蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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凍てつく荒野、或いは決意の炎

『……これが真実、これが未来だ。お前は、何も救えない』

 荒れ果てた荒野。いや、砕けた瓦礫に埋もれた街であったものの跡地。紅の空の下、傷だらけの異形と化した、体に7本の剣が突き立てられた隻眼の青年が呟く

 その手にあるのは折れた蒼く透き通った刃を持つ刀

 

 「知っているさ、おれ自身が何よりも」

 火傷痕を持つ男に向けて、おれはぽつりと呟き、足を一歩踏み出す

 その踵が、折り重なって事切れた、喉に大きな傷痕を遺した幼い二人の少女の亡骸を踏み越える

 

 「……始水に、シュリ」

 冷たくなった龍少女達の遺骸は何も応えない

 全く、此処でさらっと混じるなんて、意識していなかったが随分とシュリに絆されてきてるのか、おれ。そう思いつつ更に一歩。互いを庇い合うように抱きしめあったまま一本の槍によって串刺しにされた少女達をも超えて、異形の前に立つ

 

 「分かっているさ。だから消えろ、おれの奥底の絶望とやら

 お前が真におれならば、『おれは何も救えやしない』と、今も思っている事を言う筈だ」

 その瞬間、荒野は吹き飛び……

 

 「起きているか」

 「何とかな」

 喉から溢れ出す苦い血を飲み込む。【鮮血の気迫】が発動したのだろう

 眼前に見えるのは少しだけ憔悴したような金髪の青年の顔

 「……ふん、強いことだ」

 「シロノワール、お前は」

 「私にとって絶望の光景とは既に見たものだ。何度見せられても慣れはしないが、当に終わった過去でもある。そんなものに呑まれ凍てつく気はない」

 ……流石は、かつて四天王として人間と殺し合っただけの事はある。のだろう

 そんな彼の手を借りて立ち上がり、周囲を見回す。パリパリとした薄氷が砕けて体から零れ落ちた

 

 「皇子さま、これ……」

 まだアステールに手を翳して腕輪を輝かせているアナ

 「何なんだよこいつ!おいゼノ説明しろ!」

 アイムールが放つ氷炎がフィールドとなって無事なエッケハルト。そして……

 「う、っ……」

 喉元から生えた結晶に血を嗚咽する桜理の姿

 

 「桜理!」

 「……言ったよ、獅童君……。僕は男らしくありたかったって。此処で、逃げたら……女々しすぎるから、さ」

 それを告げた少年(しょうじょ)の体が、薄い氷に覆われる

 爆心地に近いこの場で無事なのは、もうそれだけで……

 

 「……重い」

 いや、違った。咄嗟に庇ったのだろう物言わぬ氷像と化したアウィルの下から、ひょこっとアルヴィナが顔を出した

 

 「いやホントどうなってんだよ!?」

 「救世主さまー!これは一体!」

 遠くでそんな声もする。さっきユーゴを煽っていた元ユーゴ派らしき少女も遠くからなにかを言っている

 

 「……暴走だ。あれが、レヴシステムの暴走」

 見上げた空には、半ば凍りついたアガートラームと……各所から結晶を生やした鬣の機神の姿がある

 

 「……やはり同質の力は浸透してくるものか。アイリス殿下、まだ動けるか」

 「お兄、ちゃん……の、ため、なら……

 あと、少しは……」

 「すまない。少し休んでてくれ。私の方がまだ耐えられるようだ」

 双方共に動きはぎこちない。更には……アガートラーム側は何も言葉を発しない。コクピットのユーゴ自身無事なのか何なのか……

 

 っていうか、アガートラーム中心に更に冷気が拡がり始めているな、これは

 危険な状態か

 

 「我、は……」

 ゆっくりと降下してくる銀腕の、切り裂かれた装甲の隙間からコクピットが見える

 

 「っ!」

 唇を、噛んだ。ぐしゃぐしゃの顔で、おれに手を伸ばす金髪の少年。それは……何処か助けを求めているようにも見えたから

 「竜胆っ!」

 コクピットが完全に凍結する。アガートラームの瞳から光が消え、そして……

 「『我は落陽を到来する者。灰の鐘を鳴らす者

 嘆き、苦しみ、怒り、嗚呼……産まれるとはかくも苦難に満ちている

 ゆ え に』」

 そして響くのは、そんな声。ユーゴのものでも、竜胆祐胡のものでも有り得ない、朗々とした男の声

 

 「『落陽せよ、寿(ことほ)がれよ。我は生誕を否定する。我等は生命を窮聖する。我等は不完全な忌まわしき世界を覇灰する』」

 この声は、やはり!

 「『苦難と苦痛に満ち、終わりに絶望す生を歩まされる悲劇を運命付けられんとする生命達に、産まれ得ぬ真の祝福を』」

 覇灰皇、【窮聖朱】のミトラ!始水が教えてくれた、かつて生きることが辛いならばと全てに死の安寧をもたらそうとした神の言葉!

 

 暴走し、抑えきれず、人々の人生の輝きを信じて当神に封印されたと教えられたあの力……覇灰の力に呑み込まれ、暴走を始めているのか!

 アヴァロン・ユートピア。お前は何時かこうして暴走して覇灰の力が漏れだす事を願って、AGXをばら蒔いたのか!?

 

 そう思うが、即座に奴が再び世界に降臨するようには見えない

 『兄さん、流石に入らせませんよ。七大天が創ったこの世界、我が物顔は許しません』

 と、少し憤慨したように語気が強い幼馴染神様が耳元で告げる

 『勿論、あの毒龍にもです。共に追い払いますよ、兄さん』

 いやシュリ自体は

 『追い払いますよ、兄さん。そして今回、奴を私達が止めている間に、アレを破壊するんです。難しい事ですが、信じていますから』

 

 ……丸投げかよ始水!?

 『私に出来ることなんて、自分の聖女に力を貸すくらいなんですからね?』

 いや助かる!

 『勿論相応の奇跡、あの子の行動が無ければそれも出来ませんが』

 上等!

 

 それだけ会話を交わして、愛刀を手元に呼び戻す

 「……止めてやろう、月花迅雷。ユーゴだって、こんな終わり!認めたくないだろうから!」

 ああ、決めた。一度その息の根を止めてでも!

 

 そう決意した直後、白銀の腕の倨神が歯車が軋むような虚ろで歪な咆哮をあげた

 

 「きゃっ!?」

 遠くで、多くの人々が……爆心地から離れていたから凍らずに済んでいた人々が凍っていく

 各々が苦悶の表情を浮かべ、絶望したように膝を付き、物言わぬ氷像と化していく

 

 「……っ、あ……」

 そして、エッケハルトの目の前で、彼に手を伸ばしたオリハルコンブロンドの少女も凍てついた。手を伸ばしたまま、エッケハルトも固まる

 

 「あ、あ……」

 「みなさん!」

 悲痛な声のアナ。が、凍ってないだけ状況としては彼女は恵まれているだろう

 

 「……なぁ、ゼノ」

 「行けるか、竪神!」

 ボロボロの体を引きずって、擦れた刃が傷だらけの床を更に傷つけるのを無視しながら一歩歩みを進める

 

 「覇灰の力を持つ人類史への死のテーゼ、精霊。止めるぞ」

 「……やるしかない、か」

 「聞けよ!」

 響くのは、そんな言葉

 

 「……こんなの、可笑しいだろ!」

 「この世界はさ、元から可笑しいよ。おれたちが居る時点で、狂い始めている」

 「だからってこんな」

 「それでもさ、護るんだよ。皆が、おれたちが生きる世界だ」

 

 その言葉に、炎髪の青年は静かに己の手を見た。伸ばしても届かなかった、その指先を

 

 「でも、俺は……」

 「……何を迷うておるのかの?」

 ひょい、と凍てついた世界に姿を見せるのは、この地には良く似合う白いコートを羽織る銀色の龍少女

 「シュリ……」

 「お前さん、儂は何もしてやれぬが、無事かの?」

 「それより、君は平気か?」

 その翼は少し寒そうに震えている。 周囲を吹き荒れる絶望の冷気を防ぐ手だては無いだろうに

 

 「心配要らぬよお前さん。儂の心など、当に絶望に凍っておるからの。何も意味など無いよ」

 いやそれはそれでと思うが、今は信じる

 

 「……ゼノ、こいつは?」

 「アージュ=ドゥーハ=アーカヌム【シュリンガーラ】。少なくとも、あいつの仲間ではないよ」

 そんなおれのフォローになってないフォローにあきれたように肩を竦めるエッケハルト

 

 「お前は相変わらず」

 「それで、シュリ?君は何を言いに来た?」

 「つれないの、お前さん。しかし理解はするとも。時は必要であるしの」

 と、あまり怒らず柔らかに微笑んだ少女は、片角を振ってエッケハルトに向き直る

 

 「メダルなど要らぬよ、お主。願うならば、儂の【勇猛果敢(ヴィーラ)】のように、力は常にその手に」

 その瞬間、少しだけ唇を噛んで迷いを浮かべ、けれども青年は凍てつき、虚ろな光を浮かべて起動し始める巨大な銀腕を見上げた

 

 「なあ竪神!お前、俺が居たら勝てるのか!」

 「……何?」

 「勝てんのか聞いてるんだよ!」

 「勝ってみせよう!」

 「なら良い!こんなもん、見てても嫌だからよ!一回だけやってやるよ!」

 そうして、彼は大きく斧を掲げた!

 

 「吠えろ!アイムール!叫べ!引き裂け!

 ジェネシックッ!ティアラァァッ!」

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