蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
ゼノが立ち去って暫く。俺はヴィルジニーちゃん……もドレスを変えますわ、処刑に立ち合わされた服なんて燃やして浄化しなければと居なくなった部屋の中で、アナちゃんと二人のんびりした時間を過ごしていた
「やっぱりさ、一緒に居てくれるってことは愛想尽きた?」
「あ、違いますよ?皇子さまの事、オーウェン君のこと、色々と考えてたら時間経っちゃって……
あ、お茶ですねすぐに淹れますから待っててくださいね?無意識でやってたみたいですけど、やっぱりお時間とか雑になって香りが落ちちゃうのは嫌ですし……」
ぱたぱたと手を振り、何度か淹れてくれたお茶のお代わりを淹れ始める銀髪聖女。お湯を魔法でひょいと沸かしている姿はまるで剣と魔法の世界の新婚さんで、ここだけは現実を忘れてほっこりと……
「では、御相伴に預かりましょうか」
「っ!?だれだてめぇ!?」
突然の言葉と優雅に突き出される豪勢なカップに俺は思わず突っ込んだ
「えっと、貴方は?」
何処か怯えたように目を泳がせ、けれども毅然と、そして柔らかに少女が言葉を紡ぐ
それを受けて、黒い修道服の男は仮面をずらし、白く綺麗な肌と端正な唇をさらけ出して微笑みを浮かべた
「失礼、我が名はグリームニル。この地での」
「えっとですけど、七天教じゃありませんよね?
基本的に、万色の混沌様を加えて八大神とする派閥でも黒い色は使いませんし……」
「ええ、残念ながら。私の神は他におりまして。我が神に捧ぐ愛故に、漆黒を旨としております。真白きこの身を黒く染めれば、最早何にも染まりはしない
この身は貴女にしか染まらぬと、我が身の未来を定めているのですよ。ですので、ご了承の程を」
仰々しく頭を下げられて成程と頷きかける俺。っていや待て!?
「何の説明にもなってなくないか!?」
「はっ!説明なんて要るかよ、グリームニルっ!」
その瞬間、虚空から刃が……いや、刃の姿をしたビット兵器が現れて脳天を狙って空を走る!
「んなっ!?」
「おやおやご挨拶だ。君も私の存在を認めてくれなければ困るよ、ユーゴ」
「……はっ!偽名のてめぇがそれを言うかグリームニル!てめぇだけは絶対にこの我を!教王ユガート様と呼ばなきゃいけねぇだろこのエセ神父が!」
……つ、付いていけねぇ!?
が、とりあえず重力球からふんぞり返った椅子ごと降ってきたユーゴとは仲が悪いってことはわかった。そして……
降り注ぐ12機のビット兵器を止める重力波による壁と青き結晶壁。かの力を振るえるということは、彼は眼前の怪物と同レベルの化物だということも
いや、ユーゴが偉ぶってるしかくしか?俺等より上なだけで……って上な時点でそこの強弱意味ねえよ!?勝つ気の
「此処は逃げようアナちゃん!」
「おー、逃がさないねぇ……」
少女の手を引いて逃げようとしたが、おれの手は突然の突風に阻まれた
「ちっ、あの狐!」
「アステール様ですよ、エッケハルトさん」
「あ、ステラって奴な。とかそんな場合じゃないんだって!?」
前門のグリム、後門のユーゴ。双方ヤバいし、アナちゃんと逃げなきゃ命も当然のように危ない
が……
「ってか、何でそんな危険視されてんだよ?ステラ、分かるか?」
「えー?ステラ、ユーゴさまが嫌われる理由とか……あー!
……何だっけ?」
ぴこん!と耳と尻尾を立てた狐娘がすごすごと全部縮こまらせるその姿にずっこけかける
いや、ユーゴと俺……は兎も角アホはヴィルジニーちゃん絡みで殺しあってたしその時の因縁とか
その辺り忘れてるってあのアホ言ってたな。だからか、だからアナちゃんが悲痛そうな顔で手を握り締めてるのか
「お前らが化物みたいに強くて、敵だからだろ!」
だから思わず俺は叫んで
「おや、心外ですね」
「ったく、てめぇそんなんで敵対してたの?」
二人して黒鉄の時計を輝かせる男二人から言われて思わず肩の力を抜いた
「あ、え?」
「……ってか、敵じゃねぇっての。寧ろさ、お前も
「おやおや、可笑しいですねユーゴ殿。彼は我が女神等にこそ相応しい救世主、薄汚れたテーブルを囲む負け犬に首輪を付けられる謂れはないでしょう?」
いがみ合う二人の男。片割れは仮面故に下は分からないが、仲良さげには到底見えない
「……えっと、つまり?」
「ふっふふー、ステラが教えてあげるとー、あなたはユーゴさまの味方だよねー?」
「は?」
「特別な力を持つ転生しゃー、だよね?つまり、ユーゴさまはステラと一緒にあなたを味方に迎えに来たんだー」
「よー分からねぇけど、てめぇにもあるだろ、力」
言われて、おれは胸元を見下ろす。そこに勝手に入っているメダルを見詰める
「ジェネシック」
「ま、我にも分からんが、そーいう力があるならよ、円卓に来いよ、歓迎するぜ?」
「ってかこれ勝手に押し付けられただけで!」
「ええ、そうですよユーゴ。他人を指そう等貴方らしくもない、偉ぶって味方を喪うのがお似合いでは?」
「あ゛あ!?」
くわっ!と目を見開く金髪青年と、がんばれーとその背後から頭を照らして迫力を付けるアホ狐
「……もう勝手にしてくれ……帰ろうアナちゃん……」
「だから、返さねぇの?分かる?言葉通じてんの?」
「通じねぇのはそっちだろ」
言いつつ、俺は知るかよ!とばかりにメダルを放り投げた
「っ!と、何だこりゃ」
「ワケわからんジェネシックの発動の為のメダルだよ!くれてやるからもうそっとしておいてくれよ!
俺はアナちゃんとイチャイチャしたくてゲームやってたの!巻き込まれたくないの!分かる?」
「……は?お前正気?獅童の側で、未知の力を持ってて、言うに事欠いてそれ?」
すっと、青年の顔から表情が抜け落ちた
「そうだろ!あんな奴等付き合ってられるかよ!」
一息置いて、俺は叫ぶ
「前世で因縁があるなら、君もそうだろ竜胆佑胡!」
「竜胆じゃねぇ。我はもうあいつじゃねぇ、アステールと!世界を支配する!ユーゴ・シュヴァリエだ!二度とその名を口にするな!
ぶち殺すぞ!」
ぶん!と俺の肩口を掠めて、剣状のビットが
こ、こえぇ……何が逆鱗スイッチかわかったもんじゃねぇ
「おやおや、いけませんよ救世主。こんな薄汚いテーブルを囲むさもしい衆に気圧されては
貴方こそ、我等が救世主となるべき方」
キレたユーゴの手からすっと何時の間にかメダルを抜き取り、仮面の男は優しく告げた
「いや、アナちゃんの救世主としてイチャイチャ人生以外で救世主になるとか面倒だし御免だが?」
「……このままでは、その娘も奪われるとしても?
ええ、良き終末は訪れない。寧ろ、貴方もあの灰の忌み子と共に屍を晒す結末を辿り、聖女は奪われ世界は闇に沈む。それが今では当然あるべき結末。より良き終末とはあまりにかけ離れた事態」
「はっ!我等円卓に来れば済むだろそんなもん!変にたぶらかしてんじゃねぇクソ神父!」
やいのやいの、俺達の逃げ場を塞ぐ障壁を貼ったままいがみ合う勝手にやってて欲しい転生者二人。それを見て、ドン引きしたように曖昧に笑う逃げられないアナちゃん
それを見て俺は……ゼノー!こいつら何とかしてくれー!と内心で叫んでいた