蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「あー、おーじさま、起きたー?」
そんな聞きたかった声が耳をくすぐる。ふわふわとした何かが、おれの頭を支えてくれている
凍てついた体には暖かなそれを感じて、おれは薄目を開けた
「アステール?」
「ふっふふー、お早うだよね、おーじさま?」
おれを見返してくるのは、左右で大きく色が違う瞳を持った狐耳の金髪少女。その綺麗な赤い色した左瞳の中には、八つの頂点を持つ星が確かに輝いていた
「っ!アステールっ!」
思わず跳ね起き、その手を握る。あの日取れなかった事を、伸ばして届かなかったことを埋め合わせるように
「ぶー!」
だというのに、握られた手を見て少女は不満げに先っぽが黒い狐耳を左右に流した
「こーいう時は、感極まって抱き締めてくるものじゃないかなー?かんどーの再会って奴だよー?」
あまりの物言いに苦笑してしまう。そうだ、こういうおれをからかうような言動だったって懐かしくて涙が零れる
「……おーじさま、おーじさまに涙は似合わないと、ステラ思うなー
それより、ほらー?」
おれの為に枕にしていた尻尾をフリフリ、さっきまで溶けていたとは思えない気楽さで、おれを責めること無く……っていや可笑しな点では責めてるか。ピントのズレた避難と共に狐少女はその桃色の特注神官服で両手を拡げた。まるで、飛び込んでこいというように
そんなおれ達を、遠巻きに微妙そうな顔で眺めている視線。アルヴィナだ。不満げに帽子を目深に被ってはいるが、アナに肩を擦られて、此方に首を突っ込んでは来ないようだ
「終わった、のか」
「はい、何とかアステールちゃんの体も、形を取り戻させられました」
ふわっと雪のように微笑むのはアナ。けれど何か違和感が……とその全身を見回して気がつく。そうだ、腕輪がない
「アナ、腕輪は」
「あ、それなんですけど」
「奇跡のだいしょー?って奴かなー?」
揺れる尻尾がおれの視界を覆う
「おーじさま、ステラに言うことあるよね?」
「お帰り、帰ってきてくれて有り難う」
「むー、そんなうれしーだけの言葉じゃなくてー?」
言われて少し狐少女の全身を眺める
足りてないものが、あった
「尻尾、一本しかないな。それに片眼にしか星が無い」
「良くできましたー?」
「はい、皇子さま達が取り戻してくれたのは良いんですけど……」
「魂、大きく欠けていた」
と、アルヴィナが続けてくれる
「だから、その魂に合わせて溶けた肉体を再構築し、不完全な姿でしか戻ってこれなかった?」
「そうそう、おーじさまが喜ぶおっきなおっきな、聖女越えのお胸も萎んで」
「それは元々だろアステール」
「そもそも結構あるから十分だアステールちゃん」
あ、エッケハルトの奴が民に囲まれたところから逃げるように顔を出して……ヴィルジニーに手を引かれて輪の中に連れ戻された
「というか、それとこれとは」
「生きていくには足りない欠けた魂。ボクでも、あれは死霊として扱いたくないくらいに傷付いていた」
「はい、奇跡を願って、魔法を使って……流水の腕輪そのものをアステールちゃんに埋め込んで、漸く帰ってきてくれたんです」
嬉しげに微笑み、銀の聖女は告げた
「つまり、エルフの神器そのものが、今のアステールの存在を支えている。だからアナの手にはもう無いってことか?」
「はい、ノアさんやエルフさん達へは貴女達から貸して貰ったものなのにって謝って済むか分かりませんけど……」
「ノア姫なら許してくれるさ、プライドが高くて結構優しいから。それがたった一つの救える手段だったのなら人間の一生分の時間貸しておいてあげるわよって言うよ」
「はい、そうですよね?
でも、どうしましょう。わたしは腕輪の聖女で、あの腕輪ありきで聖女様みたいな事が出来ただけなんですけど……」
頑張ったと言うのにどこか沈み気味なアナ。それを今度は自分が肩に手をおいて慰めているアルヴィナ
それを見ながら、漸くだっておれは息を吐いた
そうして大きく周囲を見回す。拘束されたユーゴ派達。桜理に御免だけど動かないでと止められているユーリが筆頭か。少なくとも今は何も出来ないだろう
完全に沈黙したアガートラーム。破壊しきってはいないが、恐らく再起動する事はない
壊さなかった理由は簡単だ。そもそも破壊できなかった……って程じゃないんだが、データが欲しいのだ
今のところ、おれ達側で調べられるAGXってその系列のフレームを使ったLI-OH、基本沈黙していて調べきれない桜理の
ってまあ、解析するのはアイリス達なんだが
「竪神、状況は?」
「最後、暴走した機神は皇子を天空から落とさないようにか地上に転移し、此方もリミットが来た。殆ど私達が辛くも勝利した時から変わっていない
変わったのは、教皇の娘様が目覚めた事くらいだ」
「うん。有り難う、そういう状況か」
事態は大体理解した
これで、漸くだ。何とか此処まで来た
と、おれはおれにひっつくアステールの熱を感じる
漸く、あの日の君との約束を果たしに来た
そう呟いて腕の落ちた銀腕を見上げるおれの前でコクピットを覆う結晶が砕けて愛刀が落ちてくる。そして、其処にあったろう亡骸が消滅すると……ブラックホールから、憮然とした顔の金髪青年が落ちてきた
おれは彼の首にキャッチした愛刀を、鞘に納めてから突き付ける
「生き返ってきたか、ユーゴ」
「……っ!」
「言ったろう、おれ達の勝ちだ。投降しろ、お前の、お前だけの夢は此処で終わりだ」
首筋に当たる鞘の冷たさ。それを感じてか青年は小さく肩をすくめた。腕時計を回すが、何も起きない
「何で、負けた」
「お前、実は止められたかったんだろ?勝てる訳無いだろ、勝つ気がそもそも無い。おれ達に止められる可能性をわざと残しすぎだ
それで負けたも何も、竜胆?お前も内心勝ってるだろ?」