蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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竜胆、或いは反撃への火種

「な、成程……?」

 首をかしげるヴィルジニー、ニコニコと頷くアナ、憮然としたエッケハルト。三者三様の様子を見せるが……

 

 「いやだから何でお前が……もう良いか」

 「どうなっていますの?」

 「俺にも分かんねぇよゼノのアホの思考回路!」

 「……アナ、君はユーゴの言う恵まれた側になった存在だろう?」

 しょうがないと実例を出そうとおれは銀髪の聖女様に語りかける

 

 「あ、確かにそう……ですね。たしかにわたし、元は孤児ですけど皇子さまに助けてもらって、龍姫様の腕輪もあの時わたしが……って託されて。どんどんと恵まれていきました」

 あなたのお陰ですよ?と微笑まれて、そこに突っ込みは入れない

 「そう思うと、教王さんの言うあの人と同じような立場……なんでしょうか?」

 「アナちゃんはあんなクズじゃない!」

 「いきなり的外れ……でもないか、叫ぶなエッケハルト」

 「……漸く、納得出来ましたわ

 (わたくし)達が力を持つだけ持って偉ぶっているのだから自分も同じことをして暴虐の支配を行う、と。馬鹿にされたものですわね」

 優雅に紅茶を一口啜る少女に、おれは軽くうなずきを返した

 

 「そう。彼は、ユーゴはアナの事とか本来前世で良く知ってる筈なんだよ。何ならヴィルジニー様も

 その上であの言動、明らか変だろ?目の前に主張の反証が居るのを分かってて叫んでる。ならさ、本音と言うより……」

 何度か説明してるうちに、心の中では答えは出た

 

 始水、おれが……獅童三千矢が死んだあとさ

 『何ですか兄さん?』

 主犯格って三人居たと思うんだ。男二人と女一人のグループで、良くつるんで桜理を虐めたりしてた

 その彼等、どうなった?流石に見てるんだろ?

 

 他にも一応叔父も虐め側だがそれはもう転生してる事も正体も知ってるので無視しておれは神様へ問う

 何となく、答えの裏付けが取れる気がして

 

 『二人は私に怯え、一人は何となく……詰まらなさそうな表情をしていたので何もしませんでしたよ。怯えるという事はやらかした事を悪行と知っている証、最後の一人も何となく気力が消えていましたし

 私が潰したのは兄さんの叔父の逆ギレだけです』

 有り難う、始水

 

 答えを確認して、おれは言葉を続ける

 「きっとあいつ、止められないんだ」

 「止められない、ですか皇子さま?」

 「そう。多分だけどさ、本当はあいつ、正義の味方に憧れてるんじゃないかな?

 おれと本質は同じで、竪神に、皆にこうなりたいって理想を見てる」

 「いや可笑しいだろ、それとあの態度と何が関係するんだよ単なるクソ野郎になってアナちゃんやヴィルジニーちゃんを困らせて!」

 「……だから、だよ

 竪神に、アナに、謂わば乙女ゲーのメインキャラ達にお前は間違っているって否定されたがってる。止められたがってる

 自分の信じたものが間違ってなかったって事を、己が悪として振る舞い止められることで証明したい。きっとユーゴの奥底にあるのは、そんな思いなんだ」

 そう、それがおれの結論だった

 

 そう考えると今までも割と納得が行く気がする

 だってそうだろう。アガートラームは稼働できるんだ。本気で好き勝手したいだけなら、おれ達なんて開幕アキシオンノヴァでもブリューナクでも何でも放って跡形もなく消し飛ばせば良い。アナを殺したと怒るシャーフヴォルだってAGXの性能差は歴然だ、叩き潰して黙らせられる

 それをせず、寧ろおれが抗うのに付き合ってくれてるってレベルなんだ。処刑とかわざわざ大々的にやるし、ノリ良く悪辣な宣言までしてくれるし、最初はアガートラームから降りてきて大きな隙すら晒した

 アステールの記憶が消える前に、一瞬で片を付けようと思えば出来た筈なのに、この隙だらけっぷり。止めてみろよ、寧ろ止めてくれよと叫んでいる気がする

 

 「……相変わらず、意味不明ね」

 そのオリハルコン色に変わりゆく髪の少女に苦笑して、おれは続けた

 「……ま、だろうな」

 「俺達はお前の言うシドーなんちゃらを知らないんだし分かるわけねーだろ」 

 「え?皇子さまの事をしっかり想って考えれば結構理解できますよ?」

 ……うん、アナのことは無視。寧ろちょっと怖い

 

 「あ、アナちゃん!?」 

 「それはそれとしてだ。少なくとも、多少は戦える。あいつは本気でおれたちに対抗するというより、どうやって自分を止めるのか、それを見たがっているのだから」

 そう、そうなんだよな。少なくとも今回……いや実際は大概の状況で、ユーゴは本当の敵では無かった。止めようとすれば止められる、寧ろそれを願ってたような奴だった

 

 いやまあ、それなら寧ろ止める側に回れよお前!?と叫びたいが、少なくともあいつは頼勇やおれを信じていて、咎めれば聞くタイプだ。だからお前の想いは違う!と何時ものように叫んでやれば案外あっさりと引き下がってくれるし……何より、事前に潰しに来るつもりが欠片もない

 そう、ユーゴって良く良く考えると敵対してきたのはおれから宣戦布告してからなんだよな。しかも直接やりあおうとした後のみ戦いに来た。それ以前にヴィルジニーやアステール絡みで色々やってたが……ヤバさはそれこそルートヴィヒ以下。どれだけ強くとも強いだけだ

 

 「お前さ?ユーゴに同情してないか?」

 半眼で突っ込まれてどうだろう?と肩を竦めるおれ

 「いや、少しだけ思ってはいるんだ。もしもおれがちゃんとあいつを……竜胆侑胡を止めていたら。こうはならなかったんじゃないかって」

 『兄さん』

 突っかかってきた、虐めてきた。その時におれがしっかりとした対応をしていたら。ああも自分を悪として止められたがってるような事をしなかったんだろうか?しっかりと友として、共に戦えたのでは?

 そんな想いはある。だが……

 「皇子さま?貴方は頑張ってます。何よりわたしが、貴方に助けられた皆が、それを知ってます。あんまり思い詰めちゃダメですよ?」

 そう微笑む顔が、きゅっと握られた手が、少女の全てがおれを咎める。

 

 「分かってるよ、アナ。決して後悔してる訳じゃないんだ。ただ、別の可能性もあったのかも?って思いを馳せてるだけ」

 そうはならなかったし、そうはきっとなれなかったことも、分かっている

 

 「そうだよ、今だから、君達が居てくれたから手を伸ばせる。シュリと同じだ

 あの時こうだったらという想いじゃなく、おれはあいつを止めてやる。今度こそ、届くから」

 言いながら苦笑する。何人にこれ言ってるんだろうなおれは

 

 「はい、頑張りましょう皇子さま!」

 「ってかそれは良いとしてだゼノ!お前あいつに勝ち目とかあんの?」

 「おいおい、何を聞いてたんだよエッケハルト。ユーゴは寧ろ負けに来てるんだ。勝てなきゃ困るし、勝とうと下準備してる限り余程あいつを逆撫でしないと潰しに来ないさ

 だから勝つ。それだけだ」

 そう言いながら、おれを見返してくる海色の瞳に小さく首肯する

 

 「だからさ、やるぞ、アナ」

 「はい。何でも言ってくださいね?」

 「ちっ、アナちゃんの為だから手を貸してやるよ。でも危ないことはしねぇからな!分かってんだろうなゼノ!」

 「少なくとも、馬鹿にされてるのは分かるから、見返すだけならさせてもらうわ、良いかしら忌み子?」


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