってろユーリ!僕は無事なんだよ!
なのに、だのに!何だってんだ……」
乱暴に高級なものを食い荒らしても、喉につかえた何かは取れない。苦々しげにユーゴは吐き捨てる
「『本当にそうか?』だと?
相変わらず無駄にイライラさせるのが上手い奴だ」
「ですが、あの忌み子は死にました。ユーゴ様のアガートラームの一撃を耐えたあの日とは違って、死んでくれましたよ?」
「あぁ!?
死んでねぇよあいつ!」
「ふぇっ!ふぇぇぇぇっ!?」
青年の当たり前だろとでも言いたげな言葉に目を見開くメイドの少女
それを見て何とか冷静さを取り戻したように、金髪の教王は小さく頭を振った
「おー、そうなのかな、ユーゴさま?
ステラ、ちゃーんと死んだの確認したよー?」
「いや死んだぞステラ
でも……我が気が付かないとでも思ってたのかよ、アホが。てめぇは獅童だ、我と同じく
一回殺して死ねば世話はねぇっての。どうせ、わざと殺されてよ、もう死んだからって警戒を解かせた後で一回復活できる共通のチートで寝首でも掻こうって魂胆だろ?」
けらけらと笑い、青年はワインを今度はメイドに卓上に置かせた瓶からラッパ飲みしながら調子を取り戻したように言葉を続けた
「見え見えだっての。全く、これだから獅童は」
そんな言葉を聴きながら、狐耳を揺らす魂だけ少女は、ふとした言葉を溢す
「おー、ユーゴさま、そのしどー?って好きなんだねー」
「は?あぁ!?ステラてめぇ今何つった」
途端、くわっ!と目を剥くユーゴ。その頬は酒のせいか何か、少し紅潮している
「誰がだよ。あんな偉そうに虐めだ何だ食って掛かってきて死にやがった奴なんぞ知るかよ!」
「あれー?そーなのかな?ユーゴさま、何だか嬉しそーっていうか、何時もと違うよ?」
「死んだ筈の奴がまーた立ちはだかってきてウゼェって思ってるだけだっての!」
ぶん!と腕を振った拍子に当たったグラスが倒れ、甲高い音と共に砕け散る
「でもユーゴ様、彼が……忌み子皇子が転生者であり、獅童三千矢だと解った時、嬉しそうに笑っていませんでしたか?」
「ユーリ、黙ってろ
何が嬉しいものかよ。あんだけ言っといて死にやがったし、結局金星の奴は僕に手出しすらしなかった。大事に思われてたなんてのは獅童のアホの勘違い、実際にはどーでも良い遊びだったんだろ」
けっ!と嘲るユーゴ
「だから、何が悪い。結局持ってる者は持たざるものを見下すもんだろ!」
青年は頭を抑え、呻く
「だから当然なんだ、何が言いてぇんだよ、獅童の野郎が……
『本当にそうか?』ってそうに決まってんだよ。イラついて、恨んでた力持つ者になった時、どうしてわざわざ立派になってやらなきゃなんねぇんだ!
他の奴等が好き勝手して富も何も独占してたから!不況で不当に解雇されて父さんは自殺なんてしたんだよ!そん時助けてくれねぇ程度には、あいつら薄情なんだよ
何でだ、何で分からねぇ……っ」
「ユーゴさま」
「何で立ちはだかる。ゼノまんまの台詞で、どうしてまた、それは違うと嘯く見捨てられたゴミがあいつら側として同じ状況を起こす!」
皿を退け、青年は交差した腕に顔を埋めた
「本当に、何なんだよてめぇは……うるせぇ……っ」
とんとんと叩かれる両肩。メイドの少女は優しく青年の背を
「ユーゴ様、難しく考えすぎです。あれが何度立ちはだかっても、ユーゴ様は負けません。ユーリは信じてます」
「ああ、分かってるユーリ。三度、てめぇは立ちはだかった、獅童。三度目の正直って言葉があるが、そこでてめぇは勝ちきらなかった。中学で、公爵家で、あの森で。四度目はねぇ」
「でもユーゴさま?一回死んで、もういやだーってこーふくとか、しそうじゃないかなー?」
「は?」
漸く落ち着いていたユーゴの瞳が裏返った
「てめぇ獅童の何を見てきた?」
「え?ステラ見てきてないよー?」
「ちっ、そうだったな。アホは死んでも治らねえ、一度死ねる保険を切ってきた程度で折れるかよ。絶対に向かってくる」
ぐっと拳を握り、左腕の黒鉄の時計を見下ろして、何処か寂しげに青年は続けた
「……金星が、そして七大天とやらがどれだけ助けてくれた?
てめぇは、此方に来た方がましだろうに」
「来て欲しいんだ、ユーゴさま」
「要らねぇよ。単に……あんだけ言ったなら見せてみろよって不可能な事をほざいてるアホを嘲ってるだけだ」