蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……止めよ……それは、それだけは、止めてくれんかの……」
ぽつりと呟くのは、おれの膝元で両目を閉ざし尻尾を抱くように身体を丸めた銀龍少女。苦しげな寝息を立てる彼女の翼は、連なったブースターにも見える翼の節の甲殻同士が噛み合い擦れて小さな音を立てる程に強く強く閉じられていた
寧ろ痛いだろうに、そこまでして身体を閉ざし、零れるのも苦悶の声。これがかつて世界を滅ぼした事がある邪龍そのものだとは信じられないような小ささ
が……唇の端から零れるほんの少しの唾液だけでも普通に服に穴空くしおれの皮膚とかいう鋼より傷付け難くなってしまったアホ防御力貫通して爛れる
「……うーん、寝ちゃった?」
「疲れてたんだろう。おれも割と酷いことを頼んでいるし、な」
そんな龍少女の頭を、折れた角を隠すように纏められたお団子ツーサイドアップがほどけた結果強くウェーブした髪を撫でながら、おっかなびっくり語る少女に向けておれは微笑んだ
「っていうか、けっきょくこの娘味方なの獅童君?凄く懐かれてるというか、羨ましいくらいなんだけど……」
膝枕をじとっとした眼で見てくる桜理。だが、流石に実力行使には出ないようだ
「敵だよ、間違いなく。おれはシュリを信じているけれど、それはそれとして敵だ
ぶん殴るし、世界を滅ぼした過去を反省させるし、その上でその手を掴んで引っ張る。今は敵だよ。本当に」
シュリが寝てるから、おれはそう本音を告げ……
「にしてはダダ甘だよね獅童君……誰にもだけど」
ちょっとだけ唇を尖らせて言われて、おれは肩を竦めた
「そういえばだけど獅童君、皆の名前出してたけど、本音としては誰を怪しんでるの?」
「あれか。彼の本体……9割くらい、おれはサルースさんだと思ってる」
ノア姫に言われて来た?早すぎるしまるで彼女から逃げてるようだ。有り得ない
だからおれは、少しでも動きを止めようと信頼出来そうなディオ団長を彼に付けていた。本体というか、今の肉体では動けなければ水鏡で見た仮面の姿で無理矢理出てくるしかないだろう。そして恐らくだが……
「もう一度聞くけどさサクラ。魂を力に変える事は得意でも、AGXってそれ以外は苦手だよな?」
「うん、魂だけで生活する術には乏しくて延命にはあまり使えないって、原作ゲームでも嘆かれてたよ」
「なら、あいつの姿も、魂だけで動いている以上脆い筈だ。何やっても魂が肉体に帰るだけで倒せないだろうが、あの姿は派手には動けない」
「……そっか」
こくこくと頷く桜理
「獅童君は、これから明後日の朝以降、昼くらいに決戦を目処に動くんだよね?」
「ああ、皆に先導してもらって、ユーゴ派を一網打尽にする。それを人質にして何とかアガートラームを落とし、アステールを救う」
けれど、とおれは手を握り締めた
「それよりも、
両方やらなくちゃいけなくて、後者は誰にも頼れないのが辛いところだな」
「……でも、本当に僕の知らない彼がそんなことしてるの?」
「うーん、ノア姫とおれはほぼ確信してるけど、エルフを良く知らないサクラにも分かりやすく言うなら……
彼はより良い結末の為にって来てくれた。それ変じゃないか?」
その言葉に、鶏肉を食みながら少女はフォークを加えた頭をこてんと倒した
「え、変かな?」
「ノア姫から減点されるぞサクラ。基本的にさ、エルフ種って長命だ。ノア姫が直接数百年前の戦いの英雄から寝物語に色々聞いてたくらいには、ね
だからさ、割と思考が気長なんだよ。根気強く付き合ってくれるっていうか、時間感覚が長いというか、あんまり早期に結論を出そうとしない
ま、だからずっとノア姫はおれを見捨てないでくれてるんだろうけど」
本当に感謝しきれないな、と告げながら、おれはシュリに対抗してか軽く食べ終わって肩に頭を乗せに来る桜理の為にかたの埃を払った
「そう、アナタが死ぬまでくらい付き合ってあげるわとか、エルフって割と継続を旨とするんだ
それと、短期的な良い結末のためにってズレてるだろ?エルフにとって人生は長く続き続けるもの。一つの区切りは新しいものに継がれてまだまだ続くっていうのがエルフ思考なんだ。結末をっていうのはそこで区切れて終わりの思考だから、本当に有り得ない」
まあ、それよりグリームニルが良い終末と言ってるらしいのが口調が似てるって方が短絡的に結びつけ易いんだが、それじゃああまりにも表面的だからおれはそう結論付けた
「だから、肉体はおれやディオ団長、魂はシュリが止めてくれればって思ってる」
これでディオ団長=
「……うん。それで、僕は君のために何をすれば良いの、獅童君」
「サクラには……早坂桜理には、君にしか出来なくて、ユーゴの激昂を招きかねない危険な賭けをして貰う」
「賭け?」
「ああ、適宜ユーゴ派を一網打尽にして人質にしたりで相手を追い詰めるけれど、そうした揺さぶりの中でも最高峰の一撃。君にしか出来ない、最後の一手を任せたい」
「うん頑張るよ」
紫の眼はキラキラしていて、曇りがない
「それで、具体的には?」
「あいつが竜胆なら、君とは虐めていたって因縁がある。それを点く
あいつが使いこなせてないから、恐らく何処かで君のアストラロレアXを取り戻せる筈だ。あいつも、おれに否定されたがってるなら君の時計の護りはそう堅くない筈だ。
「つまり、僕に時計の力を使って欲しいの?
でも、アルトアイネスは……」
「いや、そっちは危険だし違うよ。君には早坂桜理として、竜胆佑胡に対して何か思いの丈を叫んで欲しい
あいつは君が何者かは知らない、そして、虐めていた君の事は覚えている筈だ。だから必ず動揺する
危険だけど、やってくれるか?」
おれの言葉に、少女は肩から頭を上げて強く頷いた
「怖いけど、君が望むなら僕は……わたしは頑張るよ。だから必ず勝ってね、獅童君」
「負けるかよ、サクラ。誰にも手が届かないなんてもう二度とごめんだ」